表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/83

3.奴隷商

 二足三文で売りさばいたゴミが、実は金の卵を産む雌鶏だった。それを知った欲深な者が何を考えるか。


 畜生と声をあげて、それでも潔く諦めるだろうか。次こそはと、失敗を糧にしようとするだろうか。嘆くばかりで反省もせず、地団駄を踏むのだろうか。酷いモノはならば、もっと金がもらえたと喚いて、すでに決められた契約を反故にしようとする愚者。契約の隙をついたと腐った息を吐いて笑う詐欺師や、約束自体がなかったと駄々をこねる嘘吐きなんかもいるだろう。


 "魔法剣"を闘技場に売りさばいた奴隷商、"顎髭"のレンコールは少なくとも社会規範に乗っ取った商人である。

 二つ名はその見た目と癖から来るもので、彼自身は納得していない。幸運の金眼でもなく。純真の白髪でも、信用の赤肌でもなく。顎髭。しかし、髭を剃ろうとはしない。


 さて、部下の中には、もう少し金をもらってもいいんじゃないかと喚くものもいた。しかし、それを一喝し、レンコールは書類の山に目を戻す。仕事に戻った。彼が何を考えているのか、その部下にはよくわからなかった。


「"黒目(魔力なし)"の確保は済んだか?」


 しばし、書類と向き合い続けたレンコールは、瞬きを二、三度意図的に続けた。文字から目を離さずに、問いかける。

 指示を出していたのは、"魔法剣"と似た特徴を持つもの。あくまで影響が出ているのが、魔力という点である為、生まれつき魔力を持たぬ印をもう持つ者にアタリをつけた。


「えぇ、レンコール様。今のところ、3人です」


「5日で3人なら上等じゃないか」


「向こうも察しているようで、1番に紹介されました」


 流石の"聞き耳屋"ですね、と笑う。あの"魔法剣"の試合から、まだ片手で数えられる日数しか経っていないというのに、仕事が早い事だ。

 とはいえ、あの試合の後であれば、誰だって二匹目のドジョウを考える。

 人攫いどもは、新たな市場に興奮した。学者達はかつて、不可能とされた力を見せつけられ唖然とし、その解明を唄い出す。ただ、情報は未だ混沌としている。


 例えば、"魔法剣"は両性具有である。例えば、敵国の改造兵士。例えば、(神の怒り)と共にこの地に降り立ったところを奴隷商に捕まった。記憶喪失だ。目が見えない、耳が聞こえない、話すことができない。頭に彼の言葉が直接響く。

 見て分かる情報は黒髪、黒目の珍しい肌の色。だが、それすらも正しく伝わっていない。


 レンコールは書類から顔を上げる。なかなかに楽しそうな表情だ。


「ふっかけられただろ?」


「はい。そんな値では買いませんでしたが」


 高いと呟いたら適正価格になりました、と笑う。

 何がしたかったんだアイツは、とレンコールも同意する。

 聞き耳を立てていた部下の1人が想像を膨らませたのか、笑い声を漏らした。


「もう少し、手に入りそうか?」


「いえ、すぐには難しいかと」


 右腕の男の言葉に頷き、思案する。情報が落ち着くまで時間がかかると思っていたが、あまり猶予はないらしい。

 どうだ?と曖昧に問いかける。


「出荷の準備はできています」


 予想していたように、ノータイムで回答がくる。レンコールは、ほうと、顎髭をなでた。そのまま、親指と人差し指で髭の先を摘み、こよりを作るように二本の指を擦り合わせる。

 早い方がいいなと、立ち上がったレンコールは手を叩く。そんな彼に、別の部下が問いかける。


「ふっかけるんですか」


「赤字分ぐらいはな」


 考えてみろよ、顎に触れる。


「お前は、あの薄汚い人攫いが似ているだけの商品を持ってきたとして、望みの値段を出してやるか?」


 それは、もう少し金を貰えたと騒いだ部下に対する叱責と似通っていた。

 あの薄汚い人攫いに、これ以上金を払うのか?

 欲しいのは、"魔法剣"を役立たずと判断するまでに要した費用。儲けがあれば何よりだが、赤字分も取り戻せれば良い。


「そんなものより、俺は信頼を買いたいのさ」


 分かるだろと、ほくそ笑む。


「しかも、国に恩を売れる機会だからな」


「国ですか? 闘技場じゃなくて……」


 教育が必要だなと、呆れ顔のレンコール。見直しますと、右腕の男は冷淡で温和な表情。

 2人の上司の特別な視線に、汗を書く男は目を白黒させる。まだまだ新参の彼が慌てるのは当然だろう。

 よくよく見れば、上司2人は小刻みに身体を震わせ笑い出しそうになっている。それをこらえている姿を見れば、おどけて言った台詞なのだろうと容易に想像がつく。が、正直言って笑えない。

 右腕の男が、新入社員教育を始める。


 簡単に言えば、闘技場は国の息がかかっている。闘技場は、あらゆる理由で第二第三の"魔法剣"を求めている。

 闘技場としては、商業的な理由もある。

 神の御業を操るモノが傘下にいるなんて、なん良い響きだろう。例え、それが如何に不遜な夢であっても。

 そうでなくたって、有用であった。

 人間一人を犠牲に放つ、放出系の魔法を使用したにも関わらず、ステージ上の彼は生きていた。情報屋によれば、まだ死んではいないらしい。そんなものが一人、ないしは複数いればどうだろう。


 彼の存在が、できることを証明してしまっている。


 レンコールは顎髭を再びいじり始めた。もし、噂通り"魔法剣"が他国の兵士であったならと考えてしまう。

 帝国は、純粋に第二の"魔法剣"が欲しい。ならば、作るか、得るか。

 材料が必要だ。現品が必要だ。


 奴隷商は、"魔法剣"を見ていない。

約2000文字。

次回はまた月曜日。

例によって、まだ続きを書いていないのです。

逃げ道は投げ捨てるモノです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ