妄想テイク2
告白するなら、放課後。
屋上がベストだけれど、うちの学校は出入り禁止だから校舎裏で妥協する。
今日の放課後、校舎裏で待ってます。
多くは語らない、シンプルな手紙を彼の下駄箱へ入れておく。私は最後の授業が終わったらすぐに校舎裏でスタンバイするんだ。
きっと待ってる間、すっごい緊張する。伝える事はシンプルなのに、言葉は様々な形を持ってるから。どんな形なら彼に全部伝えれるか、必死に考えるんだ。
『ごめん、待たせたかな?』
優しい彼の笑顔が、夕陽で色づいて鮮やかに写る。心臓を吐き出しちゃうんじゃないかってくらい、心拍数は跳ね上がるんだ。
『あ、あの……… 』
私はモジモジと、次の言葉を出せずにいて。彼はそんな私を優しく見つめる。私の勇気が整うまで、待ってくれる。
その表情に、その優しさに。私の想いはどこまでも深みにはまっていくのだ。
『わ、わたし…… 』
『うん、なに?』
たった二文字を伝えるのに、どれくらい時間がかかるかな。さっさと伝えろなんて周りが言うかもしれない。でもね……
言葉に重さはないから。私の想いが、どれだけのものか。全部、残さず伝えたいから。
『…… あの!』
『うん』
彼の瞳に私が写ってる。今だけは、私だけを見てる。これからも、そうであってほしいから。
『す、好きです!!』
叫ぶみたいに、彼への気持ちを伝えるんだ。
♦︎
「ま、元気だせよ」
「うるさい」
「気づかないお前も悪いんだぞ?」
「分かるわけないじゃん! 女の子で遊んでるなんてさ! 顔にでも書いとけって話だよ!」
「生き方は人それぞれだろ〜? 本人がよけりゃいいの。他人が踏み込んでいいもんじゃねぇよ」
慰める気なんて全くないという表情で。もっとこう、傷ついた女友達に優しさ見せて新たな恋が…… みたいなの想像しないのか? 言いたかないけどベストコンディションだぞ!
「しっかし…… ふふっ。いいよ〜、彼女いるけどねぇ〜って、うけるわぁ」
「ほんっっとありえない! 好きになった私が馬鹿だったわ! 女ったらしが!」
顔を思い出すだけで腹が立つ。その顔に見事に釣られたのも事実だけど。顔を綺麗にするために中身を腐らせたんだ、あのクズ男は。そうだそうだ、そうに決まってる。
「ま、お前はちっと夢見すぎ。現実は単純で簡単だぞぉ?」
「…… だからじゃん」
「はぁ?」
現実は単純で簡単。分かりやすい、だから酷くつまらない。理想が叶うなら、世の中には不幸はない。みんな幸せ、でもそうはならないように出来ている。
じゃあさ、諦める? 世の中叶わないことばっかりだと受け入れて、ただの平凡な日々を過ごす。なんとなく誰かを好きになって、なんとなく結婚して、普通の人生を過ごす?
…… 嫌だって、心から思うから。馬鹿にされようと、何を言われようと。私は私の考えを貫く。わがまま、傲慢、自分勝手、どうぞご自由に言っちゃってください。私が私を否定するなんて、それこそ馬鹿じゃないですか。
「…… もういい! 次だ次!」
「次、あんのかよ。めげないねぇ」
「イケメンは封印! 次は中身が仏のような人を探すから!」
「…… ほんと、めげないねぇ」
「なによ! 応援してくれないの? 慰めもしない、応援もしない、からかうことに全力ですか? このひねくれ者!」
ふん、こんだけ言われたらあんたもイラっとするでしょ? なんだこのクソ女! とか言ってか弱い女子に手を上げようとする、そこで教室の扉が開いてやめないか! と颯爽と新たな私の恋の相手が!
「…… なによ」
「…… はぁ」
「あ、ため息ついたな? やっぱあんたも馬鹿にして…… 」
「…… 一個、アドバイス」
「なによ、あんたなんかに教えてもらうことなんてなにもーー 」
「…… 妄想が現実になっちまうと。後戻り、出来ねぇぞ」
そう言って、私の身体を強く抱きしめた。
「な、にして……」
「あー、まぁ、あれだ。お前と同じ」
「い、意味わかんないし」
「…… 妄想を現実にしてみた」
な、なに言ってんのこいつ。く、は、こ、この…… ダメだ。ビクともしない。やっぱり、男って力強いなぁ…… じゃなくて!
「だ、誰かに見られたらどうすんの⁉︎」
「んー…… あ、お前のお得意の妄想で予想してみれば?」
は、はぁ⁉︎ わ、私たちが付き合い長いのはクラスのみんな知ってるし、こんなの見られたら……
「は、は〜な〜せ〜!」
「いい加減諦めろって」
「あんたが離れないと帰れないでしょうが!」
「離してやるもんか」
「ぐっ! せ、セクハラ! チカン!ヘンタイ!」
「なんとでも」
くぅぅ! この馬鹿馬鹿馬鹿! なーに意味わかんないことしてんのよ! 説明しろ! なんなのこの状況は!
「おーねがいだから! 離して!」
「…… もう今後、妄想はしないで現実見てくれるなら離してやる」
「い、み分かんないからぁ!」
「…… 小学生の頃からの付き合いなのに、見てるもん違うだけでこんなに分からないもんかね?」
「だーかーらー! はっきり言ってよぉ! なんなのこれは!嫌がらせか‼︎」
「じゃあ言うぞ。 俺、お前のこと好きだから」
頭の上から聞こえた声を、聞き漏らすことは出来ないみたいで。聞こえた言葉が頭の中でもう一度、確認するみたいに再生される。
「…… 本気で言ってんの?」
「ここまでしといて冗談ですは流石になしだろ」
た、確かに…… で、でもですよ? あんたとは小学校ならの付き合いな訳だよ? つまりそれは……
「い、いつから?」
「結構前。てか、小学生の時点で好きではあったかな」
「…… とぉっ!」
「あ、てめ」
少し力が抜けたことを確認して、私は腕の中から脱出した。
「…… チビってのは小回りがきいていいな」
「あ、あ、あんたね! そ、そんな風に私のこと見てたの⁉︎」
「変な言い方すんな。お前みたいに理想で決めつけてないだけよっぽど良いだろ。俺は、見たままのお前を好きになったんだから」
よ、よくもまぁそんな恥ずかしいど直球を投げてくるな。ドキドキすんな、私!
「…… んーで? 俺の気持ち知っての答えは?」
「…… 答えって言われても」
別に嫌いではない、ただそういう感情を持つくらいの存在かって言われたら…… 困る。
「…… まぁいいや、お前頭悪いしそのうちでいいよ。今回のは、ちょっと溜まってたもん出しただけだしな」
「……… っ! へ、へ、へへ変態!」
「あ? …… 馬鹿、そういう意味じゃねぇよ。いつまでたっても俺のこと見ないから、ちょっとイライラしたんだよ」
下品だ、好きな女の子に下ネタなんて。男はもっとこう紳士的であるべきだ。た、溜まってたなんて…… ど、ド変態め!
「じゃ、俺は帰る」
「え、ちょっと!」
「なに? あー、もっかい抱きついていいならいくらでもいるけど…… 無理そうだな」
「へ、変態!」
「もーちょい言葉のレパートリー増やしたほうがいいぞ。じゃ、またな」
そう言って教室を出て行った。ほ、本当に帰ったよ。これだけのことしといて、何も解決せずに丸投げして帰るなんて。信じられないんだけど。
「あんなやつ、全然理想の人じゃない!」
同い年の異性に抱きしめられたのは、初めてだ。しっかりしてた? なんて言うか、とりあえず頼り甲斐がある感じがした。
「……あー、駄目だ駄目だ! 妄想だ、私!」
声がすぐそばで聞こえた。心臓の音、早かったのはーー お互いにかな? 自分なのかあいつなのか分からないけど、早かった。
「あーー! もーー!」
近くにいたのに、そんな風に見てなかったあいつが。なんの前触れもなく、突然私の世界に入り込んで来た。
「…… 明日から、どんな顔すればいいのよ」
今はどんなこと考えても、あいつの顔が出てきてしまう。
終