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第53話 裏切者を始末する事、ゴッドファーザーの如し

東京は雨が凄いです。

朝のうちに予約投稿しました。

 トランシーバーから聞こえて来た甘利虎泰(あまりとらやす)飯富虎昌(おぶとらまさ)の声に俺は飛び跳ねた。


『良く来た! 首尾は?』


『上々。河内方面で御屋形様に逆らう国人どもは、なで斬りにして参りました』


『郡内の方も終わりました。裏切った国人は討ち、家族は数珠つなぎにして躑躅ヶ崎館に送っておきましたよ』


『ご苦労! 良くやってくれた!』


 俺は足場城壁から身を乗り出し、本栖城内に向かって大声で叫んだ。


「後詰が来たぞ! 後詰だ! 味方が来たぞ!」


 同時に守備兵の大きな声が聞こえて来た。


「花菱の馬印だ!」

「甘利様だ!」

「お味方の後詰だ!」


 向かって右手の身延へ続く地元道に颯爽と花菱の馬印が翻っている。

 双眼鏡で覗くと、髭面無愛想の甘利虎泰が見えた。


 そのまま今川本陣を見ると動きが慌ただしくなっている。

 穴山信友が通って来た道から、武田軍がニュウと現れたのだ。

 度肝を抜かれただろう。


 搦め手の方でも守備兵の声が盛り上がる。


「月星の馬印!」

「飯富様と騎馬隊だ!」


 飯富虎昌は、郡内方面から来た。

 これで搦め手の小山田信有は、本栖城の板垣さんと飯富虎昌から挟みうちにあう。


 作戦は成功だ!


 足場に駆け上がって来た若い守備兵が遠慮がちに俺に質問して来た。


「あの……御屋形様。これが今回の策でございましょうか?」


「そうだよ! まだ全て終わって無いけど、半分くらいは終わったかな」


 俺は若い守備兵に、ここまでの作戦の概要を説明した。



 俺が率いる小規模な本隊が本栖城を防衛する。

 ↓

 今川軍が本栖城を包囲攻撃する。

 ↓

 穴山信友、小山田信有が裏切りを決め、河内地方、郡内地方を出発する。

 ↓

 甘利虎泰が河内地方を制圧し、飯富虎昌が郡内地方を制圧する。

 同時に他の裏切った小領地の国人衆を始末する。

 ↓

 甘利虎泰、飯富虎昌が本栖城に合流する。



「そのような複雑な策を……」


「そう。武田軍は、実行していたんだよ」


 俺は得意げに若い守備兵に話し、若い守備兵は腕を組み唸った。


 簡単に説明したが実行は非常に難しい策だ。

 それを可能にしたのは……。


 まず富田郷左衛門と部下の『三ツ者』による情報収集力が大きい。

 裏切った国人衆のリストアップはもちろん、穴山信友と小山田信有が出陣した事、つまり武田軍別動隊が河内地方、郡内地方に襲い掛かるタイミングを正確につかんだ。


 そして、マウテンバイクによる高速移動も大きな要因だ。

 富田郷左衛門から別動隊への情報伝達。

 そして飯富虎昌隊の高速移動を可能にした。


 飯富虎昌は、一度東の大月まで移動して、そこから都留、富士吉田と裏切った国人衆を制圧して来たのだ。

 飯富虎昌に襲撃された国人衆の話しが隣の国人衆に伝わる前に、飯富虎昌は素早く移動して次の国人衆を血祭りにあげる。


 スマートフォンやネットが無く情報伝達が遅い戦国時代だからこそ成立した作戦と言える。


「よし! 今川軍を撃退するぞ! オマエも持ち場でがんばるんだ!」


「ハッ!」


 若い守備兵に檄を飛ばすと守備兵は足場城壁を降りて行った。

 俺はトランシーバーを握り、新たに着陣した二人の猛将に命令する。


『甘利虎泰! 飯富虎昌! 裏切り者の穴山信友と小山田信有の兜を俺の所まで持って来い!』


『承知!』


『お任せあれ!』


 さあ、これで第三段階! 逆撃開始だ!


挿絵(By みてみん)

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