元勇者と少女、一年後
人々で溢れかえる市場。その中をローブを深めに被り片手に皮袋、もう片手にはリースを抱き上げて目的地に突き進む。
目的地はファーブル領冒険者ギルド支部だ。
道中通りがかった屋台や出店は客引きのために声を上げ、一年前にも此処を通ったがその時には想像出来ない程に美味そうな匂いの串焼きや果実の水割り、ハチミツを練り込んだパンなどが売られている。
そんな中、9ヶ月程前から贔屓にしている菓子パンの屋台に立ち寄る。時刻は昼過ぎ、依頼の報告を済ませてから昼飯にしようかと思ったが近寄った時にリースがチラリと見ていたので立ち寄った。
「モモルの練りパン一つ。」
「お、また来たか!ほらよ!」
顔馴染みな定員は薄桃色の捻られたパンをリースに渡す。この子がいつもこれを頼むのを知っているからだろう。
渡されたリースは食べたいのを見透かされたのが恥ずかしいのか頰を赤らめ俯きながらもお金を渡し、パンを受け取る。
「…ありがと…う…ございます。」
ただ、やっぱり喋るのは苦手なリースはぽつりとお礼を言う。喧騒の中、リースのお礼は普通聞こえない。だが定員はお礼を言っているのを理解しているためニカッと笑う。
「どういたしまして!…お?それ依頼のやつ?」
「あぁ。出てたから採ってきた。」
皮袋を開き、中からモモルの実やその他の果実を取り出す。定員はそれを「へー。」と言いながら品質を見ていた。
「流石は子連れの農家。品質最高じゃないか?」
一通り品質を見た定員はそれを袋に詰めて俺に渡す。それを受け取った俺はまた肩に担ぎながらその場を離れた。
スタスタと早足で歩いているとリースが千切ったパンを俺の口元に差し出す。
抱き寄せられているリースはお昼の事も考え、三分の一ほどの量を食べると決めたらしく、残りを俺にお裾分けのようだ。
「ありがとう。」
「…どういたしまして……。」
差し出されたパンを食い、お礼を言うとリースは細やかに微笑みながらローブを深く被る。
今現在の俺とリースはローブを纏っているとはいえ人里に定期的に降りてきている。場所は以前通ったファーブル国王都だ。
最初は調味料の類を買うためにまたあの婆さんに買い物をしようとしていたがリースを家族にしてから三ヶ月立ってから買い物に近くの町に行ったら3ヶ月の月日は意外と世界を変えたらしく、ファーブル国は滅んでいた。
なんでも王国と帝国の戦いが長引きそうで帝国の帝がファーブル国に恭順を誓えと迫り、それに王族は話を濁しながら時間を稼ぎ、逃げ出したとか。
だがそれを読んでいた帝により道中で殺されたらしく、このファーブル国土はそのまんまファーブル辺境伯領となった。
新しい統治者は意外と有能らしく、この半年ほどで農業改革などもズバズバと進めているとか。
まぁ成功している理由が俺が鉄錆の主を殺して溢れ出していた呪いを元から絶ったからだけど、殆どの領民はその統治者のお陰と思っているらしい。
それに、そんな事より俺にはあの婆さんが引っ越した事に驚いた。なんでも何処かの未開拓地域にいる息子の為に店を閉まって出向いたとか。予想外にパワフルな婆さんだ。お陰であの町ではなく元王都に出向いている。
まぁそんなこんな有り、リースの為の服や下着、後は調味料や食材の買い出しの為に現在は一ヶ月ほどで降りてきて適当にお金を稼ぐ為に手頃なランクで果物を納品している。
これが今の俺とリースの現状だ。




