元勇者脱出する
壁端に立つ女性は自身を王女と言った。まぁそうだろうなとは思っていたしそこら辺の事はどうでもいい。金髪に整った顔立ち、服装は純白のドレス。それが壁端に静々と佇んでいる。普通の人なら絵にしたい程の美貌だがあの世界で様々な美人を見た俺は精々中の上か上の下にしか感じない。
何より…
「何故かは分かりませんがこの術を解除していただけないでしょうか?」(この男!殺してやる!私にこの様な仕打ちをするなんて!鞭打ちだけじゃ済まさないですよ!皮を剥いで串刺邢にしてやります!)
内面がブスだ。
向かうの世界に置いてきた彼女や死んだ聖女に比べたら月とスッポンすら生温い。まぁ王族にはまともなのが少ないんだろう。向こうもそうだったし…。
溜息を吐きながら王女様(笑)に近寄る。距離にして壁ドンが容易く出来るほどの至近距離だ。その距離まで近寄ると流石に多少目が揺らいだがすぐさま元の笑顔だ。王族としてフェイスコントロールは完璧ですね分かります。
「聞きたいんだけど、俺は本当に魔王と戦うだけ?」
「…はい。」(さっさと私を解放すれば良いのに!まぁ隣国に魔王がいると言えば我が国も国土が増しいずれは…)
この時点でもうこの国にいる理由が無くなった。争いを無くす為にあの世界から消えたのに何故別の世界で争いをしなければならないんだ?
「あっそ。もう良いや。《忘れろ》」
もう一度、力在る言葉を使い王女様(笑)達に干渉し記憶を封じる。全力で暴れても良いが無関係な人達もきっといるだろうから流石に躊躇ったので記憶を封じる程度にしておく。
全員がビクリと震えると目が虚になり何も喋らなくなった。後は魔法陣に干渉し、失敗する要因を書き足す。これでこの王女様(笑)の召喚は失敗したと思われるだろう。
さてと、どうやって脱出するかだが{ビジブルアイズ}を発動する。この魔法は周囲の無機物を透視する魔法だ。街中で使えば即座に捕まる程にあの世界では規制されている。
軽く周りを見回し、また溜息が出た。今俺がいるのは予想通りの王城の一室で近くには兵士が二十人はいる。この部屋の中にも十人はいるが厳重体制だ。
唯一の扉から出るのは骨が折れる。なので俺は窓が無いがこの先は外の壁に近寄った。
右手を振り被り、身体強化のスキルを掛けながら魔力を右手に集める。そしてそのまま勢い良く壁に向かい拳を振り抜いた。
壁は木っ端微塵に砕け散り、その先に青空とその下に賑やかな城下町が見える。
「予想以上に脆かった…?」
結界も張ってあるだろうと思い、打ち砕くつもりで魔力撃を放ったが必要性が無かったかもしれない。現に壁は拳で砕けたし魔力撃は飛んで行ってしまった。
まぁここの防衛がどんなのかは関係無い。眼下では悲鳴が、扉からは怒声が聞こえる。下からは「何が起きたと」、扉からは「何があった、ここを開けろ!」と言っている。
その声を尻目に俺は自身に透明化の魔法{インビジブル}を掛けるとすぐ様外に飛び出した。
それと同時に王女様(笑)達に掛けたままの力在る言葉を解除して…。
次回は元勇者辺境に辿り着くだと思います。