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12月3日。日記をつけることにする。
赤い雨が止んだ日から今日で1週間。父さんも母さんも帰ってこない。道に倒れているひとたちのように、二人ともどこかであんな風にしているのだろうか。今日も特にすることがなかったので(テレビも映らないままだ)、本を読んだりして家で過ごした。冷蔵庫がほとんど空になったので、明日にでも買い物に行くつもりだ。
12月4日。食べ物を求めて買い物に。
さくらを連れて、家のすぐ下のローソンに行った。店の中には誰もいなかったけど、電気とかはちゃんとしているみたいだった。「すみません」と大声で読んでも誰も来なかったから、レジにお金を置いてパンやおにぎり、缶詰なんかを持って帰ってきた。「お兄ちゃん、泥棒みたい」とさくらは言ったけれど、ちゃんと代金を払ったから大丈夫なはずだ。
12月5日。さくらと散歩。
朝からさくらは機嫌が悪かった。「パパとママを探しに行く」と言って聞かなかったので、運動がてら散歩に出かけた。さくらは転がっているひとたちの顔を一人ひとり確認して、本気で二人を探しているようだったが、父さんと母さんは仕事で東京に行くと言っていたので、見つかるとしてもこの近くではありえないと思う。さくらは諦めがついたわけではないだろうけれど、話をしながら歩いているうちに暗かった表情も和らいで、帰る頃にはいつものように笑っていたので良かった。
気になったことが一つ。あの雨が止んでからしばらく経つのに、水たまりがちっとも乾いていなかった。
12月6日。「デモナータ」読了。
誕生日に買ってもらっていた「デモナータ」全10巻。4巻の途中まで読んで放ったらかしにしていたけれど、他にすることもないので一昨日から再び読み進めていた。一応最後まで読みはしたけれど、少し難しかった。整理しながらもう一度読み直すつもりだ。
明日はまた買い物に行こうと思う。
12月7日。再びコンビニへ。
朝、早く目が覚めた。さくらはまだ寝ていたけれど、ひとりで買い物を済ませておくことにした。コンビニで缶詰をカバンに入れ、お金を置いてきた。
帰り道に桜がいた。なぜか泣いていた。訊くと、起きてみれば僕がいなかったから、慌てて探しに出たのだと言う。走っていて転んだのだろう、膝を擦り剥いていた。書き置きでもしてくるべきだった。さくらに謝って、帰路につく。風呂場で膝の傷を洗ってやったのだが、血も止まっていたし、大した怪我ではなさそうだ。一応簡単に消毒して、バンソウコウを貼っておく。
12月8日。さくらが発熱。
朝起きたときから、さくらは見るからに具合が悪そうだった。熱を計ってみると、35度5分あった。寒くなってきたし、風邪を引いたのかもしれない。解熱剤を飲ませてから、暖かくして寝かせた。
うわごとのように何かを言っているが、よく聞き取れない。
12月9日。さくらの熱が下がらない。
38度9分。薬が効いていないのだろうか。薬局へ行って薬をたくさん持って帰ってきたが、どれを使えばいいのかわからない。
さくらが「足が痛い」と言う。見ると、バンソウコウの下と周りが黒くなっている。傷が化膿するかどうかしたのか、あるいはただのかさぶたなのか、僕にはわからない。
わからない。
12月10日。
さくらの熱が下がらない。
39度1分。水を飲ませた。薬を飲ませた。桜は苦しがっている。めまいがする。
どうすればいい。わからない。
12月11日。さくらの熱が下がらない。
39度2分。さくらは苦しがっているが、昨日よりおとなしい。熱は下がっていない。治りつつあるのか、そうでないのか。わからない。頭が痛い。僕も病気なのか。わからない。わからない。水を飲んで寝る。
12月12日。さくらの熱が下がった。
36度1分。もう苦しがっていない。寝息が聞こえない。わからない。僕の耳がおかしいのか、さくらの体がおかしいのか。わからない。頭が痛い。苦しい。体温計を落として割ってしまった。僕の熱は上がったのか、下がったのか。わからない。薬がなくなった。薬局に行くべきだろうか。わからない。寝る。
12月14日。わからない。
さくらは静かだ。寝息も聞こえない。ずっと寝ている。僕が呼んでも起きない。缶詰が無なくなったけれど、今出かけるのはきつい。水を飲んだ。薬がない。買っていないから。さくらが起きたら買い物を頼もう。
眠たいので寝ることにする。まぶたが思い。このまま目をつぶって、明日ちゃんと起きられるだろうか。
わからない。
わからない。
わかrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
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場所・被害地域イ-9 38・57K 北部の民家。
時期・資料本文より推定 2021年12月
備考・特になし