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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【一】 はじまり -アレサンドロの過去編-
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 空の弓張り月をながめ、ララ・シュトラウスは不機嫌だった。

 今日こそは熱い湯につかり、柔らかいベッドで寝られると思っていたのだ。

「それがなんで仕事?」

 上からの命令は研究施設およびサンプルの警護。

 魔人砦に現れたという、新たなN・Sを警戒してのようだった。

 だがララにとってはそんなことよりも、奪われてしまった自分の楽しみのほうがはるかに重要だったのだ。

 ララはイライラとした手つきで腰のポーチをかきまわすと、キャンディ・バーを一本、無作為に選び取った。

 赤いラベルは、お気に入りのイチゴ味。

「フン」

 まんざらでもないふうに包装をはがし、口にくわえた。

「あーあ。ホント、ついてなぁい」

 言った声は、どこか楽しげだった。



 それと同じ南デローシス城塞内でいま、ユウとアレサンドロは耳をそば立たせている。

 城塞といってももとはただの出城。

 補給庫とL・Jの整備施設だけをそなえた簡易的なものだと、少なくともユウは思っていた。

 それがどうだろう。

 大格納庫を三棟かかえる巨大軍事基地が、ここにはあった。

 このどこかにN・Sがいる。

「間違いねえな」

 スモックを羽織った技術者らしい男たちの立ち話を盗み聞き、ふたりは目顔にうなずいた。

「では、これで」

 技術者たちがふた手に分かれた。

 アレサンドロは、左に折れた男を追う、と手振りで示す。

 それは、頭に白いものがまじった年配の男で、片手に荷物をかかえ持った姿といい、いかにもまだ仕事を続ける様子であったのだ。

 珍しい電気式の照明に照らされた幅広い石積みの通路を、男は足早に、わき目も振らず進んでいく。

 そうして、十分ほども歩いただろうか。

 男は四つ角を右に折れ、突き当たりの大扉をくぐって消えた。

「さて、どんぴしゃであってくれよ」

 アレサンドロは引き戸を細目に開け、中をのぞき見た。

「……チ」

「どうした?」

「ハズレだ」

 ふたりは薄暗い部屋、いや、倉庫に足を踏み入れた。

 天井は高く、二階吹き抜けになっている。

 大小様々な空のケージが、それも何百と並んでいた。

「あそこから上がっていっちまった。まだ奥があるみてえだな」

 アレサンドロがあごで示した先には、なるほど、上階へ伸びる階段と通路がある。

「追うか?」

「そうだな」

 ふたりは一歩、足を踏み出した。

 と、そこへ、

「その前に、扉を閉めてください」

 突如、低い、男の声がしたのである。

「!」

 驚いたふたりが振り向き、開いたままの扉を確認するも人影はない。

 ユウは通路にも顔を出してみたが同様である。そのままそっと戸を閉めた。

「どうも」

 再び、どこからともなく、声が言った。

「余計な騒ぎは、ごめんですので」

「誰だ」

「誰というほどのことはありません。気にせず、先へどうぞ」 

 声は別段感情もなく、淡々としている。

「はいそうですか、ってなわけにはいかねえだろ」

「ホウ。なぜです。騎士を呼ぶような真似はしません。私はなにも見なかった。なにも聞かなかった」

「それを信用しろってのか?」

「はい」

 アレサンドロはひとつ、大げさにため息をついた。

「どうも面倒なことになっちまったな」

「同感です」

「とりあえず、顔を見せねえか?」

「それは、残念ながら……」

「理由は」

「さ、身体的なものとでも言いましょうか。どうしてもと言うなら、そちらからどうぞ。五一二号ケージです」

「ケージ……?」

 ユウとアレサンドロは顔を見合わせ、ホルダーから光石灯をはずした。

 五〇九、五一〇……。

 頭文字「五」は、二メートル四方はある、かなりの大型ケージに割り振られている番号のようである。中はやはり、どれも空だ。

 ただ、五一二だけは違った。

 そこにいたのは白く、丸々とした……、

「鳥……?」

「明かりは消してください。光は苦手です」

 首が百八十度ぐるりとまわり、正面を向いた。

 体高五十センチはあろうかというそのフクロウは、目をしばたたかせ、開いた口がふさがらない様子のふたりに、

「気持ちはわかります」

 と、事も無げに言ったのだった。

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