元勇者辺境の地で出会う
城を抜け出して早2週間。
今の俺は王国を抜けて隣のそれまた隣の小さな国に来ていた。
国の名はファーブル、東を険しい山(別名死の山)に阻まれ、西は無数の飛竜が住まう谷に阻まれ、北は常人では住めない魔毒の森(別名鉄錆の森)に阻まれ、最後の南は王国と相対する帝国と隣接している平原の国だ。
はっきり言う。人気が無い国だ。東は転落死が多く、中級の冒険者でも死ぬような山だし、西は上級の冒険者がパーティー組んで挑むところらしいのに手に入る素材は微妙だし、北は素材が良いが魔毒(身体中の皮膚がサビになっていく毒らしい)によって長時間は居られず、当然入ったばかりの場所はもう取り尽くしたらしい。南は下手に冒険者に好きにさせると帝国から侵略する気かと迫られ、多額の損害賠償を求められるらしい。
本当に旨味が少ない国だ。
だけど身を隠すなら持ってこいの場所ではあり、あの世界で生き抜いた俺には東も西も北も関係は無い。北は……面倒になりそうだからパスだけど…。
まぁそんな訳で俺はファーブル国にいる訳だが何故こんなに情報を知っているかと言えば途中の町々で酒場などで情報を得たのもあるが何より、[叡智の大書庫]が此方でも使えたのだ。此方の世界での情報が新しく増えており、魔毒の事も国の現状も知ることができている。残念ながら呪いを解く裏技的な知識は無かったが…。
「アイツには感謝だな。」
森の中を歩きながら大書庫を手に入れた際の事を思い出す。この力は元々俺の力では無くかつての仲間の魔法使いの力だ。それを俺が引き継いでいる。
暫く歩き、魔毒を無効化しつつ迫る魔獣や魔物を無造作に切り捨てて行く。右手に持つは入り口付近で拾ったただの木の棒。檜の棒では無い。ただの棒だ。
この程度の魔物なら剣を振る必要すらない。そもそも神すら殺せるのだからただの棒ですら魔物にはオーバーキル気味だ。
そして更に歩く事数時間…。
走らず、転移せず、地味に進んだのは久しぶりで中々楽しかったが目的地に着いてしまう。
そもそも魔毒の森は中心ほど魔毒が濃いと言われているが実際は違い、中心に近寄るほど薄くなり、中心部から半径5キロは毒はない。(叡智の大書庫記載)
だから住むならそこにしようと決めていた。訳の分からない戦争に駆り出されるのは嫌だし、居場所の分からない魔王を捜すとか面倒いし、ぶっちゃけ俺はあの世界を去ったのは犠牲になった二人の事を思い出すからでもあり、戦争に巻き込まれ無い為でもある。なのでこの世界なら俺を知っている奴はい無いし、ひっそりと隠れて住むなら戦争にも巻き込まれ無いだろう。
帰る事に積極的になる理由も無いので此方の世界でひっそりと隠居生活をしてみよう。
そうと決めた俺の目的地に到着したので取り敢えず辺りの木々を伐採し、切り株なども掘り起こす。木の棒を振れば木々は薙ぎ倒せるし、蹴り上げれば切り株は吹き飛んで行く。力にものをいわせた行為だが周りには誰もいないから問題はない。
十分程行うと綺麗な更地の出来上がりだ。蹴り上げた際に魔法で土を平らにしていたので随分と速い。
そのまま伐採した木々を更地の真ん中に集まると魔力を込める。
「万物万象を我が意思に…{クリエイト}。」
込めた魔力により浮かび上がる魔法陣。木々は形を変えていき、次第に一軒家へと姿を変えた。
「よし。一応中確認するか。」
魔法陣に込められた物質変換によりガラスすら生成され、窓に嵌められている。中の様子を見るために扉を開けると地球で憧れた木々の存在感が優しい内装だ。家の大きさは四LDK程で多少離れた位置に倉庫もある。リビングには大きめの木のテーブルがあり、あの世界でのやたらと豪華な家具とは違い、とても落ち着く。
ちょっと憧れていた一軒家に満足していると腹が減っている事に気が付いた。
そこそこ歩いたし家も建てた。なら初めての我が家で料理を作るのも楽しいだろう。
幸い?周りは森だし森に入る前に寄った町である程度の食料は確保しているので食料は暫くは困ら無いだろう。まだ空いている敷地に畑を作って自給自足をするのも良いかもしれ無い。
これから先の事を考えながら俺は外に出て森へと近寄り、そして……。
「…ん?」
森と敷地の境界で倒れる幼女を見つけた。