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第7話 金をバラまく事、どこかの社長の如し

 ――季節は晩秋。


 甘利虎泰(あまりとらやす)飯富虎昌(おぶとらまさ)小山田虎満(おやまだとらみつ)の三人が俺の味方になり約三か月が過ぎた。

 俺の派閥は恐ろしい速度で膨張を始めている。


 三人がドンドン人を連れて来るのだ。

 ここ数年甲斐国は不作続きで武田家家臣の家計も苦しいらしい。


 そこに付け込んで俺の派閥に勧誘をしている。


「米が足りぬ……」

「若様に相談してはどうだ?」

「はいはい。お米ですね! お米あげます!」

「それがしは若様を支持いたします!」


「銭が足りぬ……」

「若様に相談してはどうだ?」

「はいはい。お金ですね! お金あげます!」

「それがしは若様を支持いたします!」


 簡単に言うとこんな感じだ。


 特に飯富虎昌(おぶとらまさ)なんて、単に金が欲しい、酒が飲みたいみたいな無頼な感じのヤツも引き入れてしまう。みんな武家の次男坊や三男坊、つまり家を継げない連中らしい。

 お陰で板垣さんの私邸は居酒屋の様になってしまっている。

 まあ、飯富虎昌(おぶとらまさ)は『戦の時に役立つ連中だ』と言っているから、突撃要員だと思って飼っておく事にしている。こいつらが後の武田家の切り込み隊『赤備(あかぞな)え』だ!


 甘利虎泰(あまりとらやす)は中堅どころの武将や足軽のリーダー的な連中をよく連れて来る。

 自分の部下を増やして組織化している様だ。


 甘利虎泰(あまりとらやす)が連れて来た連中は、何故かみんなフォールディングナイフを欲しがる。

 甘利虎泰(あまりとらやす)が自慢しているのだろうか?


 俺としては、飯富虎昌(おぶとらまさ)隊が騎馬中心の突撃部隊、甘利虎泰(あまりとらやす)隊は歩兵足軽中心の大部隊のイメージをしている。

 中堅どころの指揮官が増えるのは良い事なので、甘利虎泰(あまりとらやす)のスカウト活動、組織化は歓迎だ。甘利虎泰(あまりとらやす)が連れて来た連中にも快くフォールディングナイフやら米やら金やらを渡している。


 今日は珍しく板垣さんが人を連れて来た。

 優秀な人材なのでぜひ俺に会って欲しいそうだ。


「板垣さんの推薦なら喜んでお会いしますよ。何て人ですか?」


「駒井昌頼でございます。戦の方はボチボチですが、内政面に秀でております」


「駒井……」


 懐から武田家の重要人物を記したノートを取り出し、駒井昌頼の名を探す。

 駒井……いた!

 駒井高白斎(こまいこうはくさい)の事か!


「会いましょう!」


 俺は喜んで面会を快諾した。


 駒井昌頼、後の駒井高白斎(こまいこうはくさい)

 高白斎記と言う武田家の内情を記した日誌の作者と言われている人物だ。

 内政、外交で活躍した武田家重臣で、戦国ゲームでも内政型武将として重宝した。

 政治力や知力のパラメータが突出していた。


 駒井昌頼に会って話してみると、なるほど頭の回転が速い。

 先日まで奉行を務めていたそうだが、ある日突然父信虎から遠ざけられてしまい奉行も解任されてしまった。

 駒井昌頼は、非常に困惑しているそうだ。


 何やっているんだろうね? 信虎パパは!

 鑑定してみると駒井昌頼も素晴らしいスキルを持っていた。



【駒井昌頼 一芸:文官統治】

【文官統治:内政面で非常に優秀な能力を発揮し、多くの文官を非常に巧みに使いこなす】



 駒井昌頼にはお土産を持たせ、『俺の代になったら重用(ちょうよう)するから、腐らずに時期を待て』と申し渡した。

 板垣さんと同い年で気心も知れているので、ちょくちょく板垣邸に顔を出してくれるそうだ。


 俺の派閥は武闘派武将が多いので、将来内政面を担える人材は貴重だ。

 駒井昌頼こと駒井高白斎(こまいこうはくさい)を味方に引き入れたのは大きい。今からコミュニケーションをとって、武田家内政の予習をしておこう。


 駒井昌頼が退出すると小山田虎満(おやまだとらみつ)がひょっこり顔を出した。


「おお! 若様! ご機嫌よろしゅう!」


 この曲者じじいめ! 今日は何の用だよ!


「うむ。小山田虎満(おやまだとらみつ)も元気そうで何より。また金か? 米か?」


 小山田虎満(おやまだとらみつ)は、人を連れて来ない。

 だが、あちこちに金や米をばらまいて、外で俺を支える派閥形成をしているらしい。

 外と言うのは、躑躅ヶ崎館(つつじがさきのやかた)のある甲府(こうふ)の外の事だ。


 武田家と言っても決して単純な一枚岩じゃない。

 甲府近辺は武田家の『本家』の領地だが、甲府以外だと武田家の『親戚』の領地もあるし、国人衆(こくじんしゅう)と言われる小規模な地方豪族の領地もある。


 小なりといえども領地持ち、彼らの発言力はバカにならない。

 小山田虎満(おやまだとらみつ)は、この辺りに金、米をばらまいて俺の派閥形成を行っているらしい。


 甘利虎泰(あまりとらやす)飯富虎昌(おぶとらまさ)とは真逆の動きだ。


 俺も細かい事は聞かずに板垣さんに報告だけはしておいてくれとして、金や米は求められるままに渡している。

 やる気になっているからね。そこに水を掛ける様な事はしない。


 上司はドーンと構えて、部下のやる事にイチイチ口出ししない方が良いのだ。

 そう言う上司の方が前世日本では働きやすかったしね。


 小山田虎満(おやまだとらみつ)は俺の前に座ると珍しい事を言い始めた。


「今日は若様にお会いしていただきたい者がおりましての」


「珍しいな……。いや、初めてじゃないか? 虎満が俺に人を引き合わせるのは……」


 板垣さんが戻って来て俺の側に座り、小山田虎満(おやまだとらみつ)に話し出した。


「小山田殿、若様にお引き合わせするのは、どの様な人物なのでしょうか?」


「そうじゃのう……まだ年は若いが、なかなか見どころがある……」


 小山田虎満(おやまだとらみつ)は、相変わらずのらりくらりとした勿体ぶった話し方だな。

 対して板垣さんは真面目な感じでテキパキと話す。


「ふーむ。お若い方なのですな。信用するに(あた)うのでしょうか?」


「どうかのう……若様と会わせるのは止めておくか?」


「さて……それはどなたなのですか?」


馬場信春(ばばのぶはる)と言う若僧じゃ。今年二十歳だったかのう」


「ふむ。二十歳でしたら、とうに元服も初陣も済ませておりましょう。若僧と言う訳でも……」


「二十歳なんぞ、まだ、まだ、はなたれ小僧じゃわい!」


 何?

 今、大事な……小山田虎満(おやまだとらみつ)は、誰を連れて来たって?


小山田虎満(おやまだとらみつ)、名前をもう一度聞かせてくれ」


馬場信春(ばばのぶはる)ですじゃ」


「馬場……信春……」


 馬場信春(ばばのぶはる)! 不死身の鬼美濃!

 信虎、信玄、勝頼と三代に渡り武田家に仕えた重臣。

 七十回を超える戦場に立ち傷を負う事がなかった不死身の男。

 武田四名臣の一人として、武田信玄を最初から最期まで盛り立てた戦にも、政治にも優れた名将。

 俺の味方にしたいリストのトップだ!


「連れて来て!」


「はい?」


「すぐ連れて来て! 会うから! 馬場信春(ばばのぶはる)を連れて来て!」

■馬場信春が馬場姓を名乗るのは、もっと後年です。

武田太郎が武田家当主武田晴信になってから、晴信の命で馬場姓を名乗ります。

(断絶していた名門馬場家の家名を貰った形)

今話の天文三年晩秋の時点では、教来石きょうらいし景政と名乗っているのではないか? という説があります。

この小説はフィクションです。本作はモデルとして天文三年初夏からの戦国時代を題材にしておりますが、日本とは別の異世界の話しとして書き進めています。史実と違う点がありますが、ご了承下さい。

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