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元勇者、子育てに奮闘する  作者: カランコロン
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罪の会談

7つある席の広間。


一つは赤く、その背後には煮えたぎるマグマが飛沫を放ち、その席の持ち主の怒りを示していた。


一つは白く、その席の周りには様々な物が溢れており、その席の持ち主が動かずとも全て手に取れる様に置かれている。


一つは黄色く、背後にはありとあらゆる食べ物が山の様に鎮座しており、その席の持ち主の食欲を示すかの様に……。


一つは桃色に染まり、その背後には肉欲と呼ぶに相応しい光景が広がっており、その席の持ち主の淫靡さを表している。


一つは紫に染まり、色々な写真が宙に浮いている。一つ一つに×が激しく、醜く記され、まるで持ち主の嫉妬を示す為に…。


一つは金色に染まり、様々な金銀財宝がその背後に飾られている。まるで持ち主の飽くなき欲望を示す様に……。


一つは黒く染まっている。周りには何もなく、ただ威厳感じる椅子のみが鎮座している。まるで持ち主の他にはいらぬと言う傲慢を示していた…。


それぞれの異なる席にほぼ同時に彼等は座った。


「今日の報告はなんだい?」


黒の席に座る優男が口を開き、今日の集まりが何かを催促する。


「一年ほど前の赤の右腕が消えた件、進展が無いのでその件に対する報告では無いかしら?」


桃色の席に座るは絶世の美女、見る者を惑わす外見だが声は何故か風の様に爽やかな男の声だ。


「ああ゛?なんか分かったのかよ!」


赤色に座るは竜の鱗を纏う筋骨隆々な巨体の男、ゆうに三メートルは超えるだろう。


「どうでも良い……早く寝たい。」


白の席に座るは小さな少女、長い白髪をずさんに纏め、近くのタオルケットをかけて目を瞑る。


「おいおい、寝るなよ白いの。きっと有意義な話が聞けるぜきっと。」


金色に座るは見るも眩しい煌めく鎧を着込む青年。片手に金貨を握りザラザラと零しながら楽しげに笑う。


「有意義?ならお菓子かな!お菓子なら私が食べるよ!」


黄色に座るは愛らしい妖精の少女。だが側の食べ物に体ごと飛び込むとすぐ様食べ物は消えて行く。


「……はぁ、そうね……結論から言うと判らないわ。」


紫に座るは片眼鏡のエルフ、だが肌色は日に焼けたかの様に多少黒く、その手元には書類が握られている。


その書類を見ながらエルフは淡々と感情を表すこと無く内容を告げる。


「赤の右腕、錆の暴れん坊は一年ほど前に消滅を感じたわ。それに伴い暫くは森の方も弱っていったけれど……。これ。」


言いながら取り出したのはモモルの実、それをそれぞれの席の前の中空に浮かべるとまた書類に目を移す。


「少し前から市場に流れている実よ。品質は「うまーーー⁈」……黄色の言う通り、最高品質。」


台詞の最中に我慢出来ずに先に食べ始めた妖精にジト目を送ったエルフは軽く溜め息を吐くとまたも無表情で語る。


「……へぇ、これは凄い。此処までの物は初めてだ。」


「⁈んだこりゃ!滅茶苦茶うめぇ⁈」


「……?優しい甘み、よく寝れそう。」


「ん〜〜私に似合う良き色合いね。」


「くっっっはぁー!こりゃ良い!もっと食いたくなるな。」


それぞれが一口齧り、それだけで唸る。当たり前だ。既存に無いほどに濃縮された魔力とそれに伴う甘みと旨み、瑞々しさが口の中を優しく、それでいてしっかりと主張するのだから。


「私も一つ食べたわ。今までのよりも間違い無く美味しい。それが示すのは……錆の暴れん坊はより強い者に殺された。そして今あの森は別の強者の支配を受けている。」


「それは凄い。錆は間違い無く僕等に準ずる力を持っていた。理性が無いからなれないだけで赤と争う程の力はあった。」


「チッ……。まぁ確かにアイツとやり合うと俺も無事じゃすまねぇ。」


「…………で?その強者は何者?何処の所属?」


白い少女は身体を椅子の上でグデンと怠そうにしながらもエルフに先を促す。勿論早く終わらせて寝る為だが……。


「最初に言ったわよ。結論から言うと判らないわ。何が、誰が、どんな種族があの森に住みだしたのか……。一応子飼いの冒険者にも当たらせたわ。けど皆んな追い返される。勿論…………私自身も……。」


「……つまり、今あの森の中に住むのは俺様達を追い払える術師って事か?」


そのモモルの実を気に入ったのか青年は齧りながらエルフに問い質す。


他の面々も食べるスピードに差はあるものの気に入っているのか食べるのを止めるものはいない。


「そうね。術師なら私か白、桃の傘下になるかしら?」


「おいおいおい、冗談だろう?俺様は気に入ったんだ。そいつは俺様が貰うぜ?」


「えーー、私も欲しいよぉ〜。モモルでこれなら他のも色々美味しいでしょ!」


煌びやかな青年がニヤリと笑みを深めながら宣言するがモモルを食べ尽くした妖精がそれに対抗する様に宣言する。


他の面々も声には出さないが考える事は同じく、一部はどうやって出し抜こうかと考えていた。


「その存在は確かに気になるね。そして君の事だ、もう調べる為の手は打っているんだろう?」


にこりと柔らかな笑みを浮かべる黒の優男にエルフは片眼鏡を外し、左右非対称な目を晒す。


右目は黄土色で左目は銀色、その瞳は綺麗だが無感情な表情のせいで氷や様な印象を受ける。


「手を打とうとはしたわ。だけどそれよりも先に私の右手が勝手に動いた……。」


「あぁ゛?んだよ、部下の躾も出来ねぇのかよ。」


「あら、それを貴方が言うのねぇ?錆の坊やがあの森に住んでいたのを止められなかったく・せ・に?」


「殺すぞ淫魔!」


一触即発な空気になるが誰も止めようとはしない。そもそも此処は不干渉な地なので殴る事すら出来ないと全員が知っているからだ。


「おいおい,喧嘩は見苦しいぜ?紫もよ,さっさと続き言えよ。」


「……そうね。森の調査は幹部の一人に一個中隊を連れさせて頼む予定だったわ。だけど頼む前に小鬼のバカが勝手に10万もの軍勢で森に向かったと報告が来たの。情報操作は完璧にしていたのに何処かから漏れたか……。或いは別の理由で向かったか。どちらにせよ帝国が黙ってはいないでしょうね。」


「……大変そう。私なら諦めてさっさと寝る。」


「だから君には頼まなかったんだけどね。」


「…………帰って良い?」


優男の言葉に不機嫌そうにタオルケットを頭から被る白い少女。優男はにこりと微笑んでいるが何を考えているか誰にも分からない。


「まぁまぁ,取り敢えず帝国の方は君に任せるよ。今は辺境伯までなったんだけ?」


優男が立ち上がり、それに合わせて全員が立った。それぞれが消えながら最後に残ったエルフは片眼鏡をかけ直すと同じ様に消える。


「はぁ、あの森は消えるかしら……。」


小鬼の王に蹂躙されるであろう森を思い浮かべ、そしてそれによる被害の事を考えながら彼女は日常に戻る。


辺境伯の領主として……。


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