捜査の話
歯車こそ上手く噛み合っていないものの捜査の道筋建てはある意味正解だ。
ただ、バラバラな遺体は物語っている。
そして、それに気付けていない彼かこそが、「歯車」たる存在。
それゆえ、今日も間違える。
それゆえ、今日も「歯車」は噛み合う。
「証拠が無さすぎる」
探偵は呟く。この呟きは状況の確認でもなければ、まして、なんの考えもなしに、反射的に出たものでもない。
言うなれば、予知。
探偵は過去の時点で推測していたのだ。
推測、と言うと少しの語弊があるが、より近い言葉を選ぶのであれば、確信にも近い「予感」。
虫の知らせ、第六感が告げる、といった物に近い「予感」に確信を持てるほど、彼は優れた探偵ではない。
だが、強いて、理由を挙げるなら。
「なんとなく」
彼の武器であり、性格でもある。
所謂、適当性。
これを行使して、彼は今まで探偵として生きてこれたと言っても、決して過言にはならないだろうし、探偵自身も認めている、事実だ。
「でも、全然困った顔して無いっすねー」
気の抜けた声で助手が声を掛ける。
そっぽを向いて、そっぽに声を掛ける。
気の抜けた気の無い気力を込めた気遣いを掛ける。
つまり、気に掛けている。
心配や好奇心ではなく、引っ掛かる。
「正直、検討がついてるといえばついてる。
ただ……」
言い淀む理由は特に無かったが、探偵は一瞬怯んだ。
言えない訳でも言い辛い訳でもない。
言いたくないのだ。
「まぁ、流石の私でも分かるくらいには分かりにくく分かり易いですよねぇー」
彼女の分かりにくい分かり易さを容易く分かる彼にとっては、あくまでも再認識、確認でしかなかった。
助手は犯人を分かっている。
「分かり易く言え。
証拠がないのが証拠だと」
端的に述べるなら、まさにその通り。
ここまで証拠を消すことが出来る者などそうはいないのだ。
つまり、証拠を抹消できるほどの犯人と、捜査条件を絞り込むことが出来る。
ここまで来ると、二択だ。
「犯人は、俺達より抜群に頭がキレるヤツか、俺達よりも殺人に精通してるヤツか」
「または、その両方っすねー」
ハァ、と探偵はため息を吐く。
その吐いたため息に、吐きたいモノをすべて詰め込んで、吐く。
「お前の言う通り、俺の推測が正しければ両方だろうな」
「いやいや、俺達の。
強いて言うなら『私』の、ですよー」
助手のドヤ顔に、探偵は腹を立てた。
立てた腹を寝かせて、鎮めて、丸めて、殺す。
そして吐き出す。
「ウゼェ…………」