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第88話 有刺鉄線を愛すること、デスマッチの如し

「御屋形様。これは何ですか?」


「これは有刺鉄線だ!」


 飯富虎昌おぶ とらまさが有刺鉄線を不思議そうに見ている。


 ここは上原城の城外にある武田軍が野営している広場だ。


 長尾ながお軍との戦い一日目は、武田軍やや不利の引き分け……。

 だが、終らんよ!

 今日からは、俺の戦いを見せてやる!

 戦闘向きの一芸がなくても、戦いには勝つ!


 昨晩、俺は大まかな戦略を立て、朝一番で妹のみなみに相談した。

 南の一芸は『賈詡カク』、軍師である。


【賈詡:智謀に非常に長け、献策を行う。人を魅了し、世渡りに秀でる】


 南も良い作戦だと太鼓判を押してくれたので、自信を持って進めるのだ。


 さて、作戦に使う有刺鉄線は、ネット通販風林火山で購入した。

 一巻き二十メートル×四セットで四千円だ。

 段ボール箱に入っているので運びやすい。


「この有刺鉄線を陣の前に設置してくれ。有刺鉄線がゆったりと輪を描くように。こんな具合だ」


 俺は諸将に手本を見せた。

 真田幸隆さなだ ゆきたか殿がアゴに手をあてて疑問を口にする。


「ピンと張らぬのですか?」


「張らない。こうやってゆったりと設置した方が、敵に絡まって身動きが出来なくなるのだ」


「なるほど……。面白い!」



 諏訪・武田連合軍は、二手に分かれて有刺鉄線設置作業に入った。

 設置場所は昨日戦った場所だ。


 左回りは諏訪頼重すわ よりしげ殿率いる諏訪すわ軍とし、右回りは俺が率いる武田軍とした。


 俺たち武田軍は、長尾軍の正面に隊列を組んで押し出す。

 そして、手早く隊列の前に有刺鉄線を設置していく。

 長尾軍は、坂の上に陣取って動かない。


 俺はニヤニヤしながら、軍師である妹の南に話しかける。


「南。読み通り長尾軍は動かないな」


「ええ。長尾軍は有利な高所に陣取っています。我ら武田軍を攻撃するためには、有利な高所を放棄しなければなりません」


「まあ、普通はわざわざ地の利を放棄しないよな」


「そういうことです」


 南はニコリと笑って答えた。


 長尾軍が困惑しているのがわかる。


 長尾軍は諏訪の一部を占拠している。

 だから、諏訪・武田連合軍は、長尾軍を諏訪から――領地からたたき出すために長尾軍に挑まなくてはならないはず……。


 それなのに、攻撃をせずにヘンテコな物を隊列の前に設置しているのだ。


 長尾軍から見たら、『一体何をしているのだ?』と不思議で仕方ないだろう。


 生憎だったな。

 俺はオマエらの狙い通りには動いてやらん。


 ここからは俺のターン。

 オマエらが俺のペースで動く番だ。


 一時間ほどで有刺鉄線が設置された。

 隊列の前に五メートルの有刺鉄線エリアが完成した。

 ここに踏み込めば人も馬も有刺鉄線に絡まって身動きが出来なくなる。


竹矢来たけやらいを設置しろ!」


 続いて竹矢来、竹で組んだ柵を設置するように命令を下した。

 これで防御陣地が完成する。


 武田軍が防御陣地を築いていると長尾軍もようやく気が付いたようで、一隊が攻め寄せてきた。


「南。来たな!」


「兄上。数が少ないところを見ると探りです」


 威力偵察ってヤツだな。

 戦ってみて、こちらの強さを確かめ、狙いを探るつもりだろう。


 相手の動きは予想通りだ。

 俺は落ち着いて命令を出す。


「弓隊! 千鶴ちづる隊! 用意!」


 弓隊は山なりに撃つので空に向かって弓を構えた。

 一方、千鶴隊はクロスボウを装備しているので、正面に向けてクロスボウを構えた。


 チェッカーフラッグに似た特徴のある石畳の旗印が勇ましく揺れる。

 寄せてきたのは、北信濃(しなの)の国人である高梨政頼たかなし まさよりだ。


「弓隊! 放て!」


 弓隊が一斉に弓を放ち、高梨隊に向かって山なりに矢が迫る。

 高梨隊の中には、木製の手楯てだてを持つ者がいた。

 上から振ってくる弓に備えて、手楯を上に掲げた。


 高梨隊の前ががら空きになる。

 千鶴隊を率いるめぐみ姉上は、この隙を見逃さない。

 恵姉上が号令を下す。


「千鶴隊! 放て!」


 千鶴隊のクロスボウから放たれた矢が、鋭い風切り音を発し高梨隊に迫る。


「ぐあっ!」

「ぎゃあ!」


 高梨隊から悲鳴が上がった。

 空と正面の二方向から矢を打ち込まれ、高梨隊の足が鈍る。


「ひるむな! 者ども! 突撃じゃ!」


 高梨隊を率いる将から檄が飛ぶ。

 俺は馬上の人物を鑑定する。


 馬上の人物は、高梨政頼だ。

 一芸は特にないので、このまま対応して問題なかろう。


 高梨隊は、大将高梨政頼の檄に応じて再び突撃の足を速めた。

 だが、弓隊と千鶴隊のコンビが着実に高梨隊の戦力を削る。


 それでも高梨隊は果敢に突撃を敢行し、ついに有刺鉄線エリアに入った。


「ぐあっ!」

「なっ!?」

「動けんぞ!」


 騎馬は有刺鉄線に絡まってつんのめり、足軽は足に有刺鉄線を絡めて転倒する。

 前が止まると、後ろがつかえ、あちこちで将棋倒しが起きた。

 倒れた足軽を助けようとする者もいたが、有刺鉄線が絡まって助け上げることが出来ない。


 高梨隊は、大混乱した。


 そこへ追い打ちをかける。


玄武げんぶ隊! 放て!」


 投石部隊の玄武隊が、有刺鉄線に絡まった高梨隊に向かって投石を開始した。

 有刺鉄線に絡まった者を救出しようとしていた高梨隊の足軽にも投石が降り注ぐ。


「痛い! 痛い!」

「これはダメだ!」

「引け! 一旦引け!」


 高梨政頼が退却を指示。

 高梨隊は、有刺鉄線に絡まった者を残して退却していった。


「降参! 降参じゃ! 石を投げるのを止めよ!」


 有刺鉄線に絡め取られた高梨隊の足軽たちは降参した。


 よし!

 撃退したぞ!


 俺は勝ちどきを上げさせた。


「エイエイオー!」

「エイエイオー!」

「エイエイオー!」

「エイエイオー!」


 勝ち鬨が諏訪に響く。


 だが、まだ、一度目の攻撃を撃退しただけだ。

 俺は有刺鉄線に絡まった高梨隊の足軽を回収すると、また有刺鉄線を設営させた。


 さて、これから攻めに転じるぞ……。

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