元勇者、求める
幼女に食事を摂らせる事に成功した昼過ぎから時間が経って現在は3日目。
妥協しない食生活の為に現在は[叡智の大書庫]から酵母の作り方を調べ、桃っぽい果実で実験中だ。
まぁ失敗してもいいように10瓶用意して魔法で時間を速めながら製作している。が…
「………?」
「あー、見てて楽しい?」
「………。」(ふるふる)
一番端の瓶を幼女がじっと見ている。
あの日からちょっと恐怖心が薄れたのか、幼女はリビングの端から20センチほど離れた位置によくいる。
相変わらずシーツを被ったままだが(とゆうか幼女の服なんて持ってない)青ざめた表情やガタガタ震える事は無くなった。
変わりにじっと俺を観察しているのがよく分かる。まぁ目が合うとあわあわしながら蹲るが…。
それでも怯えられるよりかはまだマシだろう。
移動は基本的にドアノブに手が届かない幼女は俺が扉を開けるのをひたすらに待ち、基本的にはリビングにいる。ただ、一度だけ俺に近寄って来たことがある。その時はおろおろしながら扉をしきりに見ていたので何となく察して扉を開け、ついでに分かりやすくトイレの場所も見せた。
ただ洋式トイレを知らないらしく、落ち込みながらシーツの端で床を拭いていたのをたまたま通りがかった時に見てしまったが何も言わずにシーツを新しく渡し、無言で去った。どうするのが正しいのかはちょっと分からない。
それともう一つ、幼女は喋れないみたいだ。これが傷なら[翡翠の回剣]で治せるのだがどうやら精神的なやつらしく、たまに声を出そうとして掠れた呼吸音が聞こえる。その後は大体落ち込んでいる。
まぁそんなこんなで現在は幼女と瓶をひたすらに見続けるとゆうある種の地獄な作業をしているがこれが成功しないとパンが固いので妥協は許されない。
「……お、これ良さげだな。[鑑定]……ダメだ。カビだ。……これは?[鑑定]お⁈よし!」
「………?」
三つ程カビだったが四つ目は鑑定で調べた結果は酵母菌だった。これで美味しくない固いパンが柔らかいパンになる。
期待を込めて瓶を持ち上げキッチンに向かい、膝から崩れ落ちた。
……いや、その、よく考えたらそもそもパンを焼くのに必要なもっともな材料、小麦粉が無かった。
ちょっと視界が潤むがその視界の端で幼女が俺が崩れた為かわたわたしているがそれどころではない。
ここまで来たんだ。所用時間一時間弱、幼女と一緒に然程変化しない瓶を見続ける作業を終わらせたんだ!なら小麦粉程度、ちょっと買いに行けば良い!
不思議なテンションになりながら俺は素銀を少量持ち(魔法で掘り出した)地味な灰色のローブを身に纏う。
「ちょっと出掛けてくる。晩御飯前には帰ってくるからお腹が空いたらモモルを食べるように…。」
空間から取り出したモモル(桃っぽい果実の総称)を幼女の側の幼女用のテーブルに置き、ついでにリビングと廊下とトイレの扉を開けておく。
「んじゃ。」
「………。」
幼女は俺の顔を見ながら頷き、側のモモルを持つとかぷりと噛り付いた。どうやらお腹空いていたみたいで………。気が付かなくてごめん。
追加でもう一つ置き、俺は敷地から真っ直ぐに前に通った町などを思い出しながら駆け抜ける。