元勇者と喋れない幼女2日目続
今回のには幼女視点はありません!
幼女のおねしょが発覚してしまったお昼過ぎ…。
現在は新たに用意したシーツに包まり,リビングの端で青ざめながら震えている幼女。
余程怖い目に遭ったのか一歩近寄れば更に青ざめ、離れればホッと息を吐き、見ている事に気がつくとガタガタ震える。
ちなみに元のシーツは現在庭先の物干し竿にて乾かし中。物干し竿等無かったので急いで作った。
「…食べれば?」
お昼を過ぎているのでちょっと遅い昼飯だが当然一人分ではなく幼女の分も用意してある。
今日のは自信作で手作りのハムと畑で採れた根菜のスープにあまり美味しく無いパンと桃っぽい果実を用意した。パンはしょうがないがスープは根菜の甘味とハムの塩気や旨みが中々に美味しく仕上がった。昨日までのなんか嫌な食事とはレベルが違う。
スープを皿ごと持ち上げずずずと一口啜る。うん美味い。
毒など入っていないという証明でもあるのだが幼女は震えたままだ。
何故此処に来たのかなど聞きたいことがいくつかあるのだがこのままだと話も出来るか怪しい…。
かと言ってこんな弱い幼女相手に《力ある言葉》を使うのも流石に憚られる。
はぁ、と溜息を吐きながら美味しくないパンを美味しいスープに浸しながら食べ進めていく。
そしてある程度食べた時だった…。
……く〜〜〜………。
聞こえたのは妙に可愛らしい腹の音。既にある程度食べている俺は当然だが腹が鳴るわけがない。そしてこの場には俺以外にあと1人いる。
ちらりと幼女の方を見ると……お腹を押さえながらあわあわ慌てていた。
「………。」
「………⁈」
俺の視線に気が付いた幼女は先程とは違い頭ごとシーツに包まり小さくなっている。
いやもう食べろよ。お腹減ってんだろ?[翡翠の回剣]で胃が弱っていても治っているのだから普通の食事を取っても問題は無いのだが…。何よりあの歳の娘が腹が減って蹲る姿を見ながら食事をする趣味なんて俺には無い。
なので俺は幼女に歩み寄ると抱き上げる。
「⁈……!」
案の定、幼女は暴れ(ただ弱過ぎて意味が無い)逃げようとするが30秒も持たずにぐったりとした。お腹が空いて力が出ないのだろう。
強制的に椅子に座らせるが椅子の高さが足りなかったので俺の膝上に座らせる。その際にボサボサの髪が気になり既に幼女を拾って3日目だが相当汚れているのでこの後無理矢理でも風呂に入れようと決意しつつスープをスプーンですくい、幼女の目の前に出した。
ビクビクとしながらも俺とスプーンを見続けた幼女。食べたのだろう。だが食べない。もしかしたら似たような事でもされてその際に罰でも受けたのかもしれない。
「食べろ。じゃないとこれゴミになるぞ?食べ物を粗末にしちゃダメだって母親に言われ……。」
言っている最中に失言に気付く。この歳で奴隷として生きている幼女だ。母親も奴隷かもしれないし、一緒に行動していてもおかしくはない。なら既に魔毒で死んだかクマさんの餌食になっているだろう。そしてもし、もしも死んだところを見ていたら?
嫌な予感がしつつも眼下の幼女の反応を待つ。
「………。」
「………。」
沈黙が辛い。
ただ反応が無いので持ち上げて此方を向かせた。
幼女は………泣いていた。声を上げず、暴れず、静かに泣いていた。ただ、涙の量も極端に少なくて、今まで泣き続けて来たのか涙が殆ど枯れている。
昔、仲間達からお前はデリカシーが無いと言われたり怒られたりした事を思い出した。
確かにデリカシーが無いなと自分でも痛感する。
どうしたらいいのか分からずに溜息が出るがそれに幼女はピクリと怯える。
悪循環だ…。
俺としてはこの娘に何かするわけでも無いし、耳のドッグタグを外したら適当な町で幼女を育ててくれそうな孤児院にでも連れて行く予定でしかない。
だからそこまで構う必要は無いがなにぶん近くの町はそこそこ買い物等で目立っていた。そこにさらに幼女を置いて行った何て変な噂が立つのも避けたい。
なので離れた町を調べなきゃいけないがそれまでの間は幼女を此処に置いておく必要があるだろう。
短いとは言え二人暮らしの中片方が暗いのは避けたい。なので幼女から視線を逸らし、右を見て驚いた。
幼女はそんな俺にやはりビクリと反応し、俺の視線を追い、横を見た。
………何も無い。
ほんの一瞬、幼女が不思議に思った為か口が動き、少し口を開く。
そこに俺は鍛え抜いた瞬発力と動体視力で見抜き、更に魔法で一口分を浮かせ、人肌程度まで瞬時に冷ますとするりと幼女の口に流し込む。
いきなり喉奥に流し込まずに舌先に優しく触れる程度に繊細に魔力をコントロールし、幼女の反応を待つ。
「…⁈………!」
ピクリと反応した幼女は思わず舌を動かし口の中のスープを味わう。この段階まで来たら俺は操作を止めて幼女の口の中にスープを下ろした。
コクリと、幼女の喉が鳴った。
今尚怯えている幼女だが先程よりも顔色は良くなり俺の様子を伺っている。
俺はまた幼女を膝上に下ろすとスプーンでスープを掬い、幼女の前に差し出した。
眼下で幼女の喉が鳴り、少し躊躇った後でかぷりとスプーンを咥える。
ゆっくりとスプーンを引き抜くと幼女の喉がまた鳴り、ちらりと頭上の俺の顔を伺っている。
暫く同じ事を繰り返した。