本店の状況は……?
私達は、王都に着くと、早速本店へと向かいます。
すると、本店の前には多くの貴族方で溢れかえっておりました。
「これは……どうかしたのでしょうか?」
近くの従業員を捕まえて尋ねると、普段ならばありえない答えが帰ってきました。
「オーナー!!
た、助けてください……!
本店移動の旨を張り出したところ、こんな状況に……!!」
多少の暴動は起きるかもしれないと思っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。
これは、私の責任でもありますね。
……勿論、どこかのバカ王子に押し付けますが。
「ハーネス、ルーファス……お願いします」
「はい」
「承知致しました」
全てを語らなくても分かってくれたようです。
ハーネスとルーファスの二人は中央への道を開けてくれます。
二人が開けてくれた道を通り、私は前まで来ました。
「オーナー、お待ちしておりました」
「エリス殿、本店を移動するとは本当なのか!?」
「フィーリン商会がエールから消えるとはどういうことだ!」
分かってはいましたが、流石にこれでは他の店の妨害になってしまいますね。
さっさと押し付……対処しましょうか。
「その件ですが……本店の移動の件でしたら事実です。
二号店でしたら、こちらに残すつもりですのでご安心を」
「本店でしか買えぬ、タルトはどうなるのだ!?」
「妻の好物を買えなくなる……!!」
……貴族の男性方には死活問題のようです。
どうやら、フィーリン商会の甘味はご機嫌取りに丁度いいようですね。
「ですが、そうは言われましてもキース殿下がまた何かしてくるかもしれないという状況下での経営は出来ません。
キース殿下からの婚約破棄の件もありますので、この国に本店はおいてはおけません。
あの方は、無関係となった私がこうして商会をエールに置いておくことを許さないでしょう。
それが、先日の件に繋がったのだと、私は考えております。
そのうえで、まだ、本店を置いておけとおっしゃるのでしょうか?」
これを聞いた方々は少なくとも、本店の移動はどこぞのバカ王子のせいだと考えるでしょう。
私が今回こうして出てきたことにより、先日のアリスへの暴行を噂程度でしか知らない方達も真実だと思われるはずです。
そして、私の言葉からして、私が従業員を大切にしているということ、そして従業員を守るためであれば本店の移動さえもするということを印象付けることが出来たでしょう。
それだけで、従業員達や貴族方からのイメージは上がり、反対にバカ王子の名は地に落ちる。
一石二鳥ですね。
「アレが原因か……」
「我らルースベル公爵家は王家への援助を断ち切ろう」
「……はい?」
「私の家もだ!」
「では、私も……」
次々と貴族の皆様が王家への援助を断ち切ることを口にします。
……何故、こうなったのでしょうか?
いえ、それよりも……何故ルースベル公爵家の方がここにいらっしゃるのですか!?
「……本店の移動は決定ですが、場合によっては本店限定でしたタルトの販売を二号店でも……と考えております」
「それは本当か!?」
「ならば、まだ……」
「これで助かった……」
……最後の方は何があったのでしょうか?
助かったとは……それほど怖い方がいるのでしょうか。
「オーナー、そろそろお時間ですが……」
「分かりました。
では、皆様、今後もどうかフィーリン商会をご贔屓に」
最後にそう言って下がると、私は深く溜息を吐きました。
私が考えていたよりもフィーリン商会がこの国の上層部に深く根をはっていたこともそうですが、皆様、どうも奥様や娘に甘すぎはしませんか?
まさか、国とフィーリン商会を天秤にかけ、フィーリン商会をとるとは思いませんでした。
誤算ですね……。
「オーナー、少しご休憩されますか?」
「いえ、問題ありません。
今のうちにやっておかなければならないことがありますから。
それに、アリスがいない間の仕事も溜まっているのでしょう?
他の者には出来ずとも、私ならば片付けられるはずです」
「それはそうですが……」
「エリス様、だからと言って貴女が倒れてしまっては困るのです。
少し休んでください」
「ルーファスの言う通りです。
それに、一度休んでからの方が集中力も上がるのではないでしょうか?」
確かに、この状態でやったとしても集中出来るとは思えません。
ならば、少し休んでからやった方が早く終わるでしょう。
何より、上の者が休まなければ下の者も休めません。
自分のことばかりで周りのことが見えていませんね……。
「そう、ですね……。
少しだけ、休ませてもらいます。
話はそれからでもいいですか?」
「はい、勿論です」
こちらの都合で引き伸ばしてしまい申し訳ありませんが、その分溜まっている仕事を手伝うことにしましょう。
部屋へ行くと、私はルーファスとハーネスに声をかけます。
「ルーファス、ハーネス、貴方達も交代で休むようにしてください。
それと、もしニールが来たら通すようにお願いします」
「はい」
「……承知致しました」
ハーネスの返事が遅れたのは、『休む』という部分のせいでしょう。
私を主と仰ぐハーネスは、休憩をとらずに働き続けるということが多々ありますから。
何でも、主たる私が休んでいる時の警護も自分の仕事のうちなので休めない、だとか。
「ルーファス、ハーネスが休まなければ気絶させてでも休ませるようにしてください」
「……ハーネスを気絶させられる気がしないのですが」
「エリス様……!?
何をおっしゃるのですか!?」
ハーネスの取り乱すところなど久しぶりに見ます。
それ程衝撃的だったのでしょうね。
「だって、そうでもしなければ休まないつもりでしょう?
ルーファスには頑張れとしか言い様がないのですが……」
私がそう口にして笑うと、二人もつられたように笑います。
「はい、全力で気絶させます」
「ルーファス!?」
「えぇ、お願いします、ルーファス」
「お任せください」
「何を言って……」
元騎士のルーファスと元暗殺者のハーネスでは、ハーネスが隠れて終わりそうではありますが、きっと大人しく休んでくれるでしょう。
「ハーネス、後程頼みたいことがあります。
そのためにも今は休んでおくようにしてください」
「っ……承知致しました」
これで確実に休んでくれるでしょう。
優秀すぎる部下もある意味大変だと仰っていた方がいましたが……確かにその通りですね。
自身が優秀すぎるからこそ人を頼ることを知らない、なんていう者もいるくらいですし……。
こうして、ハーネスのように休まずにやり続けるという者もいますし。
やはり、上に立つというのは難しいですね。
「では、私はそろそろ休みます」
「私達のどちらかは外で待機していますので何かあればお呼びください」
「えぇ」
「では、失礼致します」
多分、最初に休むのはルーファスでしょう。
まだ多少なりとも休むことに抵抗が残っているようですし。
それより……あの二人もそうですが、段々と護衛や従業員というより従者と言った方が合ってる気がしてくるのは気の所為なのでしょうか?
「……まぁ、いいでしょう」
それだけ二人が優秀だということで自分を納得させ、私は少しの間眠りに就きました。




