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殿下の訪問



翌日、私はこのエリンスフィールへと本店を移すために準備をしていました。

場所の確保や店の外装、建設工事の手続きなどやることは多いです。


そんな時、ルアンが焦ったような表情を浮かべ、私の部屋へと駆け込んで来ました。



「エリス!

ごめん、今すぐ逃げ……。

あぁ、間に合わない!!」



ルアンの表情とその焦ったような様子に何事か、と身構えたその時です。

今度は下からお爺様の声が聞こえてきました。



『で、殿下……!?

何故こちらに……!

いえ、孫は今、部屋から出られる状態ではなく……!?』



どうやら殿下が突撃訪問をして来てしまったようですね。

興味を失われたと思ったのですが、私の読みが甘かったようです。

それとも、また別のことでしょうか?

とりあえず、元凶であろうルアンを追い出し着替えましょう。



「はぁ……。

仕方ありませんね。

ルアン、後で詳しいことを聞かせてもらいます。

支度をするので、退室を」


「うっ……ごめん、エリス姉さん……」



ルアンがエリス姉さんと私を呼んだのは六年前以来です。

それまで私のことをエリス姉さんと呼び、慕ってくれていたというのに突然エリス、と呼ばれ少なからずショックを受けたのを覚えています。


それを今、再びエリス姉さんと呼ばれるとは。



「とりあえず、ルアンは私が行くまで殿下のお相手をしていてください。

出来るだけ急ぎますので」


「分かった……」



ルアンが落ち込んだように肩を落としているのを見ると少し申し訳なく感じてしまいます。

まぁ、面倒なことを押し付けるような形になってしまいましたが、もとはと言えばルアンが原因でしょうし、このくらいはしてもらいましょう。


ルアンが退出した後、私は急いで着替えると、殿下の待つ部屋へと向かいます。



「お待たせしてしまい、申し訳ありません殿下。

本日はどのようなご要件でしょうか?」


「あ、あぁ……。

その、突然来てしまい申し訳ない。

もうすぐ、母上の誕生日なのだが、その時に贈るものを……と思ったのだ。

母上はフィーリン商会のものをよく望まれていたから。

エリス嬢の商会にそういった物は置いていないか?」



どうやら、ルアンが原因なわけではなかったようです。

申し訳ないことをしてしまいましたね。

日頃の行いが悪いからなのですが。

後で謝っておきましょう。


にしても、まさか王妃殿下のお気に召されているとは思ってもいませんでした。

これならば、店の移転もすんなりいきそうですね。


それに、殿下の目的は私の商会で取り扱っている商品の方でしたか。

それでしたら、準備中の本店へ行くよりも会頭である私の方へいらっしゃるのは当然と言えるでしょう。

ただ、事前に連絡を頂きたかったですが。



「ありがとうございます。

ですが、どのようなものをご希望でしょうか?

私の商会では、お菓子や娯楽品といったものを中心に取り扱っているのですが」


「母上はチーズケーキとクッキーが好きなんだが……」



チーズケーキとクッキーですか……。

確か、一度本店でチーズタルトを販売したことがあったような気がしますね。

タルトでしたらクッキーの食感とチーズが味わえますし、お気に召されるでしょう。



「いつお届けすればよろしいでしょうか?」


「再来週に頼む」


「承知致しました」



話はここで終わり、私はそう思っていたのですが、殿下はまだ帰る気が無いようです。

私としてはさっさと帰っていただきたいのですが。

商会のことを考えたいですし、先程の殿下からの依頼についても頼みたいですから。

それに、王族の方との関わりは最小限に抑えたいですし。



「エリス嬢、済まないが母上へ贈るものを一緒に選んで貰えないか……?

女性の意見が聞きたいのだが……」


「私の……ですか。

私で宜しければ喜んで」



ついでに本店を構える場所を見たいですし。

本来は一人で行く予定だったのですが、『王妃殿下のため』、などと言われてしまえば断れませんから。

それに、後日にしてもらえればケーキの試食という形で最終確認もしてもらえますし。



「ありがとう、エリス嬢」



その殿下の笑顔に、これは、他の令嬢から人気があるわけですね、と思ってしまいました。

あのバカ王子とは違って。

バカ王子とは比べ物になりません。

あの方はもっと鳥肌のたつような笑顔を浮かべますから。

あれはある一種の才能だと思うのです。

まぁ、そんな才能は要りませんが。



「殿下、そろそろ戻らなければならないのでは?」


「ん……そうだな。

では、エリス嬢、また明日くる」


「承知致しましたわ」



ルアンが珍しく良い仕事をしてくれました。

それにしても、明日とは……。

王子ともあろうお方が余程暇なのでしょうか?

そんなことはないと思うのですが。

……きっと、それ程までに王妃殿下のことが大切なのでしょう。


殿下がお帰りになった後で、ルアンが苦笑しつつ、私の問いに答えてくれました。

質問はしていないはずなのですが、この従弟には分かってしまうようです。



「殿下は、エリスと友人になりたいんだよ。

エリスは殿下の周りにはいないタイプだし。

まぁ、王妃様がフィーリン商会のものを気に入っているっていうのもあるかもしれないけどさ」


「……私は、王族とはあまり関わりを持ちたくないのですが」


「殿下はかなり執拗いから早々に諦めた方がいいと思うけど。

ああ見えて意外とウザいんだ」



面倒ですね。

執拗い、というのは王族の方に多いので仕方ないかもしれませんが。

私とバカ王子の婚約を結ぶ際も王妃殿下と国王陛下があの方のために何度も頭を下げにきたくらいですもの。

今思えば、私はあのお二人の誠意と懇願に負け、婚約を受けたようなもの。

今頃、あのバカ王子はお二人に叱られている頃でしょうね。


ですが、一応とはいえ自国の王子に対し、ウザいや執拗いとは……。

それ程の信頼関係を築けている、ということなのでしょうか。



「キースって王子のことは分かるけど、殿下とは違うよ、エリス。

だから、殿下のことをちゃんと見てあげて欲しいんだ」


「えぇ、当然ですわ。

私が王族の方を避けるのはあの方との婚約だけが原因なわけではありませんもの。

私はただ、王族の方と関わって面倒事に巻き込まれるのが嫌なだけですから。

他の令嬢方の視線がかなり痛いですし、いざという時にフィーリン商会の者が暴走して王族の方に何かしてしまうかもしれませんし……」



私が王族と関わりを持ちたくない本当の理由を話すのは初めてかもしれませんね。

その相手がルアンというのもアレですけれど。

フィーリン商会の問題を起こしそうな人についてはルアンも知っていますから。

何度か手伝ってもらうこともありましたし。



「そっか。

なら、僕は殿下に協力するよ。

……まぁ、あの人達に暴れられない程度に、だけど」


「……お好きにどうぞ」



面倒が嫌だから避ける、というのはダメだと分かっているので、ルアンの言葉にはそう口にするしかありません。

本当ならば、お断りしたいのですが、ルアンが許してはくれないでしょうし。


……友人くらいでしたらいいでしょう。


ただ、あの方達が暴走しないよう気を付けなければなりませんが。

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