元勇者…の家壊れる
走る事凡そ十分…。森を抜けた俺は森から一番近い町に辿り着いた。
はっきり言って美味しくない食材の市場は以前来た時より物価が上がっており、それでも明日を生きる為に少しでも安い食材を探す主婦の方々で溢れている。
喧騒が何箇所から上がっている事から値下げ交渉もしているのだろう…。成果が出ているかは知らないが…。
市場の人垣の隙間を縫うように動きながら通りがかった人々の噂話などにも耳を傾ける。
やれあの店の豆が安いだの、やれあの店の肉は石でカサ増ししているだの、やれ近々帝国と戦争だの、やれ兵士が逃げて盗賊になっているだの、やれ帝国のお姫様綺麗だの、やれ鉄錆の森で木々が舞っただの、やれそりゃ主のせいだの、色々と噂話が絶えないのは市場の良いところだ。
聞いた内容を整理し、木々が舞ったのもしかして俺かな?と疑問に思いながら目当ての店に辿り着く。
「…ん?おりまぁ、まぁだ来だのがい?」
言葉使いがどこか怪しいしわがれた婆さんが番頭の店は以前森に入る前に用意した食料を買った店だ。
「まぁね、あの時の食料本当に美味しくなかった。」
愚痴りつつ、並べられている食料のうち一つ、陶器の器に山盛りの小麦粉を摘み、舐める。
やはり美味しくない。香りが弱くて食えなくは無いが美味しくない。
出来れば美味しい小麦で作りたかったがあまり離れると時間が掛かる。諦めつつ指を3本横向きで見せる。
「びゃしゃしゃ、そりゃ最初に言っだでねぇが?森の主様がいっかぎり畑も呪われとんだ。」
歯が欠けているせいか変な笑い方をしながら袋を取り出し山盛りの小麦粉をそこそこな大きさの陶器で三杯掬い、袋に詰める。
「あー、そういえば言ってたな…。」
詰められた袋を片手に他の人には見えないように素銀を取り出す。
「代金がわりはこれで足りるか?」
「たりっけど……いいんが?」
どう考えても小麦粉三杯よりも素銀の方が高い。婆さんはその事を伝えようとしているのだろう。
「良いさ 。他の奴等とは違って美味しくないって教えてくれたのは婆さんだからな。」
そのまま婆さんの手の上に乗せて俺は立ち去った。
………
来た道を戻りつつ、適当な果物をもぎ取りながら辺りの異変を確認する。
生き物の気配が無い…。
最初に森を通った時は大量の魔物や魔獣に襲われ、さっき通った時は遠巻きながらこっちを伺っていたのは気配で分かった。
だけど今は周辺に生き物の気配が無い。この短時間で何かがあった?
嫌な予感がしながらも家に帰っていると途中でクマさんがあった。
いるじゃなくあった。いるは生き物で、あるは物によく使う。
まぁ何が言いたいかだが…。
「……エグいな。」
ちょっとひらけた場所で下半身の無いクマさんが生き絶えていた。
嫌な予感が更に増し、家の場所まで向かう。
かかった時間はやはり十分程度で、けど明確に変わった物がある。
「………マジか…。」
買い物に行く前は健在だった俺の家が木材に変わり果てていた。
結界もぶち破られて……。
「……マジかー。」