貧相な村人の話
わけわかんねぇ……。
目の前にある食べ物の山、それをよく分かんねぇ魔法?で消して行く男に、俺は絶句する。今までの人生でこんな量の食べ物見た事ねぇし、魔獣の山とか一体幾らだ?
元々は豪商の三男坊、母さんはとっくに死んでて親父の店で家族四人で暮らしていた。
でも俺は親父が、家族が嫌いだった。死んだ母さんは俺が小さい時に死んだけどそれでも優しくて綺麗な人だったのを覚えてる。なのに親父は母さんの見舞いもせずに金を稼ぐ事しか興味が無くて、母さんが死んだ時も別の町で新しい支店を出す準備をしていて会いにも来なかった。兄貴達も兄貴達だ。母さんが死んだら若い人を嫁にして楽しもうとか言い出しやがった。虫唾が走る。
母さんの最後の言葉、「愛されたかった。」涙を流しながら弱り切った手で俺の頭を撫でてくれたのを忘れることなんか出来やしない。
母さんが死んだ後の葬式は母さんの家族がひっそりと行った。俺は出たけど他の家族は出ようともしなかった。
そこで俺は婆ちゃんに出会った。母さんの母親と言って、「ゔぢのむすめばみどっでぐれであんがどなぁ。」って涙を流しながら手を握ってくれた。
これが家族だ、アイツらは家族じゃない!
元々仲が良かった訳じゃないけど母さんが死んでから俺は家族と話をしなくなった。家の中にいるのが嫌で、成人の儀を受けた際に俺は名を捨て、王都の街から地方の町に移り住み、一人で暮らし始めた。
前途多難で苦しい日々もあった。けどアイツらのいない生活は楽しくて、俺はがむしゃらに働いて暮らしていた。
その内、好きな人も出来た。
その人は宿屋の娘で人気があった。でも告白したくて頑張って今までよりも働いた。
もう少しで目標にしていた金額まで溜まる。そんな時だった。
宿屋の娘が未開発地域で開拓の為に連れて行かれると聞いた。理由は表向きは経営難からの借金。裏ではあの娘を欲しがった役人の裏工作。でも証拠は無く、あの娘が途方に暮れていたのを見た俺は貯めた金全てと代わりに俺が行く事でなんとかするとあの娘に伝えた。
泣きながらに感謝され、その夜、あの娘と結ばれた。
俺を彼女達の奴隷にする事で足りない金を工面し、貯めた金と俺自身で家を救えたあの娘は必ず会いに行くと言い、涙を流しながら俺と彼女は別れた。
連れていかれた未開発地域はかつて魔毒の森と呼ばれた場所だった。そう言えばこの近くの村に婆ちゃんが住んでたなと思い出しながら俺は連れていかれ、同じように開拓を命じられた人達と一緒に森を切り開いていった。
元々開拓なんかしたことの無い俺だけどそれ以前の問題だと直ぐに分かった。
開拓ってのは木を切り倒し、切り株を引っぺがし、土を耕し、人が暮らしていける場所を作る事だ。
けどこれが簡単じゃない。まず木が硬い。鉄製の斧は幾ら降っても中々刃が通らず、やっと切り倒せたのは一本で1週間もたった。
更に地面も硬く、スコップは役に立たずにすぐにダメになる。
極め付けは森から出て来る魔獣。一応冒険者が防衛の為に雇われているけど追い返すので精一杯で対策も後手に回っている。
当然間に合わない時もあり、人が目の前で食われるのも何回も見た。
日に日に人が減って、食べ物もろくに無く、このまま死ぬのかと怯えて暮らしていた。
そんな時に、婆ちゃんがやってきた。何処から聞いたのか俺が此処に いると知った婆ちゃんは所有していた畑を売り、その金を使ってより硬い斧や鍬などを持って来た。
更には食料も持って来てくれてみんな喜んだ。
けど、喜びは長く続かなかった。
防衛の為の冒険者が一人食われ、それに怯えた冒険者が婆ちゃんの食料を奪って逃げやがった。
気が付いた時にはもう遅くて、冒険者が何処に行ったのかすら分からない。
残った食料をみんなで少しずつ食べて、そんな日々が何日も続いた時、婆ちゃんは倒れた。
いつも少なくて、でもみんなで分けて食べていた食べ物、だけど婆ちゃんはその食べ物を全部俺に食べさせていた。
藁の布団の上で弱り切った婆ちゃんに涙ながらに聞いた。なんで俺にくれたんだって……。
そしたら婆ちゃんは笑いながら「孫さぐわせでなにが悪い。だがら婆ちゃはいらね。」って言って、昔みたいに頭を撫でられた。
悔しくて哀しくて、どうしたらいいか分かんなくて、そんな時に冒険者の話を思い出した。
森の奥深くにいる妖精、手を出そうとすると追い払われ、怪我を負っていたら治してもらえて追い払われる。
それにすがるしか無かった。がむしゃらに走った。熊とか猪とか大きな鳥とか、今までで見たことの無い奴らが襲って来たけど同士討ちしてくれたり、天敵同士だったりで何とか撒けた。
それで見つけた家に乗り込んで、今の俺は来た道を戻ってる。
俺が走った速度の何倍も早い速度で荷物のように担がれ、隣には怖いけど楽しいのか男の子供?の少女が目をちらりと開けてはすぐに閉じて男に抱き付いている。
道中の魔獣は「あ、肉だ。」の一言で済ませ、木の棒で頭を叩いて仕留めている。
もう何が何やら分からないけど、一つ分かることがある。
少なくとも俺が知る冒険者の中で一番強いのはこの男だと言うことだ。




