第81話「荒野の1000万ボルト」
おかげさまで30万文字突破しました
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「はあ、まったく、いつになったら俺達の仕事は楽になるんだよ」
鉄格子の外で兵士Aが溜息をつく。
「しゃあねえだろ、囚人はアホみたいに多いのに、増員はないんだからよ」
愚痴に答えたのは兵士Bだ。装備はどちらも年季の入った皮鎧に剣だった。
ちなみにABというのは俺が適当につけた。
「牢だって足りなくて、どこもすし詰めで飯を渡すのだっておっかねえぜ」
「あいつら全員免罪だと言い張ってるからな」
兵士Bが踵を壁に当てる。
「実際どうなんだ? 次から次に囚人は運ばれてくるが、あいつら本当に罪人なのか?」
「そんなこと俺が知るか。仮に無罪だったとして俺達に何が出来る。解放しろとでも言うのか?」
「まさか、ただそうだったら胸糞悪い話だなってよ」
「まあな、俺だって好きでやってる仕事じゃねぇからな……だが配属されちまったんだからしょうがねぇよ」
「はあ……お前徴兵あと何年?」
「あと8ヶ月、お前は?」
「俺は1年ちょいだな。たまんねーよ。こんな所にあと1年もいたら腐っちまうよ」
「こんなことなら普通に仕官すれば良かったぜ……」
「正規兵でも給料は安いらしいぜ?」
「仕事はもうちょっとマシだろ、街回りの巡回兵とかの方が良かったぜ」
「馬鹿を言うなよ、あれこそ寝る時間も無い最悪の仕事だって酒場で愚痴ってたぜ。最近はスラム周辺の治安も悪化してるしな」
「そうなのか? 俺は兵舎暮らしだからあんまり外はいかないんだよ」
「ああそうだったな。最近は夜出歩くと必ず犯罪に巻き込まれるレベルだからな」
「そりゃ酷えな……でもそれなら運ばれてくるのは皆んな犯罪者じゃねーのか?」
「そういう奴はこっちに来ねえんだよ」
「ああ、城外の牢か……」
「はあ……早く徴兵終わんねぇかな……」
二人のため息が重なる。
「狩りの時期にバッファロー狩りに志願すれば? 少しは期間が短くなるらしいじゃねーか」
「噂だろ? それにバッファロー狩りは必ず死人が出るんだぞ、やってられるか」
「ま、基本正規兵の最初の試練って話だからな」
「俺たちゃ正規兵みたいにまともな訓練も受けてねぇからな」
「馬鹿、こんな所でそんな事言うなよ、聞かれて反乱でも起きたらどうすんだよ」
「大丈夫だよ、一番奥だし、そいつも寝てる」
兵士Aがどうやらこちらを指差しているようだが、俺はムシロの上で壁向きに丸まっているので実際はわからない。
「ふん。まあほっとけ、最後の一日くらい好きなだけ寝させとけばいいさ。どうせ明日はアレだからな」
「こいつ、公開処刑ってのは本当なのか?」
「ああ、間違いない、取り調べからしてブロウ・ソーア大臣がいらっしゃった事からしておかしいと思ってたしな」
「あれはびっくりしたぜ、心臓が止まるかと思った」
「まったくだ。最初は冗談かと思ったぜ」
「俺、大臣と話したの初めてだ」
「話したって、道案内しただけだろ」
「そりゃそうだが、緊張したのなんの……」
「そういやソーア大臣が今日また囚人がまとめて来るとおっしゃってたぞ」
「マジか?」
「ああ、隊長に話しているのを横で聞いてたから間違いない」
「うへ、じゃあ今頃……」
そこで奥から別の声が聞こえた。
「おい! お前ら! ちょっと手伝え!」
「来たよ……」
小声で兵士Aが呟く。
「どうしましたか隊長?」
「先ほど窃盗団が連れてこられたんだが、その為に牢の囚人移動をしているのだが、手こずっている、お前らも手を貸せ」
「手を貸したいのは山々なんですが、ブロウ・ソーア大臣に直接この囚人を見張るよう言われていまして……」
「それは知っているが、そんなに時間はかからん」
「しかし……」
「大臣殿は現場というものを知らんのだ。現場の人間が臨機応変に対応しなければ国は回らんぞ」
「はあ……」
「わかったわかった。来るのは一人で良い。お前が来い」
「了解しました」
兵士Bが返事をする。
「ではいくぞ」
カチャカチャと金属音と足音が遠くに去っていく。
「昼は二人で見張ってろって命令だったのに……」
兵士Aが呟いた。
――――
これは、チャンスなのか?
俺は思案する。
まさかと思うが誘われている?
いや、明日処刑する人間を嵌める意味が無い。
ということは本当に窃盗団の受け入れに苦労しているのだろう。
声がしないということは、おそらく幾つかにわかれた別の地下牢に兵士たちが集まっているのだろう。
兵士の呟きから、今が昼なのがわかる。
本来であれば夜動くつもりだった。だがこれは千載一遇のチャンスか?
幸い体力は十分だ。
しばし黙考のあと。決意する。
よし、やろう。
俺は兵士に見えないようにコソリと『武器』を装備する。
おそらくチャンスは一度、上手く行けば最初の時間が稼げる。
失敗したら強行突破だ。
まあどちらにせよ力押しなのには変わらない。俺は武器をぎゅうと握りしめて、計画を開始した。
「う……うぐ……ううう……」
俺は苦しげに声を上げる。
「ん?」
しばらく悶える振りをしていると、兵士がようやく気がついてくれる。
「うぐ……ああ……あぐ……腹が……あぐ……痛え……死ぬ……」
俺は腹を抱えて呻きながら小刻みに震えてやる。
「お、おいお前、どうした?」
頼む、喰い付いてくれ!
「腹が……腹が……死ぬ……死ぬ……」
「お、おいマジか、ど、どうしよう……こいつが死ぬと不味いよな。公開処刑だもんな、死んだら……俺の責任になる……のか?」
「痛えよ……痛えよ……死ぬ……死んじまう……」
「どどどうしよう、おい大丈夫か?!」
「駄目だ……死ぬ……痛え……助けてくれ……」
「ええ! 死ぬなよ! 困るよ!」
「痛え……死ぬ……死……し…………」
「え? おい! 返事しろよ! おい!」
「…………」
「ちょ?! マジか! 冗談じゃねえよ! マジで死んだのか?!」
「…………」
「やべえ、どうしよう……ほ、本当に死んだ? のか?」
しばらくその場で狼狽える兵士。
馬鹿なにやってんだよ! いいからこっち来い! 死んでるかどうか確かめて見ろ!
物語だとベタな方法だが、本の流通していないこの世界なら効果あるだろ?!
「隊長に……いや、今は3区画か……っていうかマジで死んだのか?」
兵士はこちらを窺うが俺は奥の暗がり、向こうからこちらはよく見えないはずだ。
「おーい、返事しろよー。冗談なんだろー?」
「…………」
「マジか……マジかよ……とりあえず……確かめる、しかないか……」
ごくりとツバを飲み込んで、兵士が牢屋の鍵束を震えながら取り出して、ゆっくりと鉄格子を開く。
よし、そのまま来い、近づいてくれ!
兵士はゆっくりと中に入り、最初足の爪先で俺の背中を押す。
「おーい。返事しろよ。生きてるんだろ?」
何度も俺の身体を揺らすが反応が無いのを確認すると、腰を降ろして俺の肩を揺すろうと手を伸ばしてきた。
ここだ!
俺は反転して『武器』を兵士に押し当てた。
「なっ?!」
「くらえ! 電圧1000万ボルト!」
ばちちちちちち! と凄まじい音を立てた武器は一瞬で兵士の意識を刈り取る。
「あ、危ねえ、首筋外して思いっきり服の上だった……」
俺は手にしたスタンガンを、倒れた兵士の首筋に当てなおしてもう一度スイッチを押す。兵士の身体がびくんと跳ねてピクリとも動かなくなった。
「死んでも……恨まないでくれよ」
俺は用意していた装備を一度全て床に並べる。
スタンガン 2万1900円
レスリーサル弾×100発 60万円
ライフル 22万4千円
ハンドガン 12万9千円
弾×50発 1600円
米軍装備セット=6万8000円
マガジン×2 3万9600円
スタングレネード×10 26万円
これが130万近い値段で買っていた装備だ。
まずは米軍装備セットの服に着替えて、マガジンポーチ付きのジャケットを羽織る。
そこにレスリーサル弾。つまり非殺傷弾を詰めてあったマガジンを差し込む。
スタングレネードは4つジャケットに装備して、残りはコンテナに仕舞う。
ライフルを取り出す。あまり詳しくないが「ライフルが欲しい」と願ったら出てきた代物で、SHOPリストには以下のように記載されていた。
【M4A1カービン=22万4千円】
スタングレネードはこうである。
【M84スタングレネード=2万6千円】
M16A1くらいなら知っているが最新の銃はさっぱりだ。だが実物を見て、たしかM16の後継だった記憶がよみがえった。もうちょっと良いカービンがいっぱいあると思うのだが……。いや、今は考えるのをやめよう。
M4にレスリーサル弾のマガジンを差し込む。
ハンドガンも購入した
【SIG SAUER P229=12万9千円】
コレは指定した。アメリカで実銃を撃ったことがあり、使いやすかったからだ。シグザウエルには実弾の9mmを装備する。こちらはいざという時用だ。できれば使いたくない。……ってか9mmバージョンかよ……。
まさかガンマニアの上司に自費でハワイの射撃場まで付き合わされた経験が生きる日が来るとはな。
ベルトのホルスターに突っ込む。M4は肩にベルトで掛けて、手にはスタンガン。
手袋がごつい……。
だがブーツは嬉しい。
装備完了。
次に俺は倒れている兵士から鍵束と剣を取り外し、一度コンテナに収容する。
予想通りSHOPリストが増えていた。
【ピラタス城地下牢屋の鍵束=1万2630円】
【ピラタス王国一般兵士用長剣=3万6200円】
よし、よし!
俺は急いで鍵束を10セット買い、適当にジャケットに引っ掛ける。
残金840万4901円。
よし。いくぞ。
俺はとうとう牢屋を飛び出した。
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