表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/102

第12話 道を歩み始める事、戦国乱世の如し!

 自室に戻り小山田虎満(おやまだとらみつ)を待つ。

 しばらくして、甲冑(かっちゅう)姿の小山田虎満(おやまだとらみつ)が板垣さんに連れられて来た。


 小山田虎満(おやまだとらみつ)はスルリと無駄のない動きで、重い甲冑を身に着けたまま音を立てずに座った。

 妖怪っぽいな。


「若様! 小山田虎満(おやまだとらみつ)ただいま戻りました!」


「ご苦労様。どうでしたか?」


「そうですな……。若様から頂いた書状のお陰で私が総大将になるのは、スンナリ受け入れられました。書状は助かりました。ありがとうございました」


 小山田虎満(おやまだとらみつ)は深々と頭を下げた。

 父信虎が討ち死にしたとの報せを受けて、すぐに小山田虎満(おやまだとらみつ)を総大将にすると書状を早馬で送ったのだ。

 どやらその書状が役に立ったらしい。


「いや。今回は苦労を掛けた。()()()()……」


 ここまで小山田虎満(おやまだとらみつ)の受け答えにはおかしな所が無い。そこで『色々と』に力を込めて、『何かあったのだろ? 言え!』と言葉に意思を込めてみた。

 しかし、小山田虎満(おやまだとらみつ)には、あっさりかわされてしまった。


「いえいえ。私のような年寄りがお役に立てたなら、望外の喜びですじゃ」


 もっと直球で聞かないとダメかな?

 板垣さんと目を合わせる。板垣さんも俺と同じ気持ちのようだ。

 それならもっとダイレクトに聞こう。


「父上に何があった?」


「敵の素破(すっぱ)が陣中に忍んでおりまして……残念ながら……お守りできず申し訳ございません」


 素破(すっぱ)……忍者の事だ。

 ああ、そうだったのか、敵の忍者に父上は討たれたのか。

 板垣さんが味方に討たれたと言うからてっきり……裏切り者がいたのかと……。


 俺がホッとしたのもつかの間、板垣さんが鋭い声で小山田虎満(おやまだとらみつ)()(ただ)し始めた。


「お待ちを! 信濃(しなの)との国境(くにざかい)には素破(すっぱ)の類はおりませんぞ!」


「ひょほ! そうじゃったかのう……」


信濃(しなの)素破(すっぱ)がおりますのは、木曽(きそ)木曽家(きそけ)のみです。おかしいではありませんか?」


「と言われてものう……。事実素破(すっぱ)にのう……」


此度(こたび)の戦は信濃(しなの)国境での国人衆相手の小規模な争いでしょう? そこに素破(すっぱ)など! あり得ません!」


「……」


「小山田殿……あなたが信虎様を討ったのではありませんか?」


「……じゃったらどうする?」


 ああ……やはりそうなのか……。

 父上武田信虎は味方に……小山田虎満(おやまだとらみつ)に討たれたのか……。

 いや、何となくだが、そうじゃないかという気もしていたが……。


 板垣さんと小山田虎満(おやまだとらみつ)は言い争いを始めた。


「ああっ! なぜそのような事を!」


「若様の為じゃ! 板垣! お主もあの場にいたであろう! 信虎様は若様を廃嫡(はいちゃく)すると、三条家のご使者がいる前で明言したんじゃ!」


「だからと言って! 主君に(やいば)を向けるとは!」


「ワシの主君は若様じゃ!」


「だとしても信虎様は武田家のご当主! 時間をかけて太郎様の素晴らしい所を信虎様にお認め頂き、太郎様をご嫡男として認めて頂く道もあったでしょうに!」


「そんな悠長(ゆうちょう)な事を言っていられるか! 今まで信虎様によってお手打(てう)ちになった者が何人おる? 板垣も存じておろうが! 若様がお手打ちになったら手遅れじゃったのだぞ!」


「だからと言って、主君を討つなど!」


「黙らっしゃい! 板垣は傳役(もりやく)のクセに危機感が無さ過ぎるわ! そもそもお主が若様を信虎様にもっと売り込んでおけば、此度のようにワシが動く事はなかったんじゃ!」


「なんですと!」


 板垣さんと小山田虎満(おやまだとらみつ)は、もう(ののし)り合いに近い強い言葉でお互いを責め合っている。


 目をつぶり……、腕を組み……、ジックリと考える。

 小山田虎満(おやまだとらみつ)が父武田信虎を討った。

 それは武田家の当主を殺した……つまり、謀反……。


 いや!

 謀反ではない!

 謀反と言うのは自分の主君を殺して、主君に取って代わる事だ。


 小山田虎満(おやまだとらみつ)はあくまで俺を助ける為に、俺を武田家の当主の座につける為に行動を起こした。

 実際に父信虎は諫言(かんげん)した家臣を手打ちにしている。

 難癖をつけられて俺が手打ちにされる可能性は確かにあった。

 そうして考えると……今回の事はある種の緊急避難……と見る事も出来ないだろうか?


 板垣さんの主張、時間をかけて父信虎に俺の良さを知ってもらう……これは正論……。

 だが、確かに悠長に過ぎるかもしれない……。


 小山田虎満(おやまだとらみつ)が正しいのか……、板垣さんが正しいのか……。

 いや! 違う!

 どちらが正しいか間違っているかの問題じゃない。


 俺は武田家の当主になると決めたのだ。

 だから、金をばら撒いて派閥工作を行ったのだ。

 小山田虎満(おやまだとらみつ)は俺の意思――武田家の当主になる――にそって行動したに過ぎない。

 今回の小山田虎満(おやまだとらみつ)の行動を、俺が受け入れるかどうか?

 ただ、それだけだ。


 胸に手を当てて自分の心に問いかける。

 オマエは小山田虎満(おやまだとらみつ)の行動を恨んでいるのか?


 答えはノーだ。

 父信虎が死んで不謹慎ながら、俺はホッとした。

 これで廃嫡を恐れる事は無いし、命をとられる心配もないと考えた。

 夜も良く眠れた。


 父信虎の死を積極的に喜んではいないが……俺は確かに父信虎が死んで安堵していた。

 ならば少なくとも小山田虎満(おやまだとらみつ)の行動を非難する事は出来ないのでは?


 板垣さんと小山田虎満(おやまだとらみつ)の激論は続いている。

 俺は両手を叩き合わせて、二人の議論を止めた。


「俺は今回の小山田虎満(おやまだとらみつ)の行動を受け入れる。ご苦労だった……」


「太郎様!」


 板垣さんが驚いた顔をしてこちらを見た。


「板垣さんの言いたい事はわかります。ですが……小山田虎満(おやまだとらみつ)も俺の事を考え、俺の為に行動をしてくれたのです」


「それは……」


「それに事の是非を論じているヒマはありません。これから俺が武田家の当主として、どう行動するか。武田家の家臣、甲斐国の国人衆、近隣の有力大名が見ています。前を向きましょう」


「かしこまりました……。太郎様がそうおっしゃるのでしたら……」


 板垣さんは矛を納めてくれた。

 俺は小山田虎満(おやまだとらみつ)に向き直る。


「誰と誰だ?」


「ひょ?」


「今回の行動は誰と誰が関わっている?」


 父上の背中の傷は複数あった。

 小山田虎満(おやまだとらみつ)一人の仕業とは思えない。


「さて……それをお聞きになってどうなさるおつもりですじゃ? 聞いた所で詮無い事ですじゃ」


「そうだな……」


 確かにそうだ。

 誰と誰が今回の行動に加わったか知った所で、罰するつもりはないし、かといって褒美を与える事も出来ない。

 あくまでも表向きには、敵方の素破(すっぱ)の手によって父信虎は殺されたのだから。


「あいわかった。そなた達の忠義はしかと受け取った」



 ――翌日。


 俺は元服し武田太郎改め、武田晴信となり武田家の当主になった。

 家中に俺の派閥を増やしていたのが幸いして特に反対は無く、母の大井の方も弟の次郎も祝ってくれた。


 俺はこの世界に転生して武田家の歴史を変え、武田家に漂う闇、暗い雰囲気を払いたいと思っていた。

 だが、出だしから父信虎の謀殺と言う(ごう)を背負う事になった。


 行くのは血の道か、光の道か。

 いざ、戦国乱世を生き抜かん!

―風の章 完―

次章へ続きます。

ブックマーク・評価ポイントをよろしくお願いいたします!

つづきは、明日0時更新です☆彡

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★☆★ランキング参加中です!★☆★

クリック応援よろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ