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第7話「荒野のペットボトル」


「にわかには信じられぬ話じゃが……」


 ハッグはペットボトルをいじりながら続ける。


「実は聞かない話でもない」

「え?」


 俺はたき火の中で弾ける枝から視線を上げる。


「ワシは神官ではないから詳しくはしらんのだが、時折新しい神が生まれその眷属や巫女なんぞが選ばれたりするらしい。さすがに人が、それも個人が神を作ったなどとは思わぬが、たまたま神が生まれるタイミングじゃったとかそんな話じゃないかのぅ?」


 なるほど。

 俺の厨二妄想だけの産物ではなく、元々こっちの世界で神さまが生まれるタイミングに俺の痛い妄想が引っかかってしまった。


 うん、それだとまだ納得しやすい。


 黒歴史オンリーで生まれたとか考えたくない。


 神さまを生み出すとか英語あたりに翻訳したら大変な事になりそうだ。

 GODとか訳されたら目も当てられねぇ。

 ぜひKAMIで統一してほしい。

 いや誰も翻訳なんかしねぇけどさ。


「さっきも説明したが細かいことは俺こそ聞きたいぐらいだぜ。まぁ兎に角、神さまがいて、俺を助けてくれて、この大陸に飛ばされて、なんかちょっとだけ品物が買える……超能力? を授けてもらったってことしか俺にもわからん」

「超能力?」

「え? ああ……不思議な力……かな?」

「ふむ……」


 ハッグが顎髭をいじって思考する。

 どうやら彼の考える時の癖らしい。

 しばらく黙考していたがゆっくりと溜めていた物を吐き出した。


「その話、迂闊に他人に話さない方がいいじゃろ」

「無理矢理言わされたんだけどな」

「まぜっかえすな。アレを町中でやってたら大変な事になっておったぞ。次からは何か袋でも経由させるとええ。アイテムバッグならそれなりに数も流通しておるしな」

「それ強盗の奴も言ってたが、それはどんな物なんだ?」

「ふむ? これじゃ」


 彼は腰からサッカーボールが入るくらいの袋を取り出すと、中から次々と品物を取り出す。

 鉄塊やらハンマーやら(たがね)やら金敷やらそんなもんだが、どうみても袋の大きさと取り出した代物の容積が合ってない。

 どう詰め込んでも袋の2倍は入っていた事になる。


「見ての通り、何倍も物が入る入れ物じゃ。これの価値はそこそこじゃなそれなりの町なら購入可能じゃろう。ちなみにこのバッグはだいたい3倍程度の代物を詰められる」

「なるほどわかりやすい」


 俺の能力……なのかよくわからないがコンテナの能力を持つアイテムが存在しているわけだ。


「行商人はまずこのアイテムバッグを手に入れるのが最初の目標だの。次に荷馬車らしい」

「へえ、順番が逆な気がするけどな」

「荷馬車の方が遙かに高いし維持費もかかる。まずはアイテムバッグを手に入れて資金を溜めるのが定石と聞いたの。需要があるから作られる数も多い、値段はそれなりにするが手に入れやすい状況になっておる。じゃからお主も直接手に出すのではなく、袋に手を突っ込んでから取り出すとええじゃろ」

「ああ、そうする。変な誤解を受けたくないしな」


 町についたらそれっぽい袋を買う事を決めた。

 一度キャリーバッグを取り出して、手帳にメモする。


「な、なんじゃそれは!」

「今度は何だよ! ……これか? 鞄だよ。こっちじゃこういうの使わないのか?」

「バックパック……じゃよな? 普通はワシが使っているようなものを担ぐな。大小の違いはあるがの」


 ハッグの横には彼の身体と変わらない大きさの丈夫そうなリュックサックがある。

 小型のベルトがたくさんついていて、小型のフライパンや金属のコップ、ハンマー、ロープなんかがぶら下がっている。


 おそらく俺はあれを背負ったところで立ち上がることは不可能だろう。


「似たようなもんだろ?」

「材質が違いすぎるわ……これは、ぺっとぼとるに似た材質みたいじゃな。興味深いの」


 うーん。この世界の文化レベルがさっぱりわからない。さっきも自動車じゃなくて馬車とか言ってたしな。


「あ」


 重要な事に気がついた、いや、忘れていたと言う方が正しいか。

 袋を買うにも日本円しかないのである。

 これは大問題だ。

 しばし考えてから。


「なあハッグ。これって売れると思うか?」


 水の入ったペットボトルを取り出してみせる。


「売れるじゃろうな。買い手を捜すのは少し難しそうじゃが、商会にでも持ち込めばなんとかなるじゃろ、かくいうワシも一つ欲しい」

「ひとつあげたろ?」

「うむ。あれは礼としてありがたくいただく。もう一つ欲しいという事じゃ」

「なるほど」


 しばし考えてから。


「じゃあハッグが買いたいと思う金額の……半分で売るからふさわしいと思う金額をつけてくれよ」


 こっちの金銭単位も価値がわからないので丸投げしてみる。

 なんとなくハッグは適価をつけてくれるような気がする。


 俺ってこんな他人を信用するタイプだっけ?


 いや命の恩人なのだ、仮にボられても命の対価と思えば安いものだ。


「ふむ……銀貨1枚いや2枚……5枚では多いしの……しかしあまりにもなじみがなさすぎるからのぅふむ……」


 先ほどより激しく髭をいじりっていたが、バンと自らの膝を打つ。

 その音にちょいと驚いた。


「ワシは金勘定は得意ではない! なので適当に決めたぞ! その半額じゃ!」


 そういってごっつい手からじゃらじゃらと硬貨を渡してくれた。

 十円玉を一回り大きくしたような銅貨が……多いな、50枚くらいあるだろうか?

 それに五百円玉に似た……銀貨が1枚ほどあった。


「商人に売るなら3000円程度でいいじゃろ。そうしたら売値は7000円くらいになるじゃろ? そんで渡したのが1500円じゃな」


 用意していた水入りペットボトルをハッグが俺の手から取り上げた瞬間。


【神格レベルが2に上がりました】

【コンテナ容量が15個になりました】


 例の無機質な声が聞こえた。


 え? は?

 一瞬頭が真っ白になる。意味がわからない。いや突っ込みどころが多すぎる。


「か、金の単位は円なのか?」


 神格うんぬんコンテナうんぬんはひとまず置いておこう。


「ん? 当たり前じゃろ?」


 そ、そうなのか……でも渡されたコインはどうみても日本国発行硬貨には見えないんだが……。

 俺の目がおかしいのか?


 両手に乗せられた大量の硬貨。

 これでちょうど1500円きっかりらしい。


 さっぱりわからない。


 現在の所持金は17723円。


 思い切って銀貨を収納してみた。

 はたして所持金は18723円に増額された。


「そうだ」


 俺は思いついた事を試してみる。

 この世界の硬貨で500円分を取り出してみたのだ。

 手の中に銅貨が湧き出し握りきれずに地面にじゃらじゃらと落ちた。全部で50枚だ。


「今度はなにをしたんじゃ?」


 顎髭をいじりながら硬貨を見下ろすハッグ。


「いや、こっちの硬貨で500円ちょうど取り出してみただけだ」

「ふむ」


 ハッグは不思議そうにしていたが、そんな事は些細なことだ。

 重要な点は別にある。


 日本円と現地通貨の相互互換!


 これでこっちの通貨を稼げばSHOPリストの商品が買えることになる!


 ハッグとの会話から、こっちの文明レベルは低いと予測されるので、下着やら歯ブラシなんかが買えるのはとてもでかい。

 うん。本当に助かる。


 それに商品は増やせそうな感じだしな。

 いずれ便利なものも増やせるだろう。


 まだまだ謎は多いがでかい懸案事項が解消されたと言っていい。


 だが。

 神格という懸案事項は手つかずだった。


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