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ランドスケープ・アゲート  作者: 紅亜真探
【一】 はじまり -アレサンドロの過去編-
11/268

トレース

 硬い。

 身体中が硬い。重い。

『う……う』

 ユウはうめいた。

「……ユウ」

 アレサンドロの声がする。額をつつくのは彼か……。

「おい、ユウ!」

『……ッ!』

 ユウは鋭く息を吸い、覚醒した。

 すぐ鼻先に、血相を変えたアレサンドロが、へばりついている。

 ……へばりついている?

 ユウは目を見張った。

 人並みなオオカミの背中。

 それを貫く刃も薄く、アレサンドロにいたっては、まるで人形のようだ。

 なんとN・Sカラスの目を通し、景色を見ていたのである。

「それが、N・Sに乗る、ってことだぜ」

 アレサンドロはユウが無事らしいと知るや、大きく息をはき、オオカミの肩へと飛び移った。

 そこからはちょうど、カラスの顔を真正面に見ることができる。

「めまい、なんかはねえか?」

『ああ』

「なら横向いてみな。N・Sは、乗り手の動きが、そのまま伝わるようにできてる」

 アレサンドロの言うとおり、ぎりぎりと筋肉がきしみ、視界が変わった。

「な?」

『ああ』

「帝国のもどきと違って、面倒な操作はいらねえが、神経がつながってる分、傷つきゃ痛え」

『いや……痛くはない。なにかが、胸に詰まってるぐらいの感じだ』

「ああ、ツイてるぜ。おまえは乗ったばかりで、つながりがまだ鈍い。おまけにこいつも、脊椎がちょいと傷ついてやがる」

『……』

 要するに、ツイていなければ、いまごろ激痛でショック死、ということもあったということか。

 アレサンドロが心配するはずである。

「で、だ。どうする? 本当は俺がやるつもりだったが……、そのままひとつ、働いてくれるか?」

 はっきりとうなずいたユウの動きも、カラスへと正確にトレースされた。

 なるほど簡単だ。ユウは思った。

「首から上は問題ねえな。指はどうだ?」

『ん……動きそうだ』

 少し硬く、しびれてもいるが、指先一本一本の感覚は伝わってくる。

「よし。とりあえず、二体を離すぜ」

 ユウはアレサンドロの指示を受けながら、硬直するカラスの指を、オオカミの指を、剣の柄からゆっくりと引きはがしていった。

 そうして、どれほどの時間がたっただろうか。

 ぐらり、と、オオカミが揺れた。

『!』

 前のめりになるその腕を、ユウはとっさにつかみかける。

「構うな! おまえは踏ん張ってろ!」

 どっと、水しぶきを上げ、オオカミの巨体が倒れた。

「オオカミはあとだ。おまえはおまえのことだけ考えてりゃいい」

 アレサンドロはカラスの肩に、間一髪、飛びのいていた。

「さて、次が大仕事だぜ」

『ああ』

 ユウは胸に突き立ったままの剣の柄を握り、呼吸を整えて、引いた。

 ずるり。

『う……』

 ずるり、ずるり。

 厚い板が、肉を通っていく。

 感覚はあるのに痛みがない。それが逆に、気味が悪い。

『ッ……』

 吐き気がこみ上げたが、ユウはそれを、ぐっと呑みこみ、残りをひと息に引き抜いた。

 倒れかかる身体を必死で持ちなおし、剣を支えにひざをつくと、

『はあ……は……』

 抑えていた息が、一気にあふれた。

「大丈夫か?」

『……あ、あ』

 アレサンドロも転げ落ちたが、上手く受身を取ったようだ。

「痛みは」

『ない』

 ユウは胸を押さえ、立ち上がりにかかった。

 まだ、オオカミが残っているのだ。

「無理すんな。こっちは俺がやる」

『でも……』

「でも、じゃねえ!」

 有無を言わせぬアレサンドロの迫力に、ユウは二の句が継げなかった。

 ユウの何倍もN・Sに通じている、アレサンドロが言うのだ。

『……すまない』

 アレサンドロは、かぶりを振った。

「謝ることかよ。よくやってくれたぜ。さ、早く降りて休め」

『……』

「どうした?」

『降りかたが、わからない』

 そもそもどうやって乗ったかさえも、記憶にないのである。

 ああ、そうだよな、と、アレサンドロは首をかいた。

「まあ、そう難しいことじゃねえ。要はイメージだ」

『イメージ……?』

「N・Sから降りる自分をイメージする。いや、出る……脱ぐ……ってのが近いか」

 ……漠然としている。

 ユウは首をひねった。

 が、次の瞬間……。

「う、わっ!」

 突然身体が軽くなり、ユウは空中へと放り出されていた。

 なにをどうされた、ということではない。まるで空間を飛び越えたような。

 しかしそれを深く考える暇もなく、ユウは頭から湖へと落ちこんでしまった。

「ぶ、は!」

「ハ、ハハ!」

「アレ、サンドロ……」

「プ、フ、フ。そんな顔すんな。すじはいいぜ。そのうち上手く乗り降りできるようになるさ」

 アレサンドロは再び、腹をかかえて大笑いした。

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