小鬼の王(ヴェゼ)
書いてた途中で仕事に行き、戻ったら書いた文消えて意気消沈。最近やっと元気出たので再開します。
その存在は産まれて来ると同時に王だった。
産んだ雌はすぐさま傅き、近くにいた同胞もまた傅いた。
小鬼の種族の頂点、ゴブリンロード。それは極低確率で産まれてくる。状況も産んだ雌も種たる雄の強さすら関係無く突発的に産まれる。
故に、産まれて直ぐにスキルを持っているのも当然だった。
産まれたばかりのそれは3日で名を得た。名はヴェゼ、誰に名付けられた訳でも無く自身で名を得ていた。
それからヴェゼは好きに生きた。気ままに多種族の村を襲い、そこにいる雌を孕ませ、種を繁栄させ、群れを大きくしていた。
自身は王だ、故に全ては自分の望むままにあると考えていた。
だが、余りにも周りを襲い過ぎたヴェゼはその地区をたまたま見回っていた嫉妬の魔王に出会う。
その時、ヴェゼは劣等感を始めて抱いた。
自身の周りにいる小鬼、それらと比べても圧倒的に相手が上だと分かる軍勢。
たまたまの視察で付いてきた程度の護衛は複数人程ヴェゼと互角に渡り合えるのがいる。
それらを傅き、佇む淡い褐色のエルフ、その存在に嫉妬した。
そこからのヴェゼは速かった。彼女の軍勢に降り、媚びへつらい、その裏で準備を進めた。
嫉妬の魔王の強さは自分よりも強い、だが圧倒的では無い。圧倒的なのは軍勢、故に、その軍勢が意味がない状況を作ろうとした。
自身よりも早く産まれ、先に名を得て、魔王に就任しただけの小娘。ヴェゼはエルフの身体の弱さも知っており、何度も犯した事もある。故に嫉妬心は膨れ上がった。
そんな時、好機が訪れた。
人間の国の一角で勇者召喚が成されそうになっている。その調査の為に嫉妬の魔王が派遣された。
向かう先は森の先の小国、ではなくその先の大国だ。
小国の未来はもう殆ど無い、故に彼女の独断だが大国に潜入した。
いかに魔王でも人間の国で正体がバレないように過ごすには色々と苦労があり、代表的なのは軍勢の殆どを連れていけない事だ。
副官たるサキュバスは連れて行っていたが殆どは残り、日常を過ごしている。
この好機にヴェゼはより多くの小鬼を産ませた。進化を促し新たな種族すら誕生させた。
膨れに膨れた群れは10万、その全てかヴェゼの手足となる。
後は森の先にいるあのエルフを殺すだけ……。それだけでヴェゼは自分が嫉妬の魔王になり、あの軍勢を従えさせられると思っていた。
そんな時、第二の好機が舞い降りる。
憤怒の眷属が死んだ、その死んだ理由の調査に嫉妬の眷属があてがわれるらしいと………。
ヴェゼは信じていないが神に有難うと伝え、その調査に立候補する。
だが当然だが他の部下たちも名乗りをあげる。このままではヴェゼが選ばれる確率は下がるだろう。
どうするか悩み、担当の地区を歩いていた時だった。
「やぁ魔物、今夜は月が綺麗だね。キシヒ。」
「……おや、今のは僕に言ったのかい?」
薄汚い鎧に不釣り合いな剣を腰に刺す男、金髪碧眼であり、この地区にいるはずの無い人間だ。
「全く、担当者は誰だい?脱走者を出すなんて間抜けだね。」
「キシヒ、そうでも無い。私は誰にも捕まってないからね。」
「…仮にそれが本当なら直ぐに訂正することになるさ。」
ヴェゼは歩き、その男を捕らえようとした。
「キシヒ、何を悩む?」
「……はぁ心が壊れているのかな?面倒な問答は好きじゃ「行けばいいじゃ無いか、奪いたいんだろ?」⁈」
男の言葉にヴェゼは止まる。それは先程まで自身が思っていた事だ。
「キシヒ、森に行き、その先を蹂躙する。それが望みなんだろ?悩むなよ、魔物だろ?本能で行動しろよ。キシヒヒャヒハヒハ!」
笑うと同時に男は飛び退る。先程までいた位置にはヴェゼがおり、拳を振り抜いていた。
「……へぇ、心底不快だけど正論だ。君は強いみたいだけど僕程じゃない。それにアドバイスは貰っておくよ。だから見逃してあげる。」
自身が知る中でも圧倒的に早い速度で逃げ出す男の背中を一瞥しながらヴェゼは動く。自身が王であることを示す為に、全軍を持って森に行き、その先の気に入らないエルフを殺す為に……。




