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第94話「荒野の新たな使命」

(長いです)


「アキラ様?!」


 チェリナが俺の奇行に声を上げた。


「……」


 俺は無言でピンクのクエスト便せんを踏み続ける。

 しばらく繰り返してようやく気持ちが落ち着いた。


「ふう……」


 波動全開で踏みつけてやったぜ。


「あああ……こんなになってしまって……」


 なぜか半泣きのチェリナがボロくずと化した便せんを拾い上げた。


「……これはどこの文字ですか?」

「え?」


 比較的無事だった場所の文字を見てチェリナが首をかしげる。


「見ての通り日本語だが……読めないのか?」

「まったく。そもそも文字なのですかこれは?」


 想定外の反応だな。俺にはこの世界の文字が全部日本語に見えるから余計に衝撃だ。


「まあ……気にするな。ろくでもない事が書いてあっただけだ。そしてもう二度と……」


 見ることは無いだろうと言いかけたとき。


【クエストが追加されました】


 という無機質な声が邪魔しやがった。クソが。


「どうしましたか?」


 急に黙り込んだ俺に声をかけてくる。


「……俺の人生がクソゲーだって事が判明しただけだ」

「あの、先ほどからよくわからないのですが……」

「安心しろ、俺もだ」


 チェリナが眉を顰めた。


「アキラ、もちょい詳しく話せい」


 ハッグが髭をいじりながら催促してくる。


「……はあ」


 あまり相手にしたくは無いがクエストと言うくらいだ、何かしらやらなきゃいけない事が書いてあるんだろうな……。そう考えると3神教巡りもクエストになるのか。


「あー、クエストってわかるか?」


 チェリナとハッグとヤラライも首を横に振った。


「元々の意味は探求とか探索とかそんな意味だったと思うが……ゲーム用語的には、なんていうか、依頼みたいなもんかね? あれそれをやってくれたら、これを差し上げますよとかな」


 チェリナがおかわりのお茶を啜ってから答える。


「商会の依頼に似ていますね」


 さすがに頭の回転が速いな。


「だいたいそんな感じだ……そして今また新しいクエストが買えるようになった」


 俺は盛大にため息をついた。


「それは神託というやつではないんか?」


 ハッグが片眉を持ち上げる。


「違うな」


 違っていて欲しい。


「ふむ……そうか……」


 どことなく納得していなそうなハッグだったが、神託とかやめてください。死んでしまいます。


「先ほどの神託……いえクエストはどのような内容だったのですか?」


 空気を読めよチェリナ。


「……くだらない事だ。あえていうなら、これからクエストを発行するっていう宣言……かな」


 あえて言えばだが。それ以上は頼むから聞くな。


「それでは次のクエストから重要な事が書かれているかもしれませんね。購入とおっしゃっていましたが、もしかしてとても高額なのですか?」

「ちょっと待て、確認してみる」


 再び目を閉じてリストを確認。確かにクエストが増えていた。ちなみに前のクエストはグレー表示になって「Clear」の文字が重なっていた。無駄に手間がかかってやがる……。


【クエスト1=1万円】


 いきなり高くなったが、まぁ払える額ではある。日本時代だったら無視してたかもなぁ……。


「あるなぁ……」

「どうしてアキラ様は先ほどから乗り気では無いのですか? それは神さまからの手紙なのでしょう?」

「だからだよ」


 そんな不思議な物を見る目をしないでくれ。


「まあいい……手のひらでダンスってる気分だが乗ってやらぁ!」


 なかばやけくそ気味に購入してやった


 残金474万1161円。


 ……相変わらずの封筒だった。意識しないように開けようとしたら、ヤラライが恐ろしく切れそうな細身のナイフを差し出してきた。


「これ、使え」


 お、おう。ペーパーナイフの代わりなのね。理由はわからなかったがせっかくなので使わせてもらった。めっちゃ切れるナイフだった。研ぎすぎでは無いだろうか?

 俺が便せんを取り出して封筒をテーブルに投げ捨てると、チェリナがこっそりとそれを懐にしまった。

 そういう事か……ヤラライ恐ろしい子!

 冗談はさておき本文である。正直読みたくはない。


【やあやあアキラくんメルヘスちゃんですよ~☆

 言ってみたかっただけです! てへ☆

 あ・い・し・て・る・よ~☆

 なんちゃって! きゃ☆

 さてそれでは最初のクエストですよ~!

 準備はいいですか?!

 部屋の隅っこでがたがた震えながら祈る準備は出来てるかな?

 ふふふ、冗談ですよ~!

 私がアキラさまを困らせるような事するわけ無いじゃないですか~!

 そ・れ・で・は・今回のクエストはずばり!

 経済自由都市国家テッサで露店を開こう!

 です!

 うーん。簡単すぎ?

 そうですよね、だからもう一つ条件がありますよー!

 購入者の皆さんに私メルヘスちゃんのシンボルをプレゼントしちゃってください!

 わー!

 すごーい!

 照れちゃう☆

 だからといって別に私が商売の神さまとか強調しなくて良いんですよ?

 しなくて良いんですよ?

 大事なことなので2回言いました!

 押さないでくだいね! てへぺろっ☆

 うーん難しいですか?

 それではやる気が出るようにもの凄い報酬を用意しちゃいましょう!

 もの凄く頑張りましたよ!

 褒めて褒めて!

 その報酬とは……そう!

 アキラさまが何度も申請しては神格不足で却下していたアレ!

 アレを承認しちゃおうと思います!

 いやー太っ腹過ぎて惚れちゃいます?

 良いんですよ惚れちゃっても!

 今回のクエストは難しいかもしれませんがアキラさまならやり遂げられると信じています!

 頑張ってくださいね!


 追伸

 クエストの発行って思っていたよりエネルギーを使っちゃうみたいなんですよ。

 なので次のクエストからは私の愛の言葉が入れられないかも!

 でもいけるときは頑張っちゃいますので拗ねずにクエスト続けてね!

 愛しのメルちゃんより☆

 成功報酬:新たなる商品をSHOPに追加

 達成条件:経済自由都市国家テッサで露店を開き購入者にメルヘスのシンボルを最低でも100以上配ること】


 クソが!

 今度こそ破り捨ててやろうと思ったが、クエスト破棄扱いになっても嫌なので仕方なくそれは諦めた。例のアレが承認されると今まで案件だった色々が一気に解決出来る可能性が高いからだ。

 足下を見やがってクソが……。これじゃあ無視も出来ねえ。

 俺がイライラとタバコに火を点けるとチェリナが灰皿を差し出してくれた。


「それでアキラ様、どのようなことが書かれていたのですか?」

「ん? ああ……簡単にいうとこの街で露店を開いて商売しろとさ」


 シンボルの話はしなくてもいいだろう。


「露店ですか?」


 チェリナは目を丸くした。きっと厳格な使命や崇高な事でも書いてあるとでも思ったのだろう。あのふざけた神さんがそんな事するはず無いだろうに……。


「そうだ。特に品物とかは指定されていないんだが……、ああチェリナ。露店の許可ってのはどこでもらえばいいんだ?」

「そのようなものすぐに許可いたしますわ」


 チェリナがにこやかに答える。さすがヴェリエーロ商会。


「明日処理しますので明後日からでもよろしいですか? お望みであれば明日でも良いのですが」

「いや明後日でかまわない。助かるぜ」

「そのくらい何ともありません。最高の場所をご用意いたしますわ」


 頼もしいことこの上ない。


「それで何を商うおつもりなのですか? 許可できない物もありますので、今のうちに教えてください」

「ああ、そりゃそうだよな。って言われても全然考えてない……」


 ライターとかはチェリナの邪魔になるし、シンボルも最低で100個を配らなきゃならない。シンボルの購入価格が100円なので、利益が100円以上になるようにしなければならないのが頭の痛いポイントだ。


「そうじゃアキラ、ワシャ明日からしばらく一緒に行動できん。出立(しゅったつ)の日は合わせるんで決まったら教えるんじゃ」


 唐突にハッグがそう切り出してきた。


「そうなのか? 用事があるなら無理して一緒に行かなくたって良いんだぞ?」


 彼と一緒であれば心強いが無理させる気は無い。


「アホをぬかせい。美味い酒をまだもらっておらん! まだ承認されんのか?」

「すまん。まだだ」


 確認したが神格不足で突っ返された。銃火器より承認されないってどんだけだよシングルモルト……。


「それを飲むまでは嫌でも一緒にいてやるわい。……それにおぬしを放置しておいたら何をやらかすやら……」


 最後は酒と一緒に飲み込んでたが、聞こえていたぞ筋肉ドワーフめ。子供じゃねーぞちくしょう。


「まあ……納得できない部分はあるがかまわねーよ。宿には戻るんだろ?」

「うむ」

「なら日付が決まったら教えるわ」


 ハッグは「うむ」と頷いて再び酒を呷り始めた。どんだけ飲むんだよ……。


「ヤラライには手間賃と護衛代を出すから露店の手伝いを頼めないか?」

「良い」


 即答してくれた。ヤラライさん男前!

 それで何を扱ったら良いものか……。


「アキラ様、例の秘薬はどうでしょう?」

「ダメだ」


 俺は即答した。


「どうしてですか? 素晴らしい薬ですし今のこの国では需要が高いかと」

「お前の所のヴェリエーロになら消毒薬でも包帯でも売ってやるさ。原価でかまわん。だが一般販売はダメだ」


 チェリナがしばらく黙り込む。


(またやってしまいましたわ……)


 彼女が小さく何かを呟いたが聞き取れなかった。


「なるほど……アキラ様がいなくなった後のことをお考えですね……」

「そういう事だ」


 個人的には救急セットでも原価分もらえるのならいくらでも渡してやりたい。だが俺がいなくなった後はどうなるか。買えた人間はいい。買えなかった人間は?

 おそらく残った薬に高値がついて奪い合うような商談が繰り返されるだろう。それに使い方だって全員に正しく伝える自信は無い。まがい物もわんさか出回ることになるだろう。ここヴェリエーロ商会であればすでにメルヴィンやチェリナが正しい使い方を学んだので大丈夫だが、一般市民に広げるのは後に問題をばらまく行為だろう。


「お前の知り合いだった医者先生に渡したり、ヴェリエーロの人間が直接使うんであればここにだけは卸すが転売目的の買い溜めは許可できない。まあここには世話になってるからある程度の備蓄分くらいならかまわないけどな」


 チェリナは小さく頷いた。


「しかしそうすると何を扱いましょう?」

「うーん。大儲けするつもりは無いんだが、飯代くらいは稼ぎたい所だぜ」


 アレが購入可能になったらいくら金が必要になるか予想もつかないからな。


「あまり回りの露店や店舗の迷惑にならず、それでいてオーパーツと間違われないような品物かぁ……」


 考えてみると難しいな……。


「ふむ。ならば食い物なんぞどうだ?」


 ハッグが髭を弄りながら意見する。


「食い物? ピザやたこ焼きでも売れと?」

「それも面白いが材料でいいじゃろ、ジャガイモなんぞええんでないのか?」


 チェリナが考え込む。


「料理済みの物を売るのは許可に時間が掛かってしまいますね。飲食ギルドとも相談しませんと。ジャガイモなどの材料なら問題ありません」


 ふむ。ジャガイモね。豚陛下を思い出してしまう。最後までじゃがバタ喰ってたみたいだしな。


「ジャガイモねぇ……この辺じゃ育たないんだよな?」

「ええ。前王国が招聘した農業学者が色々試していたようですが、思ったほどは育っていないそうです」


 ふむ……ん?


「そういやその学者さんは生きてたのか?」

「はい。バッハール様が何とか確保いたしました」

「そりゃ良かった」


 招かれた国のクーデターで死亡とか死んでも死にきれねぇだろうしな。


「本来育てやすい芋なんだけどな……芋?」


 そこで思考に引っかかる。答えなどとっくに出ているではないか。


「ああ……。俺って本当に馬鹿だな。売るもんなんてアレしかないだろ」


 そんなわけで売り物は決まった。

 チェリナが……ヴェリエーロ商会が絶賛生育中のアレ。

 キャッサバ芋。


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[一言] この物語に登場する女性キャラって初登場ほやほやのチェリナの母親以外は全員、行動が鬱陶しいんだけど、神さま…あんたもかw
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