幕間0.狩人の陰鬱
申し訳ありません、忙しかったので、幕間です。
闘技場は、8日に1度、月に4回開かれる。
国教、イングラシア教に定められた安息日に逆行するように開かれる。当時は揉めたものだが、今では当たり前の光景だ。
それに合わせて、屋台も出る。彼らも働き始めた。
闘技場を中心に街は活性化する。
そんな街の一つであるコロセオに、半年ほど前に現れた彗星。"魔法剣"はその波に乗り切れていなかった街にやってきた、桁外れな波であった。
宿屋はパンクし、酒場では怒号が飛んだ。
慌ただしい日々だった。初めは"魔法剣"様々だと笑っていた商人が擦り減っていく。ただ、それも、こうして落ち着いてきた。
人が減ったのではない。慣れたのである。
「なんだってんだ、コンチクショーめっ!」
と、1人呪いの言葉を吐く壮齢の男が1人。狩人組合の組合員、カリダドはその苦労を最も受けた男であった。恩恵を最も受けたのは、もちろん酒場だ。
カリダドに、恩恵がなかったわけではない。この街に住む者は、大あれ小あれ恩恵をうけていないものはいない。
人が増え、食料が足りず、狩りの依頼が増えた。人が増えた。このあたりならなんでもいいと言える範囲だ。
猛獣の生け捕り依頼が、こちらを全く考慮しなくなったのだ。書き入れ時となっているのもわかるが、いかんせん、限界がある。
ただの狩りであっても、死者を伴うことがあるというのに、生け捕りだ。近隣トップといってもいい実力者であるカリダトに依頼が集まるのは必然の事であった。
特に、人気の演目となった、"魔法剣"のヒガンテ単独討伐。ヒガンテの生け捕りとも慣れば、カリダトなしではやっていけない。これまで、死者が1人も出ていない事は奇跡としか言いようがない。
だが、死人が出ていないだけで怪我人は多い。カリダトも深い傷こそないが、生傷が絶えなかった。
その上で、それすら飲み込みかけている。
「ピンクの右腕供、商売の意味がわかってねぇんじゃねぇか!?」
平民と貴族が同様に店を構える帝国で度々見かける問題に、彼は今まさしく遭遇していた。これが初めてという訳ではないが、この忙しい期間に何度目だというワガママに、堪忍袋の尾が切れた。
面と面を向かって言える訳はない。こうして呪詛を吐いている。
「"魔法剣"の野郎がっ! "魔法剣"の野郎がっ!」
と、自らより身分の低い者に当たるのは人としての性なのだろう。
ちなみに、カリダドがギルドに対して、問題の依頼の所為で"魔法剣"の獲物の狩りに参加できないと断りを入れたとしよう。次の試合には問題の貴族の首が断頭台にある。
残念ながら、どちらも貴族の依頼であって断らないと思っているカリダドには取れない方法だったが。端末の貴族とはいえ、下から見るには貴族には変わりない。
あくまで、闘技場からギルドに来た依頼であり、カリダド本人に来た者ではないので断る方ができる。その場合、ギルドから依頼が逆流する。
ヒガンテ以外の猛獣では、"魔法剣"の一撃に耐えられるものがいない。あまり人気があるとは言えないのだ。それを用意する事ができないとなれば、闘技場を運営する貴族の顔に泥を塗る事になるのだった。
ならば仕方がない。
「5日でヒガンテ1頭、ひと月後までにもう1頭だと?」
カリダドは怒鳴りながらも冷静に試算する。もちろん、5日が阿呆からの依頼である。
狩人にカリダドに、街は静かに支えられている。
約1400字。
次回は来週月曜日。
相変わらず書き溜めしていない中、ちょっとありまして、幕間、凄腕狩人カリダドおじさん編です。
次回は本編に戻る予定です。
カリダドおじさんの話はまたそのうち。
同じ世界観の狩人の話とでも思って頂ければ、幸いです。
主人公そっちのけで話がポンポン飛ぶのはいつもの事ですが。