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夜会に出席致します

あの婚約破棄から3日経ち、私は既に祖父の居る隣国、エリンスフィールにいました。

あの後、すぐに荷物をまとめ国を出たからこその速さです。

ついでに、私が主体で運営していた商会についても撤退させることを決めました。

とは言っても、菓子や娯楽品といったものを扱っているだけの店なのでそんなにもダメージはないでしょうが。

精々、税収が下がるくらいで終わるでしょう。

祖父母に事の顛末を話すと、2人は私を歓迎してくれました。

両親もそのうちこちらに来るとのことです。

もっとも、公爵家ですからそう簡単にはいかなそうではありますが。

「エリス、ここに住むのならばせめて、今日の夜会には出席しなさい。

ドレスや靴は既に用意してある。

エスコートは……」

「僕がやるよ」

そう言って、私のエスコートをすることになったのは2つ歳の離れた従弟、ルアンでした。

従弟を選んだ理由は、私をエスコートしても角が立たないからなのでしょう。

あまり夜会には出たくはありませんが、この国に本店を移すにあたり、貴族の方々との交流は必要なものでしょう。

そのためにも、この夜会には出なければなりません。

「分かりました、お爺様。

エスコート、よろしくお願いしますルアン」

「うん、任せて」

そんなこんなで急遽夜会への出席が決まった私は水色のドレスを身にまとい、ルアンにエスコートされています。

令嬢からの視線が多いのは、それだけルアンが魅力的だということなのでしょう。

「エリス、この国の貴族は分かる？」

「名前と爵位、領地とその地の名産品についての書類を渡されましたから頭の中に全て入っています」

「……うわ、何その記憶力。

我が従姉ながら怖いんだけど」

「貴族として、この程度の事は当然です。

それに、王妃教育もありましたから」

「……それは、自国の貴族と他国の公爵くらいが普通だと思うんだけど」

私もルアンも微笑みながらそんな会話をする。

表情からは全く想像出来ない会話ですが、従姉弟なので仕方ないでしょう。

「エリス、一曲私と踊って頂けませんか？」

「えぇ、喜んで」

夜会が始まって早々にルアンからの誘いを受ける。

それにしても、ルアンはあのバカ王子とは違い、ダンスが上手いですね。

いえ、あの方と比べるのは失礼でしたね。

アレと比べてしまえば誰であろうと上手いと思えますもの。

「エリス、叔父上から伝言。

『もしも、誰か好きな人が出来たのなら私が支援しよう。

だが、一年以内に決めないのであれば、その時はこちらが決めた相手と婚約してもらう』

だってさ」

婚約、ですか。

まぁ、誰であってもあのバカ王子より下はないでしょうし放置していても良いような気がします。

好きな方が出来たのならばその時は動きましょう。

「まぁ、そういうわけだから頑張って。

じゃあ、僕は殿下の所に行かないといけないからまた後で」

ルアンは私と踊り終わると、それだけ口にして去ってしまった。

好きな人、とは言われても困るのですが。

今まで政略結婚を、と思っていましたのにいきなりそんなことを言われましても。

……ですが、恋愛結婚に憧れを抱いていたのも事実。

頑張ってみましょう。

「こんばんは、お嬢さん」

「……こんばんは」

「私はカイン・シャルートと申します。

貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか？」

「エリス・フォーリアと申しますわ」

目の前の金髪の男は笑みを浮かべると、私に手を差し出してきた。

それは、ダンスの誘いである。

ここで断ってもいいのですが、ここは大人しく受けておきましょう。

この方が私の思っている方と合っていれば、情報を得られそうですし。

それに、断るとかなり目立つことになりますから。

……既に他の令嬢達からの視線が痛いのですが。

「意外だな、君のような人は断ると思ってたんだけど」

「あら、断って欲しかったのですか？」

「まさか。

ところで、ルアンとはどんな関係なの？」

「ルアンはただの従弟ですが……。

あぁ、ご安心を。

貴方やルアンの主に近付くために、という訳ではありませんので。

むしろ、王族の方々とはお近付きにはなりたくありませんし」

「……それは、何故？」

薄々気付いてはいましたが、この方は物怖じしない性格のようです。

普通であればこの辺りで会話を切るというのに。

そして、少し無理をしているように感じるのは何故でしょうか。

この場の空気が苦手なのでしょうか。

いえ、だとしても私に出来ることはありませんし考えるのは止めにすることにします。

「とある国の王子に散々な目に合わされましたの。

その件以来、少々王族とは関わりたいとは思いませんの」

「……ふーん」

カイン様は興味深そうに声を漏らした。