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王妃殿下のプレゼント



あの殿下の突撃訪問の次の日のことです。


殿下は本当にいらっしゃいました。

先日はそれほど暇なのか、などと思ってしまいましたが、そうではなく母君のことをそれ程までに大切にしているのでしょう。



「エリス嬢、先日の件だが」


「王妃殿下へのプレゼントでしたね。

どちらへ行かれるかはもう決められているのでしょうか?」


「あ、あぁ。

一緒に行ってくれるか?」



殿下がどこか心配そうに私を伺うのは私がこの方を避けていたからでしょう。

ほんの少しとはいえ、それが伝わってしまったのでしょうね。

今考えてみると、本当に申し訳ないことをしました。

とはいえ、今もあまり関わりたくはないと思っていますが。



「勿論です。

出来る限り尽力させていただきますわ」



私はそう言って微笑みました。

ルアンが殿下の学友をしている以上、私が全く関わりを持たないというのは無理でしょうから。

カイン様には嘘を口にしてしまったようで申し訳ないですが。

私から関わろうとしたわけではないので許して欲しいところですね。



「そうか!

ありがとう、エリス嬢」


「殿下、エリス嬢と呼ばずにエリスと呼べばいいじゃないですか。

ねぇ、エリス?」



この従弟は、やはりというべきか私と殿下の距離をどうしても縮めたいようです。

私が知っているルアンはもっと可愛らしかったのですが……。

いつの間にこのような性格になってしまったのでしょうか。

従姉として心配になってきます。

昔は私の後ろをついて回る、可愛らしい子だったのに、それだけが残念です。



「お好きにお呼びください、殿下」



殿下から求められるような視線を受け、断れるのは相当な勇者でしょう。

少なくとも、私には無理でした。

断ったとしてもすかさずルアンが何か言うでしょうし、断っただけ無駄になりそうだった、ということもありますが。



「では、エリスと呼ばせてもらおう」



嬉しそうに笑うのは、殿下が私と友人になりたいと、そう思っているからなのでしょう。


話も早々に切り上げ、私と殿下は街へと繰り出しました。

ルアンやカイン様が着いてくると思ったのですが、用事がある、と口にして離れてしまいました。

殿下の側近がそれでいいのでしょうか?



「エリス、聞いていいだろうか。

王族が嫌いだと、そう聞いたんだ。

何があったんだ?」



これは、確実にルアンでしょうね。

人のことを勝手に話すなど、今度また注意しなければなりません。

その前に、殿下の問いに答えなければいけませんが。


殿下が全くの無関係、というのでしたら適当にはぐらかすのですが、避けてしまった以上、無関係とは思われないでしょうから。

殿下には知る権利があります。



「……私は、エールのキース王子の婚約者でした。

それはご存知ですよね?」


「あぁ。

そして、婚約破棄したのだと聞いているが」



あの夜会で殿下のいる前でそのような話をしましたし、知っているのも当然でしょうね。

エールは王子の評判を気にしたのでしょう、婚約破棄の主な原因については公表しませんでした。

ただ、それももう持たないでしょうが。

あの方が次期国王という時点で既に終わっています。



「私は、あの方と共に歩んでいくのだと、そう思っていました。

そのために、厳しい王妃教育も受けてきましたし、あの方の敵となりそうな貴族を少しでも減らすために奔走してきました。

フィーリン商会も、王家の顔となれば表立って貴族達が反抗出来ないだろうという思いから動かしてきたつもりです。

例え、自分の時間が潰れようともあの方の、国のためとなるのならば良いと、そう思い行動してきました」



あの頃はまだ、あの方もそこまで酷くはありませんでした。

だからこそ、私はあれ程までに奔走したのですから。

いくら王妃殿下に頼まれようと、頑張ることすらしない方ならば、私は何もしなかったでしょう。

一体、どこで間違えたのでしょうか。



「ですがその間に、殿下はラミアとかいう男爵令嬢に肩入れし、努力することをやめてしまいました。

それでも、いつかはあの頃の殿下に戻ってくださると信じていたのですが、その前に婚約破棄を申し付けられてしまいました。

それも、ラミアという方へのいじめなどというやってもいないことを理由にして」



本当は、全て告げたかった。

今までのことを、私がどれだけ奮闘していたのかを。

ですが、あの方の幸せそうな表情を見て、私にゴミでも見るような視線を向けているのを見て、全て無駄だったのだと気づいてしまいました。



「私は、諦めてしまったのです。

殿下はもう、私の知る殿下ではないと、早々に見切りをつけていたのです。

それを、いつかは戻ってくださる、そう思うことにして。

私があの方を見捨ててしまった時点でもうこの結末は決まっていたのだと思います。

ですが、それでも私は認められなかったのです。

私がやってきた全てが否定された、そんな気がして。

そんなわけで、私はまた、同じように裏切られ、否定されるのではないかと思い避けてしまったのです」



王族が苦手なわけではありません。

王族を通してあの方を思い出すので関わりたくはない、というのが正しいでしょう。

そして、また否定され、無かったことにされることを、私は恐れているのです。



「そうか……」



私の話を聞いた殿下はただ、静かにそう口にしました。


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