元勇者、ちょっと本気出す
響いた澄んだ音は俺の魔力を纏い、広範囲へと一気に広がる。
[透過の水唱剣]これは戦いには向かない剣だ。ちょっとぶつかるだけで砕け散り、相手に致命傷は与えられない。
かわりに絶対の索敵能力の剣だ。
砕けた剣は澄んだ音を発するが実際には数万もの音波が発生し、特定の物だけをすり抜けずに跳ね返る。例えばaの音は岩の中の一種類の鉱石に反応して跳ね返り、bはタンパク質に反応して跳ね返る。
そうして数万もの音波が跳ね返りながら広がり、それを俺の魔力によって理解する。
そうすれば地形も理解し、近くの鉱石も見つけ、探し物すら苦にならない。
もし仮に森の中をあの子が逃げているならこれで見つけられる。
「………⁈いた!」
逃げたと思われる方向から大きくずれているが幼女は生きている。だが、その後ろにワザと遅く歩み寄る竜種もついでに見つけた。
幼女が疲れ、のろのろと動けば咥え、投げ飛ばし、傷を負ったのか動かなくなれば魔法で無理矢理治してまた逃げさせている。
………遊んでやがる…。
魔王クラスの魔物だ。なら既に幼女は死んでないとおかしい。なのにワザと殺さないように、絶望を与えながら楽しんでやがる。
何より、戻って来た音波には[透過の水唱剣]以外の音に反応するのもある。
「ギャキャギギィガギャ!」
下卑た鳴き声が聞こえた。
ぶちりと、何かが切れた。いや、何かは俺の怒りだが……。
頭の中の冷静な部分が幼女の逃げている方角とその途中の地形を理解し、血が上っている部分が言葉を紡ぐ。
「[勇者の威光][戦神の恩恵][身体強化][身体能力向上][剣神の技][竜殺者]{フェジカルアップ}後はいいや。」
発動したスキルと魔法が俺の力を膨れ上げる。
途中の地形を理解し、両脚に力を込める。
このまま幼女が逃げれば途中で大木に進路を妨げられる。そうなれば幼女は食われるだろう。
だから、ちょっとだけ本気を出した。
跳ぶと同時に地面が爆発する。けど知ったこっちゃない。