14.聖職者
"魔法剣"は、姿を変えた神という訳ではないのだろうと結論づけた。根拠も何もない早過ぎる結論ではあったが、そうあって欲しいと、教皇エスパンタ=ディチャ=パハロスは報告書を置いた。
たった1人の執務室に、彼の溜息が満ちる。
まず"魔法剣"は、彼の描く神の像には程遠い。そして非常に人間臭い。
神の虚像に合致する人物など存在してたまるかという話であるが、エスパンタはそれ以外を認める事は出来ない。立場上とか、そう言った対外的なモノではなく、純粋に彼の信仰心からくるものだ。
生き物の死に立ち合って悲しみ、剣を振るう事を嫌っている様子である。それは好ましい。神の教えに沿うものだと初めは感心した。
主神が技を使役するのには少々腹が立ったが、魅せる姿の素晴らしさを、教徒の多くが語ってくれた。諜報を務めたエスパンタの右腕すら、それは認める。悪い事ではない。
声を発しているのは確かであるのに、全く聞こえない。筆談をしようにも"魔法剣"はそちらを知らず、未知の文字を使う。闘技場の方では解読を試みているようだが、文法は単純なようで難しい。法則性が見えるが、突っかかる事が案外に多い。
神々の文字を使っているというものもいる。
それだけ言えば、姿を変えたと考えるものがいるのは理解できる。だが、いかんせん。
「"魔法剣"は俗物だ。」
決して神の器ではない。
闘技場から与えられた女奴隷を楽しんでいる。
食事の良し悪しに厳しく……、いや、舌がとても肥えていた。視覚的に素材がわかり、なおかつ単純な調理で美味しくなるもの以外には反応すらしない。喉の奥に流し込む。
そして、エスパンタの認めた最後の砦それすらも壊しつつある。
初めは、清廉な若者であったというが、気がつけば穢れを浴びていた。
あんな環境にいれば、と悔しそうな顔をする側近の男に、言葉を投げかける。納得してはもらえない事は分かっている。彼の"魔法剣"に対する信仰心は大きい。流石に主神には及ばないが、従神に対する感情に近い。主神、大神、属神……と連なる10階位の神々の中でも、従神は上から6番目の地位を誇る。
「いかにして、"神の怒り"を手に入れたのかは調査中、と」
意思疎通がとれない状況にあるのだから、当たり前といえば当たり前だ。とはいえ、他の方法が無いとは言えない故に報告書には記載されていた。
『帝国は"魔法剣"が"黒目である事が理由と考えているようです』
綴られた実験内容から、目を逸らしたくなる。綴られた文字は歪んでいる。
「帝国は、自然派か」
ため息に乗せて、エスパンタの口から帝国の立場推測を漏らす。うすうすわかってはいたが宗教国家の同盟国が実は宗教的敵国だったなど、笑える話だ。
神の行いを自然現象で論じようとする否定派、それが自然派である。神聖王国が血眼になって探し、屠っている存在。帝国は属神派だったはずだ。"魔法剣"の存在を受け、考え直したか。正しくは、元々、そちらに舵を取りたかった所に絶対の材料が来ただ。
「いけないな」
彼の呟きは大きい。腐っても教会のトップ。その可能性を模索するだけでも、許せるものではない。
そうして、エスパンタの怒りはもう一つ。
聖職者は神の代行者を救わんと、口を開いた。
約1300字。
次回は来週月曜日。
いつのまにかブックマークが増えていました。
2人目のブックマークの方、ありがとうございます。
先日、献血に行ってまいりました。
私は今まで献血車に遭遇した時にしか行った事はなかったのですが、初めての献血ルーム。
せっかくなので、行ってみてはいかがでしょうか?