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赤ずきんが男の子で○○だったら……

作者: 星廼薫


「あっるう日ー♪ 森のなかぁー♪ オオカミにぃー出会ぁった♪」


 森の中で陽気なソプラノを響かせながら、手にはパンとワイン瓶が入ったバンケットをぶら下げ、赤い頭巾をかぶった一人の小柄な人間が森の道を歩いていました。


 深くかぶった頭巾の影で人間の顔はわからず、体つきは女の子のようでした。


「花咲く森の道ー、オオカミにでーあーあったー」


森のくまさんの替え歌を歌いながら、森の中を歩いている赤ずきんを遠くから見つめる影がひとつありました。

その影は、ギラギラと2つの鋭い目を赤ずきんに向けながら、遠くから後をこっそりとついて行っていました。


赤ずきんは森の中で分かれ道にたどり着きました。

赤ずきんは迷います。

右に行ったらおばあちゃん家、左に行ったらお花畑に着きます。

このまままっすぐおばあちゃん家に行くべきではあるけれど、赤ずきんは手土産をもうひとつ追加したいと思っていた所でした。

赤ずきんはまだ迷っています。


「おい、いつまで悩んでいるつもりだ。早く花畑に行って手土産を増やせばいいだろう」


 赤ずきんがどの道へ行こうかと悩んでいる時、遠くから見ていた影が痺れを切らし、草木を掻き分けて赤ずきんの側に近づき、声をかけてきたのでした。


「きゃっ! オオカミ!!!」


 その影とは、替え歌の中に出てきたオオカミでした。

 赤ずきんは突如現れたオオカミに驚いて尻もちを付きました。

 その拍子に被っていた頭巾が頭から脱げ落ち、隠れていた素顔が明らかになりました。

 頭巾の下から現れた素顔を見たオオカミは、人間を凝視するように目を見開いて、戦慄きながらオオカミは言葉を発しました。


「おまえ……男だったのか!?」

「そうだけど……。悪い?」


 さっきまで、少女だと思っていた赤ずきんはなんと、少年だったのでした!

 少年はオオカミの驚く顔を首だけ傾け、睨みつけるようにオオカミを見ていました。


「まあいい、男だか女だか関係ない。それより、お前はなんで迷っている。迷う必要はないだろう」

「なんで?」

「なんでって……。そりゃおめぇ……見たらわかるがこの先の道にある家に行くんだろう? それなのに親に預けられたものだけ持っていくのはさすがに華がないだろう? だから、お前はこっちにある花畑で花を摘むべきだ」

「ふぅ~ん……。わかった。親切なオオカミさんあなたの名前は?」


 少年は呆れながらも教えてくれたオオカミの名を聞こうとしました。

 オオカミは少年の言葉に「は?」と怪訝そうに首を傾げました。

 少年はオオカミの表情を見て説明し始めました。


「いや、だって、オオカミっていっぱいいると思うんです。あなたのように二足歩行で人語を喋れるなんて、あなた以外にもいるんでしょうけど、僕は知らないので、今度会ったときは名前で呼べば、あなただとわかるでしょう?」

「んん?? ん――……お前の言葉の意味はさっぱり分からないが、まあ分かった。俺の名前を教えるがお前のも教えてくれ」

「…………(コクン)」


 首を捻り続けるオオカミはいったん頷くと一つ提案をしました。その提案に少年は黙って頷き、オオカミはニッと犬歯を笑って見せました。


「俺の名前はヴォルフ・ニンベルだ。――さあ、俺の名前を教えたぞ。赤ずきんの坊や、お前の名は? …………っておい!! どこに行く!?」

「有難うございました! ヴォルフさん! また会いましょう!!」


 オオカミの名前を聞いてお礼を言った後すぐに走り出した少年を呼び止めようとしますが、少年の足は速く、遠く見えなくなってしまい、オオカミのヴォルフは唖然と立ち尽くすしかありませんでした。


「くそっ……逃げられたか……まあでも、あいつが走ってた先は花畑がある方だ。という事で、俺は先に向こうの家にでも行くか……」


 舌打ちするヴォルフは、少年が走り去った方向を見ながら口角を上げ、少年がもともと迷うことなく進むべきだった方向へと足を向けました。


 そしてこのとき、ヴォルフは少年の最後の言葉の意味に気付くことはありませんでした。


 * * *


 オオカミのヴォルフは赤ずきんが向かっている家にたどり着きました。


(ピンポーン……)

「(誰か出てきたらまるっと一飲みして、そいつに成り代わって俺を騙しやがった赤ずきんを脅してやろう……)ああ? 誰も出てこねぇぞ……? 留守か……?」


 ヴォルフはチャイムを鳴らし、数分待ちましたが、一向に誰も出てきませんでした。

 首を傾げたヴォルフはドアノブに手を掛け、右に回すとガチャリと簡単にドアが開きました。


「何だぁ? 留守ならちゃんと鍵を掛けて出掛けるだろう普通……。まあ、いいか。いったい誰が住んでいるのか見当もつかないが、漁ればヒントぐれぇ手に入るだろう。それで変装して待ち伏せてやる……」


 ヴォルフは家の中に入り、ちゃんと扉を閉めてから、部屋の中を物色し始めました。


 * * *


 ヴォルフが家に着いたと同時頃に、赤ずきんの少年はお花畑にたどり着きました。


「さて……と、ヴォルフさんはもう家に着いたころかな? あの家にはだれも住んでいないことで有名で、僕の第二の住処になっているなんてあの人、夢にも思わないだろうなぁ……」


 少年はクスクスと笑いながら花が咲いている場所に腰をかがめ、ブチブチと根っこから花を摘みました。

 数分もしないうちに、少年の周りに咲いていた花はすべて、彼の手の中に納まりきれないほど回収されました。


「……取りすぎた……かな? まあ、いっか! このぐらいあればカモフラージュできるし……さぁて、いったいどんな格好で僕を驚かせてくれるのかな? 楽しみだなぁ……」


 少年は鼻歌を奏でながら楽しそうに花畑を後にしました。


 * * *


 少年が花を摘んでいる頃のヴォルフは、様々な洋服が入っている引き出しを物色していました。


「なんだぁ? 多種多様に服がいっぱい入ってるじゃねぇか……。老人……老婆……女と男……こりゃぁ子供服か? いったい何世帯の家族だよ……。しかし、不気味なもんだ。いっぱい服があるとはいえ、生活してるような雰囲気はないが、二つだけ綺麗にされてる食器ものと一つのベッド……意味わかんねぇ……。……よし、決めた! この服を着て驚かせてやろうか……」


 ヴォルフは引き出しに入っていた洋服をポイポイと散乱させながら、家の中に入って物色していた際に感じた違和感を口に出してぼやいていました。

 しかし、このまま悩んでいても仕方ないと考えながら、ヴォルフは着る洋服を選び出しました。 



(ピンポーン……)

「ごめんくださーい! 遊びに来ました!!」

「(キタッ!)ゴホン……。はぁいー、開いてますよぉ」

「お邪魔しまぁす」


 ヴォルフは選んだ老婆の服を着てベッドに潜り、赤ずきんが来るのを待ってから数分後、かの待ち人が到着するチャイムと声が聞こえ、小さく咳を一つしたヴォルフは老婆のようなしわがれた声をだして、赤ずきんを家の中に迎え入れました。

赤ずきんは両手一杯に摘んできた花を抱えて、おばあさんに紛したヴォルフのいるベッドへと足を運び、首を傾げて問いかけてきました。


「まあ、おばあさん。どうしたんですか?」

「(まあ……って男のくせに……女のような声を出して、図々しい……)いやぁ……ちょっと体が怠くてねぇ……。赤ずきんが来るのが分かっていたから、鍵を開けてたんですよ」

「そうなんですね。おばあさん有難うございます。……ところで、おじいさんとかお孫さんはどうしたんですか?」

「は? (おじいさんとかお孫さぁぁぁん?? じいさんならともかく、服があったとはいえ、孫なんてこの家にはいるようなものがないだろうが!!)」


 赤ずきんの少年が出す純粋な少女のような声にげんなりしつつ、受け答えをするヴォルフは内心で切れながら、思考は動いても体が一時停止してしました。


「どうされたんですか?」

「……あ、いいえ……」

「?」

「おじいさんはーーえーっと……」

「ふふっ……まあ、いいですよ。おばあさん。それで、どうして声がガラガラなの?」

「(なぜ笑う……? まあ、いいか。これならまだましな質問だな……)」

 

 ヴォルフは絞り出すように設定を考えていると、赤ずきんは小さく笑って、質問を変えてくれました。

 

「熱を引いてしまってね……ゴホッゴホッ……」

「じゃあ、どうしてそんなにおばあさんのお耳が大きいの?」

「それはね。赤ずきんの声をよく聞くためだよ」

「じゃあ、どうしておばあさんのお口はーー……」

「(キタ!!)」


 テンプレートのような問いかけに答えるヴォルフは、三つ目の質問の言葉の一言に驚かせるチャンスが近くにやってきたと心を躍らせながら、言葉の続きを待ちました。


「そんなに――――今日会ったオオカミさんと同じような口をしているの? そして、なんでヴォルフさんは誰も住んでいない家で何をしているの?」

「!!!?(くそ……! なんでバレた!? ってか、誰も住んでないのかよ!! こうなったらやるしかない!)」


 赤ずきんの言葉に驚き、ヴォルフは身を任せるようにベッドから飛び起き、赤ずきんに向けて襲いかかろうとました。


 ――――ジャキンッ!!

「へ……?」


 しかし、襲いかかろうとする寸前、赤ずきんが抱えもっていた花が宙を舞ったかと思いきや、黒光りする銃器をヴォルフの眼下へと向けました。

 ヴォルフは赤ずきんの手に握られた銃口が目の前に向けられたことによって、間抜けな声を出してピタリと動きを止めるしかありませんでした。


「お……おまえ……その手にあるやつは……」

「銃ですよ。自己防衛のために持ってます」

「い……いやいやいやいやいや!? 見りゃわかるが、一体いつから持ってたんだ!?」

「いつからって……、あなたから別れて花を摘んでいる時に一緒に持っていましたよ」

「と、いう事は……だ。あの大量の花はソレのカモフラージュだったわけか!」

「えぇ、その通りです。まさか僕の第二の住処にあなたがいるとは思っていましたので、常備していたんです」


 淡々と説明する赤ずきんの手元に光る銃を目の端にとどめながら、ヴォルフは自身の命を少年の指一本に捕らわれている恐怖に生きた心地のしない感覚に掴まれていました。

 

「ふ……ふん。どうせ、それはオモチャだろう? 子供がそんなオモチャを振り回してたら危ない。オレが預かっておいてやるよ……?」

「いえ、結構です。僕はお師匠様に肌身離さずな、って言われてるので。あと、これは本物です。オモチャじゃ殺傷能力はないですし」

「(……ちっ、ダメか……)」


 オオカミはイヌと同じく嗅覚が鋭いため、眼前に晒されている銃口から、火薬の匂いが鼻をジクジクと燻って行くのを感じながら、ヴォルフは確信を得ながらも赤ずきんの手から、拳銃を奪おうとしましたが失敗に終わりました。


「信じて貰えないようですし、1発打ってみますね」

「ひ、ひぃ!!」


 ーードォンッ!!

 赤ずきんは躊躇いもなくトリガーを引くと、重い音を室内に轟かせました。

 ヴォルフは恐怖に高い声を出して、撃たれたであろう場所を押さえながら小さく身を丸め、痛さに打ち震えていましたが、違和感を覚えていました。


「……あ、あれ? いたく……ない?」


 その違和感は撃たれたのにも関わらず、どこも痛さを感じない事でした。

 首を捻っていると、赤ずきんの笑いが銃声音の後に響きました。


「アッハッハッハッハッ!! ヴォルフさん、とても面白い反応でした!」

「(ぞっ……)」


 赤ずきんは硝煙が揺れる銃口を天井に向けながら身を屈めて笑い、おもむろにゆっくりと拳銃を持ってない手で頭巾を外すと、とても愉快そうに歪められていて、ヴォルフはその顔に恐怖心を持ちました。


「ねぇ……ヴォルフさん?」

「な、なんだよ……」


 少年がするべきではない笑を浮かべながら、恍惚に似た声を出して、ヴォルフに問いかけました。

 ヴォルフは少年の表情と声音に身構えながら、少年に答えます。


「僕の同居人に……なってくれますか?」

「は??」


 少年の突拍子のない言葉に、ヴォルフの頭がフリーズしてしまいました。


「この住処には、僕一人で住んでいて、とても寂しいんです。だから……」

「だから、俺が同居人になって欲しい……と?」

「はい。だけど……あなたには拒否権なんてないですよ?」


 年相応な理由にヴォルフは拍子抜けしてしまいました。

 しかし、小さく頷く少年の最後の一言と共に火薬の匂いがヴォルフの鼻をかすめました。


「グッ……わかっ……た……」

「わーい! ありがとう!」


 かすめた火薬の匂いから、戸惑いなく撃たれた光景を思い出して、ヴォルフは頭垂れるようにして、少年の脅迫じみた提案に頷くしかなかったのでした。


「…………あ、そーだ。おまえの名前、教えてくれよ。一緒に住むんだったら、不便だろう?」

「分かった。僕の名前はーー……」


ヴォルフは思い出したように少年に名前を聞くと、少年は頷いて答えました。


 * * *


「ただいまぁ……」

「おかえり、フラニエル。今日もこっぴどく師匠とやらにやられてるじゃないか。今日もすぐに風呂に入るだろ?」

「うん……。でもその前に、ヴォルフーー、癒してぇ……」

「ちゃんと風呂に入ってからだ!」

「えーーうん。分かった……」


 最初脅されるようにして、一緒に住むようになったヴォルフでしたが、時間をかけていく中で、赤ずきんのフラニエルと一緒に中睦まじく棲むようになりましたとさ。

ifということで、とても楽しく書かせていただきました。

設定盛り沢山(?)でしたが、いかがでしたか?

いろんな意味で原作崩壊したような気もしますけど……

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