女子ごはん
出てきたのはアラと根菜の汁物だった。まずくはないが女の子の手料理というよりはむしろ漁師飯だろこれ。
まあこの世界では特におかしいものじゃないんだろうけど。そうなると問題なのは料理を作れない僕だ。そこはもう敢えて飯を焦げさせてそういうキャラを演じて乗り切ろう。
「おいしい!本当にありがとうございます、あの、こんな色々してくれてほんとに…」
僕にしては素直な感想だ。
「き、気にしないで…。私がしたくてしたんだから」
恥ずかしげに目を伏せるルーナ。思いの外可愛くて、大盤振る舞いしてしまいそうだ。
そうして僕らは漁師飯をたいらげながら、他愛もない話をした。反応がおもしろくてついいじくりまわしてしまう。が、怒る素振りもなくいい人なんだなと思った。
いよいよこの世界で初めての夜がやって来ようとしていた。やはり電気なんてものはないから、暗くならない内にたいていのことを済まさなくてはいけないそうだ。そういって彼女は放り出していた農具を片付けに行ってしまった。
さて、僕もせめて役に立たなくては居心地も悪い。幸い皿は木製だし、鍋は鉄製。つまり無能スキル発動で割らなくて済むということなのだ。桶に水を張って食器をつけて一丁上がり。暇になってしまった。
部屋を見渡すと、おおよそ二人暮しとは思えない大きさだ。調理台に食卓、トイレは別棟で、奥の扉の向こうが寝室だろう。粗末だなあ。持て余した暇を潰すアイテムもなさそうなので寝室探検といこう。
例によって重めの扉を開けると一瞬、ここが便所かと思ったよ本当に。縦長の部屋に大きめのシングルがミチミチに詰まって頭上にちっちゃな窓がある。ドヤ街みたいな部屋だが、僕はリビングにでも寝るのだろうから関係あるまい。部屋の隅の桶は体を拭く用かな。風呂は恐らくないし仕方ない。
僕はこの一人用の小さな家でヘタをしたら2,3ヶ月は過ごさなくてはならないが、見通しがあるだけまだマシだろう。本国の船とやらがくれば僕の素性がいよいよ分からなくなってしまう。現状、もしかしたら貴族かもしれないという疑問のためにまともな扱いを受けているが、どうだろう。適当な推論だが、売り飛ばされるんじゃないか。自分で言うのもなんだが、見てくれはいい。その上身元が分からないんじゃあ勝手に売り飛ばしても文句は出ない。この世界からしてみれば垂涎モノだろう。慰みものか。前の世界と大して変わりないじゃあないか。
そう思うと気が楽になってきた。ベッドに腰掛け、壁にもたれながらぼんやり窓の外を見る。日が落ちかけ夜の帳が下りようとしている。
玄関の開く音がした。
僕は寝室から「おかえりなさい」と声をかけた。
すると被せるように寝室のドアが開けられ、顔を赤らめたルーナが視線を泳がせながら「…ただいま」と返す。彼女は作業で汗をかいて、首筋がなんともエロティックに濡れていた。粗末な麻の服は胸元を覗かせ、なかなか扇情的だ。未だに上手く価値観をコンバートできない。この世界からすれば、ただの汚らしい百姓なんだろう。しかし僕から見たら当たりの企画モノAVみたいだ。褒めてるつもりなんだけど。
「先使って」
僕が体を拭けば、と言うと譲歩されてしまった。この世界で言うレディーファースト、すなわちメンズファーストか。彼女が桶に水を張って寝室まで持ってきてくれたので、ありがたく頂く。僕はワイシャツとアンダーシャツを脱いで、何処かにかけといてください、とルーナに渡す。すると彼女はひどく狼狽して、扉を閉めてしまった。
えっ、受け取ってくれないの、なんて思ったがここは異世界だった。分かってはいても、歴が違う。前世歴は18年のベテランだが、この逆転世界においては毛も生えないパイパン素人なのだ。
「「ごめんなさい!」」
シンクロした。
「僕はその…大丈夫ですから」
すると突然扉が開いた。
つかつかと僕に歩み寄るルーナに、思わず後ずさりベットに座り込んでしまった。僕は上を脱いだままだ。いまさっきまでの態度はどこにいったんだよ。
ルーナは舐めるように僕を見て、それから目を合わせにらみつけてきた。女の子なのにかなり背が高いうえ、しっかりとした体つきをしている。故になかなか威圧感があってちょっとやめていただきたい。
唐突に接吻が飛んできた。拙く、歯がガチッと当たる。が、ルーナは気にすることなくその勢いのま、僕をベットに横たえた。首筋に顔を埋めて匂いを嗅がれる。まだ満足に拭いていないのに。
すんすんと鼻を鳴らしていたのが次第に、舌をねっとりと這わす動きにシフトしていく。それからルーナは、一度体を起こして僕がみっともなくたおれているのを俯瞰したあと、再びキスをした。次は余裕を持ったものだったけれど、なにぶん拙い。だが、ここで僕が積極的に動くとおそらく彼女は悲しむ。そればかりはこの世界でも前の世界でも変わらないだろう。なにも、前の世界のくそったれな経験が役に立たないわけではなさそうだ。
彼女はひとしきり僕の口内を蹂躙したあと、ハッとした顔で体を起こした。顔色が真っ青、いやもう白だ。
僕は反射的に彼女の可愛らしい顔に手を添え、笑いかける。
多分、一旦満足したところで我に返ったんだろう。この世界からすればこれはレイプだ。何も知らない男を力ずくでやりこめるなかなかの罪悪なんだろうけど、僕にとっちゃあ大したことはない。前の世界だって似たようなもんだった。
いや、むしろこっちの世界のほうが僕は好きだ。あの街では、女どもは僕を見下す。求めるのに、プライドを捨てないから僕は傷つけられる。
この世界はどうだ。容姿がそうさせているのは変わらないが、そこにプライドはない。欲のままに僕を求めてくれる。対等、いやむしろ上に見てくれるのも気持ち良い。それになかなか可愛げがある。
「いいよ」
そうして僕は目をつぶる。
ルーナは許され、また僕を求めた。
この世界は嫌いじゃない。