探偵の話
随分なイレギュラーだな。
素直にそう思える。そう思わせやがった現状と犯人に称賛の嵐と有罪の判決を手渡したい。
「露骨っすね」
なんの興味もなさそうに、ただただ事件の確認だけを行う彼に対して、呆れと怒りの狭間の感情が沸き上がるが、うまく押さえる。押さえようとする。
「なにかわかった?」
目線も配らずに問う。一切の期待せずに、返答を待つ。
自分自身の問いに呆れながら、期待も出来ない自分に呆れながら、期待もされない彼に敬意を配りながら。目を配る。
「犯人がアホってこと位っすね」
そんなことは知ってる。
こんなに人を殺しきれるのは、己を殺しきった人間でない限り不可能だ。
そして、彼等には等しく「人間」がない。あり得ないことだ。彼らの存在事態があり得ないのだから、そもそもあり得ないものにあり得ることなど無いのだが。
「どう処理しますか?」
お前が処理するわけではなかろうに。
しかし、今日一番の期待のこもった視線を送られてしまうと、咄嗟に言葉は出てこなかったが、出てこなかった言葉を呑み込み、きちんと分解してから吐き出す。
「ほっとけ。俺等は処理班じゃ無い」
「えー、でもー」
「でももヘチマもねぇよ。諦めろ」
「えー、でもー」
「人な話を聞け。いや、聞いた上で相手の会話の内容が肯定か否定かを考慮した後に、その府抜けた回答をしているのだろう。人の話はしっかり聞いているようだな。真意を得ているからそれで構わん。が、あえてもう一度言おう。人の話を聞け」
「うわっ、普段は無口なくせに急に考えてること全部口に出す癖が口から出たよ。どんびきー」
「黙れ年中片言野郎。お前みたいにふざけてる訳じゃねぇよ」
「失敬ですね。私は真面目に真摯に端的に普遍的に迷惑にアホみたいにふざけてるみたいに、片言を話しています。決して、ふざけてふざけてる訳ではありません」
「お前、俺よりめんどくせぇな」
「おっ、誉め言葉ですか?」
「お前のどこに誉められるような行為があったよ」
「あっと失礼、負け惜しみの称賛でしたね?」
「お前も肉片だけにしてやろうか」
「片すのは言葉だけで間に合ってますんで。あと、探偵がそんな不謹慎なこと、いっちゃーダメよ」
「俺を探偵に仕立てあげたいなら、お前が助手をこなせ」
「わたしー、誰かを助けるの苦手なんですよー」
「じゃあ、助けられるか?」
「あはっ、もっと苦手ですー」
「はぁ、なら、さっさと片すぞ」
「了解です」
左手で敬礼のポーズを真似る。
いや、それだと相手をバカにしてるからね? 意味わかってやってるよねそれ。 たち悪いな。
お前の方こそ不謹慎だろうが。
と、言ってやろうかと思ったが、無邪気なこと笑顔を、再びニヤケ顔にさせるのは勿体無い気がして、そのまま言葉を呑み込んだ。