元勇者と集落のその後
中々に優雅な装飾品の飾られた部屋、前の世界で貴族に持て成された事が多々あったので調度品の質や配置、それらで大体の格が分かるものだ。
格としてはかなり上位の貴族、その談話室のソファーで俺は出されたコーヒーに似ているのに何故か紅茶の味がする飲み物をティーカップで飲んでいた。
「ええええっと、の、飲み物お代わり要りますか?」
隣で立っている執事服を着ているサキュバスが引きつった笑みとカタカタ震える急須(見た目がホントに急須)を手に尋ねてくるがどう見ても離れたいと思っているだろう。
実際、チラリと視線を向けると「ひぃ?!」とか言いながら3歩ほど離れた。
ティーカップを置き、別室に預けられているリースの気配を感じながら何故こうなったのかを思い出す。
…………
小鬼の王を殺した後、小規模ながら村人達様に畑を耕し(魔術で直ぐに終わった)そこに植える種なども融通した。
村人達は感謝をし、その様子を見ていたミスティや行商人の方々が呆然とする中見送りの為に囁か宴(材料全部俺が提出)をする事になった。
宴の内容は俺達が帰ることとミスティ率いる行商人の方々が帰るからだ。
その場で出された肉にミスティが気が付き、俺を見ながらニヤリとしたのがムカついたのでトメト味のジュースの元を3滴程混ぜたのを飲ませた。
悶絶するさまを見つつ、宴は終わる。
次の日の朝、旅立つ行商人達を見送り、その次に俺達も帰った。リースが集落の人達との別れに涙目になっていたので助けた事は間違いじゃ無かったと思い、暫くしたらまた来ると伝えてあの家へと帰る。
途中、中々泣き止まないリースにまた会えるからと宥めつつ、後ろをこっそりと付いてきていたミスティを撒き、家に帰った俺達はちょっと埃っぽかった家を徹底的に掃除して過ごした。
それから2週間程過ぎた後、村に行くかとリースを連れて行ったら村人が増えてた。
何でも辺境伯が人員を補充したらしい。その中にリースと同い年程の少女がいたがその傍にウルドがおり、何かデレッデレに甘やかしていた。
そんなウルドをお玉を片手に持った女性がちょっと困った風に見ている。
「リナはえれぇーでちゅねー。」
「……一応聞くけどあれウルドだよな?」
「あーそうだな。何か、嫁?がいたらしい。」
「……俺は何も見て無い。」
「……懸命な判断だ。」
村長代理だった男は村長に正式に就任したらしく、慣れないながらも集落全体で不足している物を木の板を加工した物に書き込みながら生活しているとのこと。
その中で用意できるものは辺境伯が用意するらしいがいかんせん遠いのである程度は予想で書いていたがやはり慣れていないために衣服などの支給品が足りない事に気が付き、手頃な魔獣を狩る羽目になったのは計算外だ。
ついでに周りの結界を点検しているとウルドの一家(嫁さんかなり美人だった)が寄ってきて頭を下げられた。
何でも自分達の借金の為にウルドが自ら奴隷になり、そのお金とウルドがもともと溜めてたお金で何とか家の窮地を脱した嫁さんが約束通りに後を追って来たらしく、ここに来た。
子供は四年ほど前に産まれ、置いて行くか悩んだが顔だけでも見せたかったらしく、知り合いの行商人に無理言ってここまで送ってもらったとのこと……。
中々行動的な嫁さんで、ウルドとよく似合っていると思う。
「……よくこんな危ない場所に来たな。ウルドが死んでいてもおかしくなかった場所なんだが……。」
「その時はその時です。それに、凄腕の冒険者が此処を守っているとか噂が出ていたのでそれならばと賭けに……。」
何故か照れたように微笑む彼女にウルドはしかめっ面になりながら「それでも危ない事に変わりねぇ。」と怒っているが「……でも、会いたかったから……。」と言われて顔を赤くしながらデレデレになっている。
そんな中、リースとウルドの娘がお互いを見ていた。
抱き上げていたのを下ろし、軽く背を押す。
ちょっとだけ戸惑っていたリースだが相手の娘が近寄り、リースの頭のリボンを指差しながら「可愛い!」と言いながらニコニコしている。
釣られたのかリースも最初はきょとんとしていたが少しずつ笑顔になり、「おとうさんがくれたの。」と大事そうにリボンを撫でながら喋り出す。
リースにとっては俺が知る限り初めての近い歳の子供だ。最初の緊張は何処へやら、楽しそうに喋り出していた。
そんなこんなで3日ほど滞在し、過ごしていた時だった。
「……えっとさ、ごめんね農家?隠しきれなかった。」
ミスティ・レイドが豪華な馬車と兵士を連れて集落に来たのは……。
そんなこんなで俺は現在辺境伯の城にいる訳だ。とりあえずミスティにはトメトのジュース(濃縮版)をスプーン一杯分飲ませる事を後でしよう。




