元勇者、孤独を想う
見晴らしの良い敷地は広さの割に小さな家が一軒だけ立っていたが今は見る影もなく、使用した建材はボロボロの木材として辺りに散らばり畑や低木をなぎ倒していた。
本来家があった場所の近くにある血溜まりは匿った幼女の生存を否定するかのような量で、どう考えても生きてはいないだろう。
まぁそれ以前に…。
「マジか、適当に作ったとはいえ俺の結界を破る魔物がいたのか?」
この世界での俺の強さは大体理解している。[叡智の大書庫]で調べれば本気になった俺の力と渡り合ったり出来る奴は極端に少ない。
当たり前だ。あの世界での冒険、得た力、そして成した神殺し…。
人としての枠組みなんてとっくに越えている俺はそこらの木の棒でここらの魔物なんてコマ切れに出来るのだから…。
そんな俺が張った結界だ。適当とはいえ魔王クラスの実力が無ければ無理だろう。
はぁ、と溜息がこぼれた。
「こんな辺鄙に魔王クラスの魔物か魔獣がいるのか…。まさか本当に魔王じゃないだろうな?」
死んでしまったであろう幼女には悪いがもともとそこまで関わりのない子だ。運が悪かったとして諦めよう。
「…血生臭い。」
血溜まりを見ながらどうするか考える。もし本当に魔王なら関わってもろくな事にはならないだろう。
仮に魔王クラスの魔物なら町で言っていた鉄錆の主な可能性が高い。そしてそんな有名な魔物を殺せば此処にも人が来れてしまう。
「……引っ越すか…。」
出た結論にしょぼくれながら瓦礫を持ち上げた時、潰れたモモルの実があった。
「…あれ?」
感じたのは違和感。邪魔な瓦礫を浮かし、辺りの地面と床を見る。
「…これが主か?」
家の近くにあった大きな足跡は竜種を彷彿とさせる。魔力の残滓は自分のしか無いから物理で結界を壊し、体当たりか何かで家も壊したのだろう。
なのに……
「ここら辺だけやたらと綺麗だ。」
モモルの実が潰れていた場所、瓦礫が積み上がっているがその辺りだけやたらと床が綺麗だ。
それに、あの子は家から出られない。身長的にドアノブに届かないからドアが開けられない。
なら何で家の外に血溜まりがある?
血溜まりに近寄り{鑑定}の魔法を発動する。
/クマさん(俺命名)の血液、魔力により錆の呪いに掛かっている\
……あれ?これって途中のクマさんの死体の血液?
もう一度辺りを見回す。ここ以外には血痕すら見当たらない。
そして、足跡は森に入っている。俺の来た方とは逆方向に……。
それは見覚えがある光景とどこか被った…。
あの世界で負けた時、逃げている時、俺たちを逃がす為に犠牲になった近衛騎士団の奴らが別れた時の後ろ姿と何処か被って見えた。
「……まさかな、いや、だって……出会って1週間もたってないんだぞ?」
あり得ない、自分が敵わない相手から他人を逃がす為に行動するとかどこぞの聖女さまじゃあるまいし……。
大体、俺はあの子を何処かの街に置いていこうと考えていたんだぞ?優しくした覚えもない。なのに、恩義なんて感じるわけが無い。
だからきっと気のせいだ。
自分に言い聞かせながら取り敢えず跡始末だけはするかと浮かせていた瓦礫を一箇所に集め…。
「これ燃やすから近寄んな……よ………。」
後ろを振り返りながらいない誰かに語り掛ける。
「………。」
今までの人生、一人でいた事は極端に少ない。地球にいた頃は友達とバカやって、家族と食事をして、あの世界では呼ばれてから殆ど聖女がそばに居たし、仲間も増えて騒がしいぐらいだ。
だから、この世界に来て一人なんだと、漸く気が付いた。
それで、会ったあの子を見て、何処か和んでいた自分がいる事に今、漸く気が付いて……。
「………何だ、置いていこうとか、無理じゃ無いか。」
自然と自嘲の笑みが浮かぶ…。
一人が怖かった。一人が良かった。
あの世界で仲間が沢山死んだ。聖女も、魔法使いも、俺に剣の使い方を指南してくれた近衛騎士団長も……。全部、俺が未熟で、どうしようもないバカだったから。みんな、俺が殺したのと変わらない……。
地球では俺を呼んだ際に俺のいた記録と記憶が全て消えているらしく、俺は一人になるはずだった。
一人になりたくて、元の世界に帰ろうともしていた。けどこの世界なら一人でいられるから、ならこの世界でもいいやと半ば思ってた。
けど………
「一人は、嫌だなぁ………。」
呟くと同時に魔力を練り上げる。浮いていた瓦礫は迸る魔力により砕け、燃え、灰にすらならない。
「[透過の水唱剣]」
右手で水晶の短剣を握る。それを地面に投擲し、当たると同時に砕け散った。
そして、綺麗な澄んだ音が響いた。
これから魔法は{}
スキルは[]
に変えていきます