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エリンスフィールの夜会


カイン様と踊り終わった私は、今度こそ壁の花となっていようと思ったのですが、大変困ったことになっています。



「エリス嬢、私と踊ってくださいませんか」



と、何故か熱の篭った視線を向けてくる、エリンスフィールの王子。


できる限り王族とは関わりたくないと、そう思っていた矢先のコレです。

私の運は何故こうも悪いのでしょうか。

何故こんなことになってしまったのか……。

と、まあそれは、あの従弟のせいでしょうね。



「エリス嬢……?」



いけませんわね、殿下をお待たせしてしまうなんて。

確かに王族とは関わりたくないと思っていたのも事実ですが、いくら何でも放置するのはいけません。

王族からのダンスは受けるしかないのですが。



「お受けいたしますわ、殿下」


「っ……ありがとうございます」



嬉しそうに微笑む殿下はあのバカ王子とは全く違います。

にも関わらず、関わりたくはないと思ってしまうのはやはり、あの件があったからというよりも面倒だから、なのでしょうね。


とはいえ、興味を持たれてしまった以上、早々に突き放しておいた方が後のことを考えるといいでしょう。

もしくは、店のために動いてもらえるよう、いっその事近付くか、ですが面倒なのでお断りしたいですね。

まぁ、王族の方からの誘いを断るのは失礼ですし。



「エリス嬢、その……済まなかった」


「何がでしょうか……?」



踊り始めて早々に謝罪を受けました。

しかも、謝罪された理由が分からないのですが。

それは一体、何についての謝罪なのでしょうか?



「私と踊りたくはなかったのではないか、と思ってな。

……ルアンから聞いた。

謝罪しよう」


「そう、ですか。

……ですがあの方については、私にも責がありますわ。

全ては私が諦め、見捨てたのが悪いのです。

ですから、殿下に謝罪される理由はありませんわ。

話を聞いた件でしたら、殿下よりも話したルアンが悪いのですし……」



よくよく考えてみると、バカ王子のみが悪いわけではありませんでした。

私がちゃんと、バカ王子を見捨てずに注意をしていれば、もっと頑張っていれば……。

もしかしたら、そう思ってしまいました。

自分が見捨てておきながら人のせいにするのはやはり、ダメなのだと思います。


ただ、私の許可なく話したルアンに対しては後で少々お話が必要なようではありますが。



「……残念ながら、そうとも言えないのだ。

私の母と、アレの父は従兄妹にあたる。

私は認めたくはないが、アレとは再従兄弟という訳だ」


「……それでも、です。

先程私が返答に困ってしまったのは、シャルート様に、ルアンを利用して、殿下やシャルート様に近付こうと思っていない、と口にしたものですから」



笑顔で口にすると、殿下は安心したように微笑んだ。

ズキッと私の良心が痛んだのは、私が殿下を突き放そうとしているからでしょう。



「私からも一つ、よろしいでしょうか?

殿下、何故私をダンスにお誘いに?」


「そ、それは……エリス嬢が美しいと思ったからだ。

ルアンからも話を聞いていて、気になっていたしな。

それに……再従兄弟の件を謝罪したかったのだ」



……やはり、ルアンには後で文句の一つや二つ言っておきましょう。

私が王族と関わりたくないと思っていることは知っているはずですし、それを知っていてこのようなことをしたのですからそれくらいは良いはずです。


ですが、あのバカに再従兄弟がいることは知っていましたがまさかエリンスフィールの王族だったとは思っていませんでした。

特に調べようともしなかったのですが。

まさか、こんな所で出会ってしまうとは……。



「……私は、殿下が思っているような人間ではないと思います。

先程言ったように、私は人を見捨てるような人間ですよ?」


「私はそうは思わない。

エリス嬢は、諦め、と言ったな。

それは、諦めるまでは改善させようと頑張っていた、ということだろう?

それでも改善出来なかった。

ならばそれは、ロクに聞こうともしなかったアレが悪いという事だ。

エリス嬢、よく頑張ったな」


「っ……」



この方は、一筋縄ではいきそうにありませんわ。


……まさか、あんな言葉を投げかけられるとは思っていませんでした。

少し、少しだけですが、この方とならば友人になってもいいとさえ思います。



「……殿下は、変わられていますね。

私にそのような言葉をかけた方は殿下が初めてですわ」


「そうか」



殿下が口元を緩ませてから少しして、曲が終わる。


踊り終わった後、殿下は私から離れようとはしませんでしたが、そのおかげで余分な面倒事は避けられました。

その分、殿下の話し相手にならなければなりませんでしたが。



「エリス殿……?

まさか、本当にここにいるとは……」



そんな中、話しかけてきたのは私の作った商会の取引相手でもある方でした。

一瞬、殿下が嫌そうな顔をしましたが、私には関係ありませんのでスルー致します。



「カルナーク様、お久しぶりですわ。

丁度、お話しなければいけないことがありましたの。

よろしいでしょうか?」


「ほう……。

何でしょう?

エリス殿のお話とはとても興味深い……。

あのフィーリン商会を一から創りあげた方ですからな。

それにしても、何故フォーリア家のあなたがエリンスフィールへ?」



カルナーク様はこの国の宰相を務めているお方なのです。

家柄ではなく、その実力を認められ宰相となったこの方が、私は恐い。

御自分の利益よりもこの国の利益を優先するこの方が。

ですが、取引相手として、ここまで良い存在はいません。



「申し訳ございません。

エール王国の王子、キースとの婚約は破棄されてしまいました。

カルナーク様の望まれていた、エールの王族との伝手は、得られなくなってしまいました」


「そのようなことでしたら気になさるな。

エールの伝手が欲しかったのは事実ではあるがな。

そんなものより、エリス殿の方が余程重要だ。

エリス殿がこの国の貴族と結ばれてくれた方が余程有難いのだが」


「あら、それはどうでしょう?」



正直、驚きましたわ。

宰相ともあろうお方がエール王国をそんなものと切り捨てるなんて思いませんでした。

それよりも私の商会の方が余程利益となる、そう思われたのでしょうね。



「カルナーク公爵、貴方はエリス嬢とお知り合いだったのか?」


「エリス殿はあのフィーリン商会の会頭ですからな。

個人的にも何度か取引させていただいております」



フィーリン商会、それは私が3年ほど前に立ち上げた商会です。

貴族を中心に人気が出たおかげなのか、私自身の価値も上がったのは有難かったですね。



「なっ……。

あのフィーリン商会のか!

そんなエリス嬢を手放すとは……。

エールの王子は余程頭が弱いのか……」


「あの方は、国の利益については何も考えず、御自分の感情に従って動くような方でしたから」



キース様のお心を仕留められたラミア様には感謝しかありませんわ。

そう口にする私の表情は晴れやかだったことでしょう。



「エリス、そろそろ帰る?」


「えぇ、そうさせていただきますわ。

殿下、カルナーク様、お先に失礼致します」



ルアンの救いの手を取り、私はお二人に挨拶をして立ち去りました。

ただ、その際、ルアンが殿下に何かを吹き込んだようで、殿下の顔が赤く染まっていたのが気になりますが。



「ルアン、先程殿下に何を吹き込みましたの?」


「ちょっと、ね?

エリスは気にしなくていいよ」



ルアンが気にしなくていい、などと口にする時は大抵何かある時です。

従弟の策略にでもねじ込まれたのでしょうね、私は。

従姉でも使えるものは使うルアンの姿勢には驚嘆しますが、巻き込まれる側としてはやめてもらいたいものです。



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