犯人の話
短いです
すいません
『殺人鬼』が殺しをしたのは、当然だが初めてでは無い。
これまで、幾度となく人の生命を終わらせてきた。
命を絶つ、人を断つ。
この行為を、別になんとも思っていない訳では無いのだ。
人を殺すのは確かに気が引けなくもないし、なんとなく申し訳ない気もする。
だけど、
好きなんだから仕方ない。
殺しが趣味、と言っては変かもしれないが、殺すのが好きなのだ。
生命を終わらすその瞬間にしか得られない感情の虜になってしまったのだから、殺さずにはいられない。
待ちゆく人すべてが対象だ。
今日は誰を殺そうか。
どうやって殺そうか。
そんな笑みを心に浮かべて、愛想の笑みを外面に貼り付ける。
「君は『殺人鬼』です。
人を殺したことがある人が、すべからく殺人鬼なわけではありませんが、貴方ほどの人ともなると、人を殺さなくても『殺人鬼』です」
「あら、失礼ね。
それではまるで、私そのものが『殺人鬼』じゃない。
褒め言葉を貴方から受け取れるなんて、失礼だわ」
「心外、と直球に言わないあたり、まさしく、ただしく、正当に、『殺人鬼』だね」
「正当な殺人鬼なんて、心外だわ」
「それは失礼したね。
謝るよ」
「謝る気がないのに謝る態度をとられたら、許す態度をとらなきゃならないじゃないの。
別にどうとも思ってないわ」
「それはどうも。
ところで…………」
「本題、かしら?」
「えぇ、このままでは捕まってしまいますよ」
「誰に? 警察? 冗談でしょ?
捕まるくらいなら殺すわ」
「警察に捕まるのを心配するほどのアホじゃないですよ。
ただ、警察よりも優れた人が、この業界には沢山いるんです。
殺すにしても、捕まえるにしても」
「忠告どうも
でも、やめる気は無いわ」
「だろうね、失礼したよ」
「仕方ないわね、許すわ」
この日彼女は二人殺した。
三人家族の妻と娘を。
なぜ夫を殺さなかったのかは、彼女にもよくわからなかった。
ただ、絶望を与えてやろう、等のそんな俗に塗れた感情ではない。
ただただ、何と無く。
ただの、何と無く。
ただ、何と無く。
「そんなの可哀想じゃ無いですか?
だから、夫は僕が殺しましたよ。
証拠隠滅と共に、ね」
『ピエロ』は笑う。
楽しいね、と。