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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【四】 奮闘 -アレサンドロの未来・中編-
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マイペースフレンズ

「がはははは」

 と、野太い笑い声が食堂中に響いている。

 声の主は、先刻救出された魔人、マンタ。

 かつての戦では剣こそ取らなかったものの、西海の楽園『アルケイディア』や、いまは滅びた幻の都、伝説の王、そんな夢物語を語り聞かせながら、各砦を経めぐり歩いていた男である。

 ゆえに、アレサンドロやクジャクのみならず、当時戦に参加していた全員が知っている有名人中の有名人で、

「そう、あれは我輩が……」

 と、この口調も、子どもたちの間で大流行したものだ。

 マンタは、先のふたりとハサンを相手に、事情聴取ではないが、こうなるに至ったくわしい経緯を語ろうとしているところであった。

「そう、あれは我輩が、デローシスという東の都へ行ったときのことだ。皇帝の居城に勝るとも劣らない巨大な建造物に、世界中の英知を収めたといわれる、数千、数万、いや数億の本が眠っているという噂を聞きつけ、そこへ向かった。我輩はひと月と十三日をそこですごし、立ち並ぶ本という本を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」

 つまり、要約するとこうだ。

 デローシスの中央図書館へふらりと立ち寄った『自称冒険家』マンタは、所蔵されているすべての書籍を読みつくすという途方もない挑戦を思い立ち、その最中、一冊の本と出会った。

 それは、魔人についての記録書のようなものであったと思われるが、マンタの記憶が曖昧でくわしくはわからない。

 とにかくそれを読み、仲間が恋しくなったマンタは、即座に、挑戦を新たなものへと切りかえたというのだ。

 すなわち、『かつての魔人砦をめぐる旅』、である。

「東からはじまり、南、西と……我輩はときに走り、ときに歩き、ときに片足で飛び跳ねながら各地をまわった」

 冗談のようだが、マンタは実に真剣そのもの。片足飛びも事実である。

「そして、いよいよ北も制覇せんとしたところ、なんとトラマル近郊に、イワシの群れのごとき鉄機兵団の大軍勢が!」

 こうしてマンタは、ギュンター・ヴァイゲル軍に捕らわれてしまった、というわけであった。

「それにしても……彼はいつもこの調子か?」

 ハサンがクジャクに耳打ちした。

「四六時中な」

「ンッフフフ」

「時折たずねてくる分にはいいが……」

「三日もすれば邪魔になる」

「フ、フ」

「ク、フフ、フ」

 マンタはその特徴的な口ひげをピコピコとさせながら、その後、牢獄でいかにすごしてきたかを、ややげんなりとしかけているアレサンドロの前で、一大叙事詩さながらに語りはじめたのであった。



 そうして。

 どれほどの時間がたっただろう。

「いやぁ、愉快愉快。さすが我輩」

「ああ、そうだな。そのとおりだ」

「よしよし。ではここからは、恒例のマンタ・ルーレットの時間だ。この指にさされた子が、我輩の次の行き先を決めるのだぞ。我輩の新しい冒険を決めるのだ!」

 そう言うとマンタは、ドラムロールも軽快に、ドン、とアレサンドロを指さした。

 といっても、クジャクとハサンは別の話に夢中で、すでに話の聞き手はアレサンドロしかいなかったのだから当然である。

「君! 名は!」

「……アレサンドロだ」

「よし、アレサンドロ君。我輩の、次の目的地はどこだ!」

 アレサンドロは、はじめてマンタ・ルーレットの当選者となったことに多少どぎまぎとしつつも、さあらぬ態で、あごの無精ひげをさすった。

「そうだな……南西はどうだ?」

 マンムートは南西へ向かっている。

「南西!」

 マンタは、ひとつ大きく手を打ち鳴らした。

「そうか、我輩がなし得なかった九つの冒険のひとつ、『ザンゲッタ火山の噴火口に飛びこむ』を達成せよというのだな! あれは我輩が……」

「待て待て待て、聞かなくてもだいたいわかる」

「馬鹿な……これは我輩が隠匿する、三十の秘密のひとつだぞ……!」

「そりゃ悪かったな。今度ゆっくり聞く」

「では、そうか、N・S! 我輩のN・Sを掘り起こしに行こうという……」

「N・Sだと……?」

 それまで、耳の端に会話を受け流していたクジャクが、身を乗り出して問い返してきた。

「おまえがN・Sを持っているとは初耳だな」

「うむ、あれは我輩が……」

「捨てたのか」

「がはははは、では話して聞かせよう。我輩のN・Sをめぐる、聞くも涙、語るも涙の物語!」



 ……さて。

 ミザールとフェグダ敗北の一報を受けてか、結局、鉄機兵団の追撃部隊は姿を見せず、数時間後には、カラスとサンセットⅡが無事帰還した。

 格納庫において、ユウからおおよその出来事を聞き取ったアレサンドロは、

「無茶したな」

 と、やはり足止めとは言いがたい深入りに苦笑いを見せたが、将軍機二機の破壊は大殊勲と言ってもいい働きである。サンセットⅡの修理用機材を運び出していた男たちも、それと聞きつけて喜びをあらわにしている。

 仕方がねえなと頭をかきつつも、

「これからは勘弁してくれよ」

 アレサンドロは三人の頭を、ぽんぽんぽんと一度ずつ叩いた。

「さ、今日はもうなにもねえんじゃねえかとハサンも言ってる。ゆっくり休んでくれ」

「さっきの、マンタは?」

「ああ、とりあえず部屋をやった。いまごろは、ありがてえことに高いびきってやつだ」

「ありがたい?」

「まあ……おまえらも気をつけろ。昔はそうとも思わなかったが、かなりやべえ」

「?」

「ハ、そのうちわかるさ。とにかく、道中、ちょいと寄り道をすることになるかもしれねえ」

 アレサンドロは苦笑まじりに肩をすくめ、その理由を語り出した。

 それによると、いまをさかのぼること二百年前。マンタは『どこまで川をさかのぼれるか』という冒険に、単身N・Sでいどんだらしい。

 マンタのN・Sというだけに水中を道とし、西海からはじまり、いまも生命の源とされる大河『聖ドルフ』を進み、南部にかかるかかからないかという地点で、なんと、大地震に見舞われてしまった。

 両岸から押し寄せる大量の土砂。マンタに言わせると、

「大いなる黒き魔物が覆いかぶさってきたかのような……」

 という土石流に巻きこまれ、N・Sは川底深くに埋めこまれてしまったという。

 そこでマンタは仕方なくN・Sを見捨て、生身の身体で水中を脱出。いまに至るのであった。

 これまで、それも一興とばかりに放っておかれたN・Sだが、

「それを掘り出しに行くのか?」

「まあ、放っとくわけにもいかねえしな。協力できるかどうかはそのときの状況を見てみねえとわからねえが、どうせこっちも近くを通るんだ。そこまでは乗せていくって話になってよ」

「ああ」

「戦いには出られねえが、子守には最適だ。二号車でブラブラしてもらうことになるだろうぜ」

 と、これには、クジャクとハサンも大賛成であったようだ。

「ま、とりあえずこういうわけだ。仲よくやってくれ。……カラスのほうはどうだ?」

「ああ。修理は、いらないと思う」

「よし。じゃ、行こうぜ」

 アレサンドロは、サンセットⅡ整備のために動きまわる男たちへも、頼むぜ、と声をかけた。

「あ、あたし、サンセットの修理手伝うから」

「おう、じゃ、あとでな」

「オヤツは絶対呼んでよね!」

「その前に昼飯だろ」

「あ、そっか」

 ララの弾けるような笑い声に送られて、ユウとアレサンドロ、モチは、格納庫をあとにした。



「さってと……」

 まずは着替えようか。

 残ったララは、壁に吊られた作業衣から最も小さなものを選び、あると聞かされなければ気づかないような、奥まった場所にある扉を開けた。

 工具室である。

 ただ、いまは更衣室になっている。

 以前は出入りする人間も少なかったため格納庫の真ん中で着替えていたりもしたのだが、L・J整備要員に鍛冶屋の娘などが加わったこともあり、それでは困るということで、急遽そういうことになったのだ。

「フンフン……」

 と鼻歌まじりにそでを通していると、

「ララ、入るよ」

 セレンがやってきた。

 こちらもここで着替えるつもりらしく、手にはそろいの、橙色のつなぎを持っていた。

「派手にやったね」

「ごめん」

「いいよ。壊さないように戦われるほうが嫌だ」

「なおせる?」

 セレンは答えず、ただ口もとに微笑を浮かべた。

 その、わずかに乱れた肌着からのぞく肌が、いかにも柔白い。インドア志向の肌だ。

「だよね」

 と、ララはつなぎのすそを調節し、幾度か屈伸運動をした。

「それよりも、面白いことを言ってたね」

「面白い?」

「ほら、『大地のサンセット』」

「ああ」

 ララは脱いだ衣服をくしゅくしゅと丸め、申し訳程度に置かれた衣類棚へ投げ入れた。

「面白いって、なんかダサくない?」

「そう?」

「セレンは好き?」

「興味はある」

「ふうん……」

「ララもそうだと思ったけど」

「なんで」

「大地はメイサだろ。メイサと言えば……」

「ユウ!」

「そういうこと」

 ……どうしていままで気づかなかったのだろう。

 これは、かなり大きな共通点だ。

「……ん、でも、あれ? ユウとは直接関係ないよね」

「そうでもない。神官は誰でも、神に近づこうとする」

「へ、へぇ……?」

「だからこれ」

 間髪入れず目の前に突きつけられた紙を、ララは一瞬ぎょっとしながらも受け取っていた。

「えと……」

 それは、設計図というよりも、覚え書きといったものである。

 思いつくままにペンを走らせたらしい図入りのそれは、どうもサンセットⅡの改造案のようだ。

「まさか、本格的に、土の中で戦えるようにするとか……?」

「というより、いまは、問題なく戦える範囲に持っていくだけ」

「いまは、ね」

 なるほど、そう見れば確かに、換気口へのエアフィルター追加や関節内部の保護など、マンムートの予備材でどうにかできそうな微改造であった。

「重くなったりしない?」

「上手く調整するよ」

「じゃあ、オッケイ」

「よかった。すぐに図面に下ろすよ」

 普段は無味乾燥なセレンだが、こうしたときだけは目を細め、さっそく、とばかりに更衣室を出て行く。

 ひとり取り残されたララは、まさかずっと待っているわけにもいかず、すでに作業を開始していたメイと、損傷した頭部の修復に取りかかることにした。

 それにしても、先ほどのセレン。

 まわりが見えなくなったときの自分はあんな感じかなぁ、と、ララはなにやら面白い気分で、格納庫への扉を開けた。

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