夜が明けて
街の外れに住んでいるおじいさんとおばあさんは、夜中に騒ぎがあったことなど露知らず、いつも通りに起きて朝食を食べていました。
そこへ、十数年ぶりのお客が朝刊を持って現れました。
「だから、リーダーならなんか知ってるんじゃなかっちゃねー?」
朝食のたくあんをぽりぽりとかじるおじいさんにお客は質問ばかりぶつけていました。
「他の皆に聞いても”知らぬ存ぜぬ”だっちゃねー。もうリーダーしかいないっちゃねー。」
ふむう、と首をかしげたおじいさんはおばあさんが入れたお茶をずずっと飲みました。
「ほら、ここっちゃね。」
お客が朝刊の一面を指差しました。
そこには、『伝説の走り屋集団”六道輪廻”復活!?』と大きく見だしが書かれていました。
おばあさんが、あらあらと新聞を覗き込みました。
「その下の写真なんて、あの時のリーダーにそっくりっちゃねー。」
大きく書かれた見出しの下には、車のボンネットに突き刺さったお地蔵様の写真と路地の真ん中で背中合わせで立つお地蔵様の写真。
そして、川の中央に突き刺さって水面から下半身だけが出ているお地蔵様の写真が掲載されていました。
おじいさんは掲載されている写真をまじまじと見ると。
「何をいっとるか、ワシの足はもっと長いわい!!ばあさんやお茶のおかわりじゃ。」
ひょっとしたら昨日の六地蔵かと思ったおじいさんでしたが、すっとぼけました。
「いーや、リーダーのその顔は何か知ってるっちゃねー。皆が来たら白状してもらうっちゃねー。」
「何も知らんというておるのに、おまえさんも大概しつこいのお・・。待て?皆じゃと?」
「朝刊を見て皆大騒ぎだっちゃねー。皆が来たら覚悟するっちゃねー。」
おじいさんは聞き間違いかと思いましたが、笑うお客を見て頭をぼりぼりと掻きました。
「あらあら皆来るとなると、久しぶりにおじいさんのコレクションが増えそうですね。」
お茶を持ってきたおばあさんが口に手を当てて楽しそうに笑いました。
「な?な、何をいっておるばあさんや。わ、ワシは秘蔵コレクションなど・・・。」
おじいさんはとんでもなく焦りました。
「あらあら、おじいさんの事ならなんでも知っているんですよ?今日は沢山お料理しないといけませんね。」
楽しそうに台所に戻るおばあさんを見て、おじいさんはお客に”こりゃまいった”といわんばかりに両手を上げて見せました。
「・・・どうした?・・・。」
「いや、林の中にお地蔵様が立っているんだが。」
「しかも赤いマフラーを握ってるね、やんごとない意思を感じるよ。医師だけに。」
「リーダーのしていたものに似ているな。」
「・・・そういえばそうだな・・・。」
「まあ、これから行けばわかるさ。」
おじいさんの秘蔵コレクションの中には、若い頃のおばあさんとやり取りした沢山の手紙と、六人の若者と六台のバイクが写る写真が一枚入っていました。
今日、そのコレクションの中に五人のおじいさんと一人のおばあさんの写った写真が加わりましたとさ。
それでは、おしまいいたします。めでたしめでたし。
傘地蔵と戦隊物が合体したイメージで書いたのですが、力量不足を痛感しました。アクションシーンが沢山あれば良かったのですが、童話っぽさをを重視した結果この形になりました。
全然童話っぽくない?それは、読んでくれた方々の海より広い心にお任せします。当初はヘルメット地蔵じゃなく、ちゃんと傘地蔵で大八車に乗って爆走するイメージでした。
因みに、台座はバイクに変形していますが、お地蔵様達はそのままです。想像してみるとかなりシュールだと思います(笑)類似品の「おじいさんとおばあさんが凄腕エージェントだったら」も気が向けば読んでやって下さい。
それでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
柚之木