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11.先達

'20.6.30

文明レベルの調整の為、一部編集。

「私は我慢ならないのだよ」


 そんな風に息を巻く男は、当然ながら酔っている。

 一見、落ち着いているように見えるが、内心に滾る炎を消せていない。そうでなければ、高いプライドを持つ彼が、安易にこんな事を漏らす事はない。


 コロセオの闘技場が誇る三枚看板が1人、"銀貨"ムエル=オロ=エンビディは闘技場に用意された自室で酒を飲んでいる。

 一人酒ではない。豪快に、チビチビと供に酒を楽しむ者が2人いた。闘技場三枚看板で……、というわけではない。"焼け野原"と彼の見張り役として付き従った闘技場職員の男だ。

 久々の酒とあって、"焼け野原"ことソリタリオは酒を楽しんでいるが、職員の男は小さく縮こまっていた。ちなみに、職員の男、その名をデセオと言う。


「して、エンビディ様。我慢ならない、とはどう言った意味なのでしょうか?」


 ソリタリオが反応した。職員の男は目の前の貴族位の人間を前に存在を小さくしていた。

 我慢ならないともなれば、十中八九"魔法剣"の事だろう。会話こそできないが、彼の師としての責を果たそうとソリタリオは決意を固める。


「ソリタリオ、お前は剣闘士とはどういうものだと考える?」


 質問が返された。彼に対する言葉を返そうとしていただけに、ソリタリオは肩透かしを食らう。まだ油断はできないが。

 そうですねと、彼は考えるようなそぶりを見せる。

 ムエルは急かすでもなく、杯の酒を一口、ついと喉に流し込んだ。アマシスタ(葡萄)から作られた酒は舌に程よい甘味と酸味を伝える。


「見世物小屋のヒガンテ(熊の様な生物)ですかね?」


 目の前の貴族が、闘いを極めん為に剣闘士になったと知りながら、ソリタリオはそう述べた。別に、剣闘士を悪くいう事を許す人間だと分かっての弁だったが。

 さらに続くものは、暗い側面。あくまで剣闘奴隷の世界。闇の中で泥をすすり、訓練と称して剣を振るうものと、大部屋ではあったが、体を休め日々の訓練を許容されるもの。ソリタリオの様に、闘う事を期待された者や、"双魚"の様に這い出た者。


「私はね、我慢ならないのだよ」


 ソリタリオの答えを受け、ムエルは杯の酒を飲み干す。そして、もう一度その言葉を口にした。


「"魔法剣"やお前、剣闘士とは所詮見世物小屋の動物さ。もちろん私もだが。だがね、我々の仕事は宗教の道具ではない。そんな使われ方、不本意なのだよ」


 本当は政治に使われるのも不快だが、と呟く。

 先に、前者はともかく、後者の考えは異端だと、ハッキリ述べておこう。

 "魔法剣"が注目を集めるのは、別に特殊な魔法体系を使っているからではない。正直、正しくそれがわかっている者自体が少ない。

 彼の剣が纏う雷は宗教的意味を持つ。


「宗教ですか……?」


「近く、"案山子"の教皇が来る」


「イングラシア教皇ですか。いつかはか関わって来ると思っていましたが……。もしや、教皇も"解放派"でしょうか?」


 神の力を操ると噂される"魔法剣"を奴隷にするなど間違っている。故に奴隷から解放せよというのが"解放派"だ。闘技場はもちろん、その争いの渦中にある。

 末端の剣闘士、剣闘奴隷に伝えられることはないが、ソリタリオはどこかの誰か(慕ってくれる元部下)から、外の話を聞いている。

 それらの要求を、これまで闘技場は拒否してきたというよりも、あしらって来た。一つ要求を呑めばつけ上がる。


「正式な表明はない。ただ、主神が剣だ。よく思っているとは思えんな」


 今は憶測でしか語れんと、酒樽を空にする。相当ペースが早い。デセオが新しい樽と入れ替えるのを目の端に置いて、注いだばかりの一杯を煽る。

 ソリタリオも折角とばかりに、杯を空にし、次の樽を待つ。


「届いた書簡には、"魔法剣"を見に来る旨と対談の依頼だけさ。ご丁寧に"魔法剣"の出場予定までご質問なされたよ。

 この国の貴族にだって、剣闘士のスケジュールは公開していないってのにな」


 単純に私にはそれが気に食わないだけだがねと呟く。

 その自虐的な色を見て、ソリタリオは何があったのかを察した。そしてそれは、ほとんど合っていた。


「"案山子"様は剣闘士を見に来るんじゃない。"参拝"に来るんだ」


 自分達を見に来るのではない。それは我慢ができる。力が足りなかった。

 だが、目的の"魔法剣"に対しても、彼を見ていない。彼の力に興味を示し、自分の常識で大きな顔をしている。

 貴族位にありながら、剣闘士となった変わり者には耐えがたい。剣闘士というものに、並々ならぬ感情を燃やす彼には我慢ならない。

 奇怪な技を使うだけの小僧が持て囃されるのが、気に食わなかった。


「宮廷魔術顧問官殿はアイツを実験体として見てはいるが、剣闘奴隷として扱って下さっている」


 "魔法剣"は剣闘奴隷だ。剣闘士の端くれだ。まだまだ技術は拙い。剣闘士として同列に、上である様に語られるのは不本意だ。

 奇怪な技が注目を集めるのはわかる。


 剣闘士に会いに来て、剣闘試合を観る気が無いのが腹が立つ。


 先達は知っている。"魔法剣"の掌を。

約2000文字。

次回は来週月曜日。

ですが、少し遅れる可能性があります。

その場合は翌日火曜日。


理由は一応活動報告にでも書いておきます。

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