前編 エロ配信中に身バレしてしまった私に何故か高難易度死にゲーが送られてきた
ストレス社会と言われる現代日本。
日々の職務や、学校などの環境によるストレスで、精神的のも肉体的にもおかしくなってしまう人も多い。
だからこそ各々がどうやって自分のストレスを解消するかは大事な問題で、生活に大きく関わる事だろう。
そういう私のストレス解消法と言えば、配信サイトで行う服脱ぎ雑談生放送だった。
人聞きが悪いことは分かっている。ただ、普段は地味な大学生として生活している私にとって、服を少し脱ぐだけでチヤホヤしてもらえるのは、とても気持ちよく、承認欲求が大いに満たされた。
特別に異性との関係が多いわけでもない私は、当然この快感にすっかりハマってしまい、日々の趣味として定期的に夜な夜なちょっとエッチな生放送をしていたわけだ。
ただ、私はパソコンや配信環境といったものに詳しいわけではない。
となると当然、トラブルというものは起こるもので……。
私は、とんでもないことをしでかしてしまい、よくわからない状況に陥ることになる。
◆
その日の私は、相当にイライラしていた。
というのも、大学でのプレゼンテーションがうまくいかず、焦っていたのだ。
もしかすると、今日の失敗で単位を落とすかもしれない。そう思うと、不安感と焦燥感が同時に襲ってくる。
とりあえずコンビニで栄養を全く考えず、食べたいものだけを買いあさり、自分の部屋に帰宅した。
好きなものを好きなだけ食べれば、ある程度のストレスは解消できる。
それで暴飲暴食の限りを尽くしたのだが、それでも今日はまだスッキリしない。
こういう時は……配信だ。
ネットにいるオタクたちは本当にちょろい。
ちょっと肌を見せれば、簡単にチヤホヤしてくれるし、投げ銭だっていっぱい投げてくれる。自分のストレスを解消しながら、お金が稼げるなんてラッキーとしか言いようがない。
パソコンの電源を付け、配信サイトを起動する。
配信タイトルは『みゅうみゅのちょっとエッチな雑談部屋』だ。みゅうみゅというのは私のネット上でのユーザーネーム。ネットで本名なんて出せるわけないから、適当につけた名前なんだけど、案外気に入ってる。
『みなさぁ~ん。こんにちはぁ。今日もみゅうみゅの雑談部屋に来てくれてありがとうございまぁす』
これでもかというぐらい媚びた猫なで声を出す。
媚びれば媚びるほど、この界隈じゃチヤホヤしてもらえる。本当にオタクはちょろい。
コメントを読みながら、少しずつ、服を脱いで肌を見せていく。
大事なのは、一気に脱がないことだ。焦らして焦らして、ちょっと脱ぐ。これが一番承認欲求が満たされる。
ほら、コメントも盛り上がってる盛り上がってる。
ふふっ、この瞬間が私のすさんだ精神を癒してくれる。
『ん~と、じゃあ今日はこれくらいで終わろうかなぁ~。投げ銭くれたリスナーさんありがとっ! 見てくれた人もお疲れ様。え? なに? “もっと肌見せろ”? 嫌でーす終わりまーす。おつかれさま~』
配信を止めて、ヘッドフォンとマスクを外す。
ふぅ……。今日は結構投げ銭貰えたな。
確認したら、数万単位で投げ銭が投げられていた。何割かサイトに持っていかれることを考えても、バイトなんかより何倍も効率がいいだろう。
……ちょっとムラムラしてきた。
配信後には、結構こうなることが多い。やっぱり、画面の向こう側で見ている人が、自分で興奮しているという状況は、こう色々とクるのだ。
……ちょっと致すか。
けたたましいアラーム音で強制的に睡眠から引き戻される。
まだ完全に醒めきっておらず、視界が定まらない目をこすりながら時計を確認すると、既に朝の7時だった。どうやら昨日あのまま眠ってしまっていたようだ。
今日は確か1限目から講義が入っていた筈なので、急いで準備しないと間に合わない。
ベッドから飛び起きて、シャワーを浴び、支度をする。
一限の田中先生は遅刻に厳しい。ただでさえ憂鬱な朝に他の生徒の前で絞られるのはごめんだ。
「はぁ~……」
重い体を引きずりながら、帰路についていると自然とため息が出た。
一限には間に合った。間に合ったのだが……指定されていた課題と教材を忘れてしまい、結局みんなのまえで恥を晒すことになった。
田中のやろう、ねちねちと説教しやがって……。確かに忘れたのは私が悪いけど、何もみんなの前で言わなくてもいいじゃないか。
結局、朝に説教が効いて、私は一日憂鬱な気分で過ごす羽目になった。
うん。やっぱりこういう気分の時は……生放送だな!
私が一回配信すればそれだけで数万お金が入ってくるのだ。そう考えれば、実社会で私を下に見てくる奴らの視線など気にもならない。
そう思うと、気分が高まってきた。
駆け足気味に、自宅へ帰り、靴を脱いですぐにパソコンを起動する。
この陰鬱とした気分を、一刻も早く晴らしたかった。端的に言うと、すごくみんなにチヤホヤされて慰めて欲しかった。
慣れた動作で、素早く配信用の格好に着替える。
準備は万端だ。さぁ始めよう。
しかし、意気込んだ私の気合は、空回りすることとなる。
配信サイトのリンクを開くと、そこには見慣れない文字列が並んでいたのだ。
「『このアカウントは利用規約に違反した為、停止されました』……。え? うそなんで?」
アカウントBAN? でもなんで? 規約に載っているような違反行為はしていないはずだ。
見間違いかと思い、何度も確認したが、そこに書かれている文字が変わることはない。
視聴者と連絡を取り合うように開いていたメールアドレスを確認する。
こちらは元々、配信上の設定が良くわからなかったときに、視聴者に助けてもらう為に公開したアドレスで、ここになら何か連絡が来ているかもしれないと思ったからだ。
メールボックスを開くと、また私は驚かされた。
新着のメールが100件以上も来ていたのだ。
ここまでくると、私にも何かとんでもない事が起こっているという雰囲気が感じ取れた。
粘りつくような不安感を抱えながら、一番上のメールを開く。
そこに書かれていたのは、他のサイトへのurlだった。
反射的にクリックした後、他人から送られてきたurlを不用心にクリックするのは良くないと気づいた。
ウィルスなどが仕込まれている可能性もある。
でも、そんなことにすら頭が回らないほど、この時の私は嫌な予感がしていた。
飛んだサイトは、私が普段配信で使っているところとは別の動画サイト。
そして、urlの動画には、私が昨日配信を止めた後に行った痴態が収められていた。
足元がふらつくような感じがした。
多分、昨日切ったと思っていた配信が、実際にはまだ流されていたのだろう。
そんな中、私はすっかりオフのつもりでやらかしてしまい、そのやらかしの内容が利用規約に抵触し、アカウントがBANされた。
倒れそうになるのを無理やり抑えながら、動画を確認する。
あの時の私はマスクをしていない。もし顔が映っていたりしたら完全に詰みだ。
シークバーをミリ単位で動かしながら、注意深く観察する。
……これは、微妙だ。所々危ないところもあるが、顔全体がはっきりと映っているシーンはないように思える。
だが、油断はできない。ネットにはびこる質の悪い連中は、まさかと思うような部分から個人を特定する。
ネットリテラシーは現代を生きる若者には必須の学びだが、基本的には、こういう時は下手に反応しない方がいい。
実際SNSで炎上した人間たちを何度か見たりしたことがあるが、みんな変に反応して墓穴を掘る形で特定されていた。
私は特定なんてされたくない。しかも、こんな形で有名になってしまったならこのまま人生を生きていける気がしない。
こうなったら、配信業を引退して、一切何にも関わらず、風化するまで待つしかないだろう。
どのみち、このようなことになってしまった状況で、配信をする気にはなれなかった。
あれから1週間ほどがたった。
あれから、外出するときは常に周りの目が気になった。常にマスクが手放せなくなって、自分でも、私は逃亡中の犯罪者にでもなったのか、と突っ込んでしまうぐらいには、周囲を気にしていた。
まとめサイトなどで、私の一連の放送事故もまとめられてしまったようで、その記事にも結構なアクセスがあるようだった。
だが、今のところ、家に凸られたり、知らない人に声をかけられるなんてことはなかった。
どうやら身元はバレていないようで、安心した。
動画も消そうと色々調べたのだが、一度ネット上にアップロードされた動画を消しきるのは簡単ではなく、手順を調べただけで、私には到底無理だと悟った。
コーヒーを入れて、気分を落ち着かせる。
今日は休日でまだ朝なのだが、外に出る気にはならない。
どうしてこうなってしまったのか。考えが頭の中でまとまらない。
そして、何より私を困らせていたのは、こんな状況になっても消えない“配信欲”だった。
今でも配信したら、私のファンは慰めてくれるんじゃないか。チヤホヤしてくれるんじゃないか。
どれだけ私の承認欲求は強いんだと自己嫌悪になりそうだ。
――ピンポーン
びくっ、と体が跳ねた。
誰かが私の部屋のインターホンを押した。
私は恐る恐る来訪者を確認すると、そこには配達業者の人が立っていた。
「お届け物です」
何だろう? 私は何も注文したりしていないのだが……。もしかしたら実家の母が何か食糧でも送ってくれたのだろうか?
段ボール箱を受け取り、ハンコを押す。
箱を持った感じだと、ぎっしり中身は詰まってはいない。
揺らすと、カタカタと音がした。
母が仕送りしてくるときは、これでもかとぎっしり詰め込んでくるので、実家からの仕送りではなさそうだ。
「差出人不明……?」
一気に嫌な予感がした。
ゆっくりと箱を開けると、そこには一枚の紙が入っていた。
『これを使って配信しろ。しなければ住所を晒す』
血の気が引いた。
私がバレていないと思っていただけで、実際は私の住所は特定されていたんだ。
世の中には、窓から差し込む光の角度や、目に反射する部屋の内装で、住所を特定するような人間がいる。
私が気付いていないだけで、私のやってきた配信には、特定するための材料がそろっていたのだろう。
もう一度紙に書かれた内容を読み直す。
重量から行って、多分中に入っている物はアダルトなおもちゃだろう。
ネットで調べたら、私と同じような境遇の人がいて、その人は自宅にアダルトグッズを送り付けられて脅されたそうだ。住所が特定されているという事は、いつ家に押し入ってきて襲われてもおかしくない。
事を大きくしたくないという女性の心理を利用した卑劣な行為。
とうとう私にもそれがきたんだ。
意を決し、上に被せてある紙を取る。
何が出るか。バイブか、ローターか。それとももっと変態的なおもちゃか……。
「へ……?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは、出てきたものが私の予想を大きく外れていたからだ。
そこにあったのは、ゲームソフトだった――。