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第18話 袴で走り抜ける事、ハイカラさんの如し

200pt達成しました!

ブクマ、評価ポイントありがとうございました。

 ――天文(てんもん)三年初冬。


 幹部会議からおよそ一月経った。

 皆それぞれ担当した仕事をこなしている。


 今日、俺は視察だ。

 躑躅ヶ崎館(つつじがさきのやかた)から歩いて三十分ほどの村に来ている。

 護衛の若い侍が四人と内政担当の駒井高白斎(こまいこうはくさい)が付いて来た。


御屋形様(おやかたさま)一間(いっけん)畑は順調ですぞ。領民からの評判も上々です!」


 駒井高白斎(こまいこうはくさい)が上機嫌で話す。

 一間(いっけん)畑は俺が推し進めている政策だ。


『一家に一つ一間(いっけん)畑! 縦横一間(いっけん)の畑を新しく開墾(かいこん)しなさい。一間(いっけん)畑の一つ目は、なんと無税ですよ! 道具も貸し出します!』


 と言うお触れを領内に出した。


 一間(いっけん)と言うのは、長さの単位で約1.8メートルの事だ。

 開墾って言うのは、新たに畑を耕す事ね。


 いきなり大規模な開墾は難しくても家の裏とかに小さな畑を一つ耕す事は出来るだろう。

 そして小さな畑なら年寄りや子供でも畑の面倒が見られる。

 小さな一間(いっけん)畑にはサツマイモやソバなどの雑穀を植えて貰う。


 これで少しでも……来年が干ばつになった時に、ダメージを軽減出来れば……。

 とにかく農民が死ぬのがヤバイのだ。


 農民は米や野菜など農作物を作る。

 農閑期は道路工事など公共事業の作業員になる。

 戦争になれば領民兵として歩兵足軽になる。


 つまり農民が死ぬことは、国力低下に直結する。


 一年税収が減っても武田家は滅びない。

 だが、干ばつで食べ物が無くなれば農民は死ぬ。

 そうすると数年で武田家の国力は落ち、他国に攻め滅ぼされるリスクが……。


 それなら無税にしてでもちょっとでも畑を広げた方が良い。

 無税でも農民が自分たちで食べる分を一間(いっけん)畑で生産して貰った方がマシだ。


「しかし、思ったよりも作業が早いな」


「御屋形様がお貸し出しになった道具のお陰です!」


 俺たちの目の前では村民たちが協力して開墾している。

 低木を切り倒し、根を掘り起こし、土を耕すのだが、作業ペースが早い!


 俺が貸し出したのは、ネット通販『風林火山』で買った道具だ。


 ノコギリ:3900円 グリップがゴム製で握りやすく、刃の切れ味良し。

 剣スコ :1000円 先が剣状の土堀用スコップ。

 角スコ :1000円 先が四角いスコップ。土をならす、すくう用。

 ツルハシ:3900円 木の根を掘り起こすのに最適。

 ネコ  :6000円 土を運ぶ一輪車。ノーパンクタイヤ仕様。


 合計 1万5800円


 一つの村、集落につきワンセットずつ貸し出した。

 この程度の道具でもあるとないとでは作業効率は段違いだな。


『道具は貸し出すので、村の人達で仲良く助け合いで作業してくださいね』


 と言うのを狙ったのだが、うまくいっている。


「じゃあ、次は井戸掘りを見に行こうか」


「はっ! お供いたします……あれは、(かおる)様では?」


「……(かおる)だね」


 俺たちがいる丘の上の村から街道が見える。

 その街道を戦国時代に似合わぬマウンテンバイクが七台疾走している。

 俺の奥様香ちゃんと香隊だ。


 香の一芸『真実の目』は全てを見通し、金山のありかを明らかにした。

 そこで井戸掘り隊の甘利虎泰(あまりとらやす)が水脈の位置を教えてくれと香に頼み込んだ。


 香は快諾。もちろん俺も了承。


 甘利虎泰(あまりとらやす)に水脈の位置を教えるべく躑躅ヶ崎館から外出する事になったのだが、彼女は馬に乗れない。

 そこでネット通販『風林火山』でマウンテンバイクを購入して、足代わりならぬ馬代わりに乗る事になった。


 マウンテンバイクは国産メーカー品24段変速で、お値打ち価格の3万円。


 普段着ている和服では乗れないので、これまたネット通販『風林火山』で大正ロマン的な袴@2万円を買って、袴姿でマウンテンバイクを激走させている。


 後に続くのは護衛の香隊。

 先頭を行くのは、なぜか香隊筆頭を自任する飯富虎昌(おぶとらまさ)だ。


 あいつには『金山を掘れ』と言い付けたのだが……。

 どうやら色々部下にやらせているみたいで、香の護衛を勝手に買って出ている。

 他の五人も飯富虎昌(おぶとらまさ)の部下だ。

 ま、まあ、護衛としては頼もしいから良いんだけどね。


 しかし、楽しそうだな。


「虎ちゃん遅い!」


「わはははは! 香様! ここからの捲りが飯富虎昌(おぶとらまさ)の真価ですよ!」


 オマエら何をやっているんだ!

 戦国時代の街道で自転車レースするな!


 香たちは猛スピードで躑躅ヶ崎館の方へ走り去っていった。

 その様子を見て駒井高白斎(こまいこうはくさい)が真面目にコメントする。


「ふむ。香様たちがお乗りの『まうんてんばいく』は面白いですね」


「そ、そうだな」


「早馬代わりの伝令に使えるのでは?」


「あ、ああ。それはアリだな。馬と違って食事や世話の必要が無いし」


「はい。その点は大きいですな。速度もなかなか早いですし。予算を組みたいですな」


「検討しよう。しかし、飯富虎昌(おぶとらまさ)は……」


「ああ、あそこは男ばかりですからな。娘が欲しかったのでしょう」


 香を娘代わりにしているのか!

 ま、まあ、良い。


 開墾作業をしている村を出て、甘利虎泰(あまりとらやす)が井戸を掘っている別の村へ向かう。

 のんびり一時間程歩いて山の麓にある村に着いた。

 甘利虎泰(あまりとらやす)がこちらに気が付いて出迎えに来た。


「……御屋形様」


「ご苦労様。順調だね」


「……香様のお陰を持ちまして」


「うんうん。上手く行っているみたいで良かった」


 甘利虎泰(あまりとらやす)たち井戸掘りチームが一番成果を上げている。

 五人のチームなのだけれど、一日一本のペースで井戸を掘っているのだ。


 ネット通販『風林火山』で手掘り用の井戸掘り道具を買って渡したのだが、これがなかなかの物らしい。

 平たく言うとワインのコルク抜きの様な感じでT字型の道具を回転させて地面に縦穴を掘っていく。

 ある程度掘れたらこれまたネット通販『風林火山』で買った塩ビパイプを縦穴に設置する。

 後はその繰り返しだ。


 一日に5メートルから8メートルは掘り進めるとか。

 そして香が正確に水脈の位置を教えているので、ハズレが無い。

 掘れば必ず水脈に突き当り水が出る。

 水脈まで掘れたらステンレス製の手押しポンプ@4万円を設置して完成だ。


 六人一チームで作業をしているのだけれど、もう二十以上の井戸を掘っている。

 恐ろしく作業効率が良い。


「……水が出ました」


「もうかよ! 早いな!」


「……香様のお陰を持ちまして」


「そうか。甘利虎泰(あまりとらやす)もご苦労様、ありがとう」


「……はっ!」


 甘利虎泰(あまりとらやす)は、相変わらず愛想の欠片も無く、語彙力に乏しいが、仕事はキッチリこなしてくれる。

 派手さはないけれど、コツコツやってくれるから頼もしいね。


 この一間(いっけん)畑や井戸堀りは干ばつ対策で始めたのだけれど、新しい当主武田晴信つまり俺の評判も上がっている。

 領民の事を考える名君って事になっているらしい。

 思わぬ副産物だ。


 甘利虎泰(あまりとらやす)たちと別れて、馬場信春(ばばのぶはる)が手掛けている溜池造りの現場に向かう。

 すると街道の脇に座り込んでいる男がいるのに気が付いた。


 俺たちの進行方向左に男はいる。

 旅人風の服装で大きな木の根元に座り手拭いで汗を拭っている。


 護衛の若い侍が男を警戒して俺の左側に寄る。

 普通の旅人に見えるけれど、危険なのかな?

 護衛たちが緊張している。


 しかし、何事も無く男の横を通り過ぎた。

 男は俺が偉い人物だと気が付いた様で、座り直し地面に手をつき頭を下げていた。


 うん。何も問題は無いな。

 平穏! 平穏!


 また街道をのんびりと進む。

 駒井高白斎(こまいこうはくさい)と内政についてあれやこれやと議論を交わし、十分ほど歩いた。


 また、男がいる!

 今度は進行方向右だ。


 街道に沿って流れる小川のほとりに座り手拭いで汗を拭っている。

 人相風体は先ほど木の根元にいた男と似ている。


「同じ男か……?」


「わかりません。御屋形様は我々の後ろへ」


 護衛の若い侍が警戒をあらわにした。

 歩く速度が遅くなり、護衛たちは刀に手をかけて鯉口(こいくち)を切る。

 露骨に襲撃を警戒している。


 俺たちの剣呑な様子に川沿いに座り込む男が慌てて座り直し地面に頭をすり付ける。

 その横を注意して進む。


 また街道を進む。

 俺たちは無言になり、早足になった。


「なんかちょっと気味が悪いな……」


馬場信春(ばばのぶはる)様と早く合流をいたしましょう!」


「そうだな」


 護衛と言葉を交わし街道を急ぐ。

 すると今度は街道の真ん中に寝転がる男がいた。


「おい! あれ同じ男か?」


「いや、どうでしょう……似ておりますが……」


 護衛の若い侍は困惑している。


 男は街道のど真ん中に(むしろ)を広げて、いびきをかいて眠っている。

 旅人風で人相も先ほどの男に似ている。


 これで三回目だ。

 一回目は街道の左で見かけ俺たちが横を通り過ぎた。

 二回目は街道の右で見かけ俺たちが横を通り過ぎた。


 一回目の時も、二回目の時も、男が俺たちを追いかけ追い越す事は無かった。

 それなのに目の前で寝転がっている男は、一回目、二回目と同一人物に見える。


「御屋形様お下がりください!」


「頼んだ」


 護衛の侍たちが俺の前へ出る。

 刀を抜いて構え寝転がっている男へゆっくりと近づく。


 すると突然俺の後ろから声が掛かった。


「恐れ入ります。武田晴信様とお見受けいたします」

■鯉口を切る

『鯉口を切る』と言うのは、動作の事です。

日本刀は鞘に収まっていて、すぐに刀を抜く事が出来ません。

(抜こうとしてもキツくて抜けない)

そこで左手で鞘を持ち親指で刀のツバを少し押し出し、すぐ刀を抜けるようにします。

この動作を『鯉口を切る』と言います。


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