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十八年  作者: Light
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僕の嫌いな先生

高校三年生の時、僕には嫌いな先生がいました。

英語科のおばちゃん先生、S先生です。

中々厳しい人で、よく怒っている姿を見かけました。当然、僕も怒られたことはあります。

受験生である僕らに対して、大声で怒りまくる教育の仕方やその人柄が、教師として嫌いでした。人として好きではありませんでした。


そのS先生が、2017年9月24日、急に亡くなりました。

急性くも膜下出血。それが彼女の死因でした。


僕は以前から、嫌いな人を「その人が死んだら本心から哀しいと思えるか」で判断していました。中々想像しづらく、シビアな判断基準のようにも思われますが、それが僕の中では最適のように思えていたのです。

しかし、その基準はS先生の死がもたらした僕の心の変化によって崩れ去ることになりました。


S先生が亡くなったのは日曜日のことで、月曜日にその事を知らされ(中には日曜日に情報を手に入れた人がいて、多くの人が亡くなったという話を聞かされる前に先生の死を知っていました)、火曜日にお通夜が開かれました。

お通夜には数多くの教員や生徒が出席し、S先生の死に哀悼の意を捧げていました。

もちろん僕も出席しましたが、その時にどういう気持ちを抱いていたかはよく覚えていません。

S先生を嫌いだと思っていたのは、彼女が死んでも哀しまないと思っていたということだったので、さほど何かを思うことはないだろうと思っていました。それなのに通夜の席に立った僕の心は、はっきりとは言い表せない何かを感じっとていました。それは哀しみとは違いました。その何かが何であるのか、そのことが分からず混乱していたせいで当時の気持ちを覚えていないと感じるのかもしれません。


通夜が明け、次の日からはいつも通りの生活が戻ってきました。S先生に関することを除けばいつも通りです。

ほかの先生達も授業の最初に少し話をしたら、その後は切り替えていつも通りの授業を始めました。

生徒のみんなも元気にはしゃぎまわるような人はいませんでしたが、なんとか受験生として真剣に授業に取り組んでいるようでした。


数日立って、みんなの顔にも遠慮のない笑顔が戻っても、僕の感じ取った何かは残ったままでした。その何かによって自分の中に生じた違和感を、中々拭えないまま日々は過ぎていきました。


受験勉強の苦しみに耐えながらようやく本番が見えてきたセンター試験二日前、三年生全員に「桜が咲きますように」と柏餅が届きました。ウチの学校そんなところに金使うんだ、なんてひねくれた感想を抱きながら話を聞いていたのですが、送り手はなんとS先生だと言われました(と言っても本当はS先生のお父様からでなのですけど、S先生からとして届けられました)。勉強の忙しさもあり、ほとんどの人の頭の中からS先生のことが一時的に抜け落ちていたことでしょうから、みんな面食らった様子でした。僕は何も考えることができず、ただただ柏餅を頬張るだけでした。


それからまた時が経ち、ゆっくり物事を考える時間が出来てようやく違和感の正体が分かった気がします。

それはS先生を嫌いではなくなっていたことによる違和感でした。しかもおそらく、嫌いではなくなったのはS先生の訃報を聞いたその瞬間から。なんとも都合のいいことに聞こえるでしょうけどそれが真理であるような気もするのです。


嫌いな人を嫌いでいるのはその人が生きている間だけ


人は誰しも忘れゆくものですから嫌いだと思う対象がいなくなれば、よく考えたらあの人のこと嫌いではなかった気もするなー、なんて思うようにもなるものです。そうして心のバランスを保っていくのです。

もちろん嫌いの程度にもよると思います。自分の息子が殺された、嫌いを通り越して憎んでいる、という場合には通用しない言葉です。

それでも多くの場合には当てはまるように思えます。ならば始めから嫌いになどならなければ、お互いハッピーに生きていけるのかもしれないと、僕は思うんです。嫌いな人がいなければ人生は精神的にどれほど楽になるか。そう思うと僕は人を嫌うことが難しくなってきました。皆さんも考えてみてはどうでしょうか。


S先生、何ももたらさないであろうと思っていたあなたの死は、僕の考え方を大きく変えることとなりました。それほどの力がそこにはあったのです。急に訪れた死を、無意味なものであったなんて思わず、どうか安らかにお眠りください。

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