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元勇者、子育てに奮闘する  作者: カランコロン
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元勇者と同業者(ミスティ・レイド)

村にやって来た小隊は荷馬車を広場に置くと荷を下ろし出す。その側にいた同業者は馬から降りると手綱を引きながら側にやって来た。


「いや〜、驚いたわ〜。農家がこんなとこにいるなんて思いもしなかたよ。」


そう言いながら同業者、ミスティは飴玉や人形などを鞍に付けた背嚢から取り出して俺の後ろで隠れて様子を伺っているリースに差し出す。


だけどリースは受け取らずに背後に完全に隠れた。それにショックを受けた様な顔をしたがすぐさま好戦的な表情を浮かべるとミスティはリースの背後に回り込もうとし、それからリースが逃げる構図が出来上がる。


「おろ?待ってって、飴ちゃんあげるから。」


上位の冒険者でありながら可愛いもの好きなミスティは以前リースの顔を見てからずっと抱き締めようと色々な手を打っているが何も成功していない。それどころかリースの中でミスティは危険人物に準ずる扱いになっていた。


追われて涙目になるリース、すぐさまミスティの頭を掴み締める。


「潰すぞ?」


「ごめん、マジで痛いですすみません。」


締めていた手を離し、頭を押さえるミスティは「いちち……。」と言っているが俺には知ったこっちゃ無い。


ミスティは一応俺の実力をある程度(それでも加減はしている)知っている者なので遠慮をする必要はない。


背後から俺のローブに潜り込んだリースを抱き上げて荷馬車の方に向かう。


保存性重視に加工された野菜や肉類、穀物などにしっかりと鍛え上げられた斧や鍬などの農耕具、だが残念な事に新しい人員はいない様だ。


特に大工がいないのが痛い。前にいた大工は以前襲って来た魔獣に挑み、そのまま喰われてしまったらしい。


それも結構昔の事で、そのせいか村の家などは見様見真似すら出来ずに必死に適当に組んだ家だとか…。


置いてある斧を持ち、軽く刃をなぞる。しっかりと鍛え上げられているのは見ても分かったがこれではここの森の木は切りにくい。


以前の黒錆の主の魔力ならまだ幾分かマシだが現在は俺が魔力を流している。そのせいで今まで木をなぎ倒して進んでいた魔物や魔獣が薙ぎ倒せずに頭を打ち付けて昏倒する姿も森のあちこちで見かけている。


多分だがおよそ一本の斧で二本の木が切れればいい方だろう。


知らなかったとは言え、間接的に俺が彼等の妨害をしてしまう事になる。


辺りを軽く伺い小隊の人達が荷下ろしで離れている時に[鍛治神の教義]を発動。地中からミスリルを抽出し斧に混ぜておく。これで早々に刃こぼれはしないだろう。


以前はひっそりと暮らしたかったのに何で俺がひっそりとした暮らしの道程を邪魔しているのか多少は思う。だがそんな考えよりリースが笑顔になるのでそちらを優先だ。


父性が目覚めると多少なりとも考え方が変わるんだなと思いながら手早く斧を加工する。


全ての斧の強度を引き上げると序でに鍬や鋤なども強化しておく。


「おろおろ、いたせりつくせりだね。農家ぱない。」


「………。」


「無視は傷つくな。」


復活して側に寄って来ていたミスティを無視し、テントの中に入る。すると案の定ミスティも付いて来ており中に入って来た。


「此処が農家の家?意外……。」


「違うし、お前に教える義理がない。」


「え〜私と農家の中じゃん。教えてよ〜。」


「乗り込んで来そうだからヤダ。」


「チッ……。」


「目の前で舌打ちって……。」


抱き上げたリースを下ろし、飲み水を持って来てもらう。3人分は不慣れなリースは多少フラつきながらも側まで無事に飲み水の乗った盆(作った)を置くとパァァと明るい笑顔になり、達成感が半端じゃない。


そのまま抱き寄せて膝の上に座らせつつ頭を撫でるとミスティの目が見開いているので警戒して俺のローブを掴み、リースの身体を隠す。


「………ヤバイ……農家、やっぱりリースちゃんを私のお嫁さんに「あ゛?」やっぱり何でも無いです。」


目の前の敵未満が何か言いかけたが優しく問い正すとすぐさま顔を逸らしながら水を飲む。どうやら俺の勘違いの様だ。


そのまま飲み水を飲んでいるミスティの前に最近凝り始めた菓子(叡智の大書庫は偉大だ)の試作品を置き、飲み水の中に収納していた柑橘系の濃縮エキスを垂らす。


リースの分にはモモルの濃縮エキスを一滴垂らして渡すと嬉しそうにクピクピ飲み出した。


「……農家、今の何?」


「ジュースの元。」


「私にも頂戴よ〜。」


このまま無視する事も出来るが煩わしくなりそうなので小さな瓶を置いた。


「あんまり入れ過ぎ「てい。」……。」


人の話を聞く前に半分程どぱっと入れたミスティは赤くなった飲み水を口にして噴き出した。


まぁ当たり前だ。ただでさえ一滴でウェル○並みになるのに半分も入れるなんて最早劇薬と変わらない。何より赤はトリト(トマトっぽい果実)味だ。


「うぇぇ、嫌いな味がする〜。」


赤い液体を忌々しそうに見ながら出した菓子で口直しをし出すミスティ。その菓子は結構な自信作なのでリースにも渡す。


「うま〜。」


「(サクリ)……⁉︎……おとーさん、…………美味しい。」


サクサクとラングドシャ風の菓子を食べるリースが小動物の様で和んでいると俺が食べてない事に気が付いたリースは新しいのをを手に持って俺の口元に持ってくる。


「……あーん。」


「あ〜ん♪」


俺に差し出した物なのに何故かミスティが口を開けて催促する。思わぬ事態に戸惑っているリースを助ける為にリースの手から菓子を食べ、ミスティに飲み水(トリト味濃縮タイプ)を渡す。


「…農家さ、私に対する扱い酷くない?」


「酷くない。野菜は健康に良いんだから勧めるのはむしろ良い事だろ?」


にこりと笑みを浮かべながら言うと苦笑いしながら持参していた飲み水を飲み出すミスティ。


飲み終わると同時に目が変わる。


「…此処に何で農家がいるのかは知らない。でも好都合だ。」


「…何かあるのか?」


「森の向こう、魔族領で小鬼の王が誕生したって。」


「………。」


言われた言葉に戸惑う。何故ならさも魔族領の事を知っている風に言われているが俺は森の周囲は余り調べていない。寧ろ魔族領近かったんだと思った程だ。


「嫉妬の眷属、小鬼の王は暫くしたら森に来るかもしれない。農家の強さは私より強いのだけは分かるけどそれでも小鬼の王が連れてくるのは一万程度じゃ済まないらしい。森から離れるのをお勧めするよ。」


「…仮に、俺が森から離れて別で暮らしたとしてだ。…………この村はどうなる?物資を運んだって事は開拓は続けるんだろ?」


「そうだね。その為の食べ切れないほどの食料だよ。」


「………。」


贄か……。


運んで来た食料の中、その中の何割かは無事な食料だろう。だけどそれ以外は凡そ毒入りの食料で、小鬼達に食わせるのが目的と言ったとこか……。


そして、小鬼の王に疑わない様に襲われるその時まで村人達は日常を過ごす。文字通りの贄として……。


腕の中のリースが怯え出す。理解しているのかは分からないけど、多分怖い事が起きる事だけは分かるのだろう。


「……それで?辺境伯はどこで迎え撃つんだ?」


「数が数だからね……。元王都の前の平原辺りでやるつもりみたい。既に近くの有力な冒険者にも収集命令が出てるよ。」


と言うことは元王都の間にあるいくつかの村や町は消えるな……。


「……農家が有名になりたくないのは農家事情だよ。でもね、有力な冒険者を此処で失うのは後々の戦いで困るんだ。」


「……とりあえず考えとく。」


「……あんまり時間は無いよ。」


そう言い、ミスティはテントから出て行った。




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