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第29話 黒幕を推理する事、名探偵コ〇ンの如し

「ふひゃひゃひゃ! ふむ……話がデカすぎて、このじじいにはわかりませなんだが……ならば松平清康(まつだいら きよやす)には死んでもらった方がよろしいのではありますまいかな?」


 妖怪じじい小山田虎満(おやまだ とらみつ)の目がギラリと光った。


小山田虎満(おやまだ とらみつ)松平清康(まつだいら きよやす)が死ぬ方が良いと?」


「左様でございますな。仮に、松平清康(まつだいら きよやす)を助けたとしましょう。松平清康(まつだいら きよやす)が今川家に取って代わる様な事態もあるかもわかりませなんだ。強いヤツには早めに死んでもらうに限りますな……」


 おっかないな……。

 だが、ベテラン小山田虎満(おやまだ とらみつ)の言い分には、説得力がある。


 松平清康(まつだいら きよやす)は、非常に優秀な武将で『天下を狙える器』だったと言う評価もある。

 森山崩れで、若くして亡くなったが、もし松平清康(まつだいら きよやす)が生きていれば、天下の行方がどうなっていたかはわからない。


 俺が天下を狙うなら、松平清康(まつだいら きよやす)は邪魔者になる可能性がある。

 それならば……、早めに消えてくれた方が良い……と言う事か……。


「ねえ。私が発言しても良い?」


 俺の横に座る(かおる)がちょこんと手を上げて、発言の許可を求めた。

 香は一芸『真実の目』で金山の位置を言い当てた。水脈の位置を言い当てて井戸掘りに協力している。

 幹部たちも一目置いているし、飯富虎昌(おぶとらまさ)などはかなり懐いている。


 この戦国時代は男尊女卑バリバリの世界だ。

 だが、同時に実力の世界でもある。女性であっても実力で後世に名を(のこ)した人物はいる。


 香が幹部会で発言しても問題ないだろう。


「かまわないよ。気になる事があったら香も発言して」


「ありがとう。そもそもなんだけど……、その松平さんはなんで阿部さんに殺されちゃうの? 松平さんを助けるかどうかは、その理由にもよるんじゃない?」


「なるほど! さすが香様!」


 飯富虎昌がすかさず合いの手を入れる。

 おまえ……。

 まあ、飯富虎昌は放っておこう。


「順番に説明するとね……。松平家の家臣阿部定吉(あべ さだよし)について、松平家中である噂が流れたんだ」


「どんな噂?」


阿部定吉(あべ さだよし)が裏切って尾張の織田に味方するんじゃないかって噂だ」


「ふんふん」


「でも阿部定吉(あべ さだよし)は潔白で身に覚えがなかったらしい。そこで阿部定吉(あべ さだよし)は息子の阿部正豊(あべ まさとよ)に『もし俺が謀反人として殺されたら、この誓書を殿にお見せして俺の身の潔白を訴えろ』と誓書を預けたんだ」


「誓書って?」


「自分の誓いを書いた紙の事だよ。たぶん阿部定吉(あべ さだよし)は『神仏に誓って自分は松平家を裏切っていない。織田家に味方しようと思った事はありません』的な事を紙に書いて息子の阿部正豊(あべ まさとよ)に渡したんだと思う」


「わかった。それから?」


松平清康(まつだいら きよやす)阿部定吉(あべ さだよし)の事を信用していて、『阿部定吉(あべ さだよし)が裏切って織田に味方する』って噂は信じなかった。松平清康(まつだいら きよやす)は織田氏の領土森山に出陣する」


「何にも問題ないじゃない! その阿部定吉(あべ さだよし)さんが裏切るって噂はあったけれど、大将の松平清康(まつだいら きよやす)さんは信じなかったんでしょ? 何で松平清康(まつだいら きよやす)さんが殺されるのよ!」


 香はちょっと大きめの声を出した。

 まあ、そうだよな。ここまでの話しだけ聞くと松平清康(まつだいら きよやす)が殺される理由もないし、家臣を信じた松平清康(まつだいら きよやす)は偉いよなって思う。

 だが……。


「それがね……。勘違いなんだよね……」


「勘違い?」


「そう。松平清康(まつだいら きよやす)は森山に陣を張ったんだ。そうしたら松平家の馬が逃げ出して陣中が大騒ぎになった。その騒ぎを息子の阿部正豊(あべ まさとよ)が『この騒ぎは! きっと親父が殺されたのだ!』と勘違いした。それで『よくも無実の親父を殺してくれたな!』と松平清康(まつだいら きよやす)を背後から一太刀!」


「えっ!? うそでしょ!?」


「うそみたいな本当の話し」


 香は心底呆れ返った顔をしている。

 そうだよな……。こんな勘違い、早とちりで自分の主君を斬り殺すなんて、ちょっとあり得ないよな。


 幹部たちも何とも言えない微妙な顔をしている。

 まず板垣さんが発言した。


「それは何とも……。松平清康(まつだいら きよやす)も気の毒な事ですな。しかし、その息子……阿部正豊(あべ まさとよ)ですか? あまりに軽率と申しますか……ちょっとあり得ん話しですな。本当にそれだけの理由、勘違いで主君の……松平清康(まつだいら きよやす)を害したのでしょうか?」


「実はこの事件には他に不審な点が多いです」


「不審な点?」


 板垣さんは眉根を寄せる。

 そう。この森山崩れは不審な点が多すぎて、陰謀説もある位だ。


「まず実行犯の阿部正豊(あべ まさとよ)は、その場で成敗されます。阿部正豊(あべ まさとよ)を成敗したのは、植村氏明(うえむら うじあき)です。『植村氏明(うえむら うじあき)』良いですね?」


 この植村氏明(うえむら うじあき)が、非常に怪しい人物なのだ。

 俺は板垣さんに念を押した。


「わかりました。植村氏明(うえむら うじあき)が、主殺しの阿部正豊(あべ まさとよ)をその場で斬ったのですね?」


「そうです。それから月日は流れて松平清康(まつだいら きよやす)の息子松平広忠(まつだいら ひろただ)も若くして亡くなります。松平広忠の死亡にも諸説あるのですが……」


「後を継いだ息子も早死にですか……。死因が諸説あると?」


「はい……暗殺説があるのですよ」


「えっ!? 親子二代に渡って暗殺ですか?」


「ええ。松平広忠を殺害したのは岩松八弥(いわまつ はちや)なる人物で、岩松八弥はその場で成敗されています。岩松八弥を成敗したのは……」


「まさか……」


「そのまさか。植村氏明(うえむら うじあき)なんですよ」


 板垣さんはフリーズしてしまった。

 そうなんだよねえ。

 ここが無茶苦茶不審な点で歴史ミステリーとでも言いますか……。


 やっと板垣さんが再起動した。


「お待ちを! するとその植村なる者は、松平清康(まつだいら きよやす)の殺害犯を討ち取り、その息子松平広忠の殺害犯も討ち取ったと?」


「ええ。その通りです」


「そんなバカな! そんな事があり得る筈が……!」


 そのあり得ない話が天文四年の『森山崩れ』、松平清康(まつだいら きよやす)殺害事件なのだ。

 さて……、武田家としてはどう対応しようか……。


 松平清康(まつだいら きよやす)が生きていた方が武田家にとって得なのか?

 松平清康(まつだいら きよやす)が史実通り死んだ方が武田家にとって得なのか?


 俺は武田家当主として冷静に判断しようと努めた。


 感情の上では……松平清康(まつだいら きよやす)は気の毒に思う。

 だから一言『今年は危ないですよ』と教えてあげたい気持ちもある。


 だが俺は武田家の当主武田晴信として判断を下さなければならない。

 人の生死を損得勘定するなど現代日本ならモラルに反する事だが……ここは戦国時代だ。

 俺の判断ミスで武田家が滅び、今ここに座っている幹部やその家族が皆殺しにあう未来だってあり得るのだ。


 史実では武田信玄の死後、武田家は滅亡しているのだから……。


 俺が沈思黙考していると幹部たちは犯人捜し的な議論をしていた。


「私は植村氏明(うえむら うじあき)が怪しいと思いますね。松平清康(まつだいら きよやす)、そしてその子松平広忠(まつだいら ひろただ)、二人の暗殺犯を成敗するなど不自然な事極まりないです」


「うむ……松平清康(まつだいら きよやす)は出陣中に阿部正豊(あべ まさとよ)に斬られたと言うが……。ならば植村氏明(うえむら うじあき)はなぜ阿部正豊(あべ まさとよ)を止めなかったのか? 主君が斬られる前になせる事があったはずだ」


 俺もそこは疑問に思う。

 出陣中であれば、大将の周りは数人で守りを固めてあるはずだ。

 阿部正豊(あべ まさとよ)の父親阿部定吉(あべ さだよし)に謀反の噂が出ている状況下で、大将の松平清康(まつだいら きよやす)阿部正豊(あべ まさとよ)が二人きりになると言うのは考えづらい。


 そう考えると……植村氏明(うえむら うじあき)も殺害犯の一人か?


 ――仮に事件当日。

 大将の松平清康(まつだいら きよやす)阿部正豊(あべ まさとよ)植村氏明(うえむら うじあき)の三人だけで松平陣中のどこかにいたとする。


 何かの拍子に馬が暴れて逃げ出し、騒ぎが起こる。

 植村氏明(うえむら うじあき)阿部正豊(あべ まさとよ)の耳元でささやく。


『ああ! オマエの父上が成敗されてしまった! 気の毒に!』


 そこで阿部正豊(あべ まさとよ)が激高し、松平清康(まつだいら きよやす)を殺める。

 それを植村氏明(うえむら うじあき)が討ち取る……。


 いや、不自然だ。

 それよりも……。

 

 まず植村氏明(うえむら うじあき)阿部正豊(あべ まさとよ)を討ち取る。

 植村氏明(うえむら うじあき)は、大将の松平清康(まつだいら きよやす)にその場で申し開きをする。


『謀反人は阿部定吉(あべ さだよし)ではなく、阿部正豊(あべ まさとよ)でした。不審な動きがあったので切って捨てました』


 松平清康(まつだいら きよやす)がホッとして油断した所を、植村氏明(うえむら うじあき)が討ち取る。

 そして阿部正豊(あべ まさとよ)に罪を着せる。


 こっちの方がまだあり得るか?


「ひゃひゃひゃ! はてのう……議論がぶれておるぞ。阿部や植村はどうでもよいわ。御屋形様。それで、黒幕は誰です?」


 妖怪じじい小山田虎満(おやまだ とらみつ)が違う視点を切り出して来た。


「黒幕ね……」


「そもそもの原因は、『阿部定吉(あべ さだよし)が織田に味方する! 裏切る!』と噂が流れたからでしょう? 誰がその噂を流したのやら……」


「確かにそうだな。阿部定吉(あべ さだよし)本人は否定しているし、誓書まで息子に託している。そんな噂が流れる事自体がおかしいか……」


「それに松平清康(まつだいら きよやす)が死ぬ事によって利を得た者がおりましょう? そいつが黒幕では?」


阿部定吉(あべ さだよし)が裏切ると噂を流して、植村氏明(うえむら うじあき)を操り、阿部正豊(あべ まさとよ)をそそのかした黒幕がいると?」


「ワシは、そっちの方があり得る話だと思いますのう。その黒幕が誰かによっても、我ら武田家の対応が変わるのでは?」


 俺はしばらく考えネット通販『風林火山』で買った歴史本の内容を思い返した。

 森山崩れが起こるのは、天文四年十二月五日早暁……。

 当時、東海地方の勢力図は、今川、松平、織田……。


「ううん……一番怪しいのは、尾張の織田信秀(おだ のぶひで)かな……」


「ほっ! 尾張の虎ですか!」


「うん。松平清康(まつだいら きよやす)が斬られた森山で対陣していたのは、織田家だ。松平清康(まつだいら きよやす)が斬られた事で、松平家は混乱してこの戦に負けている。近隣の優秀な当主松平清康(まつだいら きよやす)が消えてくれて一番助かったと思う」


「なるほど……」


 織田信秀は、あの織田信長の父親だ。

 戦国時代初期に活躍した人物で、信長に負けず劣らず非常に優秀。

 織田家の勢力を拡大し、美濃のマムシこと斎藤道三を追い込んだ事もある。

 政戦両略に長け、陰謀もいとわない。


「次に怪しいのは今川家……。この事件の後、三河の松平家は領地を維持できなくなり、今川家を頼るようになる。やがて三河は今川家の勢力下になる」


「ふむ……しかし、そのような陰湿な謀略を今川氏輝(いまがわ うじてる)がやりますかな?」


「その可能性は低いと思う。今川家自体が足利系の名門だしね。森山崩れの暗殺劇は、今川家の色じゃない。ただ、松平清康(まつだいら きよやす)が死んで一番得したのは、今川家だね」


 今川氏輝は凡庸ではないが、際立って優秀な武将でもない。

 あまり謀略を用いるタイプでもない。


 あり得るとしたら、今川氏輝の母親寿桂尼(じゅけいに)だろう。

 寿桂尼は今川家では強い権力を持っていたと言うし、女傑だったとも。

 だが、寿桂尼の実家は公家の名家だ。

 寿桂尼(じゅけいに)松平清康(まつだいら きよやす)暗殺の筋を書き、策謀を巡らせる能力はある。だが、寿桂尼(じゅけいに)は、暗殺や謀略に関わるイメージはない。


 そう思考を進めると、『結果的に松平清康(まつだいら きよやす)が死んで今川家が得をしただけ』と見る方が正しい気がする。


「他にはおりますまいか? 黒幕でありそうな者は?」


「あとは……松平清康(まつだいら きよやす)の叔父松平信定かな……。松平家分家の当主で、松平清康(まつだいら きよやす)の死後岡崎城を占拠して『我こそは松平家当主!』と宣言する……」


「ふむ……そやつも臭いですな……」


「けどねえ。この松平信定って無能なんだよ。松平家の当主を名乗ったけれど、家臣がついてこなくて……。結局、松平清康(まつだいら きよやす)の息子松平広忠(まつだいら ひろただ)に頭を下げる事になる」


「むう……。動機はあっても、能力が伴わず……」


 まあ、もしも黒幕がいたとしたら、織田信秀が濃厚だと思う。

 織田信秀はあの織田信長の父親で戦国時代初期の英傑の一人だ。

 非常に優秀な人物で松平清康(まつだいら きよやす)を暗殺する動機も能力もある。


 そして、俺は最後に一番薄い線……ほぼあり得ない黒幕説を話した。


「今川義元が黒幕と言う線も無くは無いけどね」


「ぬうっ! 今川氏輝の倅ですな……しかし、京都で寺に入っているはずでは?」


「うん。けどね。今年天文四年に京都から呼び戻されるんだ」


 オマケに太原雪斎(たいげん せっさい)も一緒だ。

 太原雪斎は今川義元の師で、政略に長けた優秀な僧侶である。


 後に有名な三国同盟を実現する立役者だ。

 三国同盟は、今川家、武田家、北条家が相互に婚姻を結ぶ同盟で、この同盟があるから今川義元は背後を気にせず京都を目指せた。

 しかし、その途中桶狭間で尾張の『大うつけ』織田信長に討たれるのだから、世の中どうなるかわからない。


 俺は情報担当の富田郷左衛門に話を向ける。


「富田郷左衛門。今川家はどんな様子だ?」


 富田郷左衛門配下の忍び『三ツ者(みつもの)』は、各地で情報を集めている。

 幹部会議で新参者の富田郷左衛門は、頭を下げたまま答えた。


「はっ! 今川氏輝殿は生来の病弱。ここの所一層体調が悪く、薬師が珍しい薬草を求めております」


 小山田虎満(おやまだ とらみつ)は顎をさすり考えながら呟く。


「ふん……当主の健康不安……なら息子の義元を京より呼び寄せるかもしれませんな……。御屋形様、今川義元とは、松平清康(まつだいら きよやす)をはめ殺せる程の男ですかの?」


「うん。掛け値なしに優秀だね」


 今川義元は長らく公家かぶれの無能な大名と言う扱いを受けて来た。

 だが、今川家が最大版図を築いたのは義元の時代であり、武田家、北条家と和睦を結び上洛の道筋をきちんと立てたのは義元だ。


 これだけの事をしてみせる人間が、無能な訳がない。

 超優秀だ。

 そして知恵袋の太原雪斎も側に居る。


 しかし……。


「しかし、松平清康(まつだいら きよやす)殺害の陰謀を巡らせられるかと言われると……時間的に厳しいと思う。今年天文四年に入って、今川家から京都の義元に戻って来いと手紙が届く。それから駿河の今川家に戻り、三河の松平清康(まつだいら きよやす)を暗殺する陰謀を巡らすのはちょっと……」


「ふむ。それなら織田信秀の方が可能性はありますな」


「黒幕がいるとしたらね。あくまで仮定の話だけどね」


 そうだ。結局誰が犯人なのかは、はっきりわからないのだ。

 ただ、織田が黒幕の可能性が高く、今川義元が黒幕の可能性もゼロじゃないと言ったところだ。


 俺と小山田虎満(おやまだ とらみつ)の議論が一段落した所で、馬場信春が発言した。


松平清康(まつだいら きよやす)には生きていてもらった方が良い気がいたします」


 へえ、馬場信春は小山田虎満(おやまだ とらみつ)とは違う意見だな。


「理由は?」


「我らの当面の敵は今川家です。今川家からすれば、『かたや松平清康(まつだいら きよやす)、こなた我ら武田家』と言う状況が嫌でしょう」


「そうだな。両方に備える必要がある。戦力を二分させられるな」


「その通りです!」


 馬場信春の発言から、また議論が活発になった。

 俺はじっと家臣たちの議論の行方を見守る。


 正直言って俺もわからないのだ。

 長期的には、松平清康(まつだいら きよやす)は邪魔になる。

 しかし短期的には、松平清康(まつだいら きよやす)が生きて今川家にプレッシャーを掛けてくれた方が助かる。


 非常に悩ましい。


 会議の行方を見守っていると『松平清康(まつだいら きよやす)が生きていた方が武田家に利アリ』と言う流れになって来た。


 うん。それならそれで良い。

 史実通りなら、今川義元が数年後今川家の当主になる。

 東海一の弓取りを相手にしなくちゃならないのだから、松平清康(まつだいら きよやす)が生きていたらそれはそれでありがたい。


 板垣さんが疑問を提示する。


「問題はどうやって松平清康(まつだいら きよやす)に危機を知らせるかです」


 駒井高白斎が回答する。


「手紙では?」


「どうでしょう……信じて貰えますかな? 逆に武田家の謀略と疑われる可能性もあります」


 まあ、それはそうだよな。

 武田家の幹部連中は、俺が一芸を使ってこの情報を取得していると知っているから信じてくれるが、松平清康(まつだいら きよやす)が会った事もない俺の一芸を信じてくれるかどうか……。


 いや、それ以前に俺が一芸でこれから起こる戦国時代のイベントを知り得る事を、他の戦国大名に教えるのは良くない。

 自分のアドバンテージを見せびらかすなど愚かだ。


 俺の一芸は秘匿するべきだ。

 そうすると、増々信じて貰えなさそうだ……。


「いっその事、下手人の阿部正豊(あべ まさとよ)を先に殺してしまえば?」


 この発言は小山田虎満(おやまだ とらみつ)だ。

 乱暴な意見だが一理あるかもしれない。


 板垣さんがすぐに反論する。


「問題がいくつかあります。黒幕がいた場合は、阿部正豊(あべ まさとよ)を事前に暗殺したとしても、我々の知らない違う人間が松平清康(まつだいら きよやす)(あや)めるかもしれません」


 なるほど。確かにそうだ。

 黒幕が誰にしろ、違う人間にやらせれば良いだけだ。


「それから誰が阿部正豊(あべ まさとよ)を暗殺するかです。富田郷左衛門の配下は情報収取が主ですから、暗殺は期待できません。そして武田家が松平家の家臣を暗殺したら……」


「ひゃっ! 恨みを買うな。敵を増やすだけか……」


「左様ですな……」


 うーん。良い方法がないな。

 皆が黙り込んだところで飯富虎昌(おぶ とらまさ)が手を上げた。


「俺が三河まで行って来る!」


えっ!?

■森山崩れについて

森山崩れは史実です。

松平清康(まつだいら きよやす)の息子松平広忠(まつだいら ひろただ)は24歳で亡くなっています。


死因は諸説あり病死とするのが有力です。

一方で岩松八弥(いわまつ はちや)に殺害されたとする書も残っています。(本作品ではこの殺害説を採用しています)


森山崩れの陰謀・黒幕説は作者の創作です。

織田家や今川家が陰謀を巡らせたという証拠はありません。


また、本作では、殺害された松平清康が、謀反の疑いがあった阿部定吉を信じた事にしていますが、これも諸説あるようです。

松平清康が阿部定吉を疑っていた可能性もあります。

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