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第80話「荒野の激昂陛下」


 ピラタスⅡ世はしばらく目の前の女の言葉を理解することが出来なかった。


 この身を、お好きに、いかようにも?


 国王が欲していた言葉であるはずなのに、それはまるで遠い真輝皇国の天気でも聞いているかの様に染み渡らない。

 彼が望んでいた笑顔なのに、彼が渇望していた言葉なのに、一切喜びが訪れない。

 国王は生まれて初めて、他人の心を理解した。いや、させられてしまった。

 それはあまりにもチェリナの強く純粋な思いゆえ、その気持がいったい誰に向いているのか、豚にも劣る国王にすら理解できてしまったのである。


(この者の気持ちは小石一つほども余に向いておらん!!)


 国王はそこで醜悪なほど怒りの表情を見せた。声を上げなかったのは怒りが強すぎて言葉が出なかっただけである。


(許せぬ! 許せぬ! 許せぬ! 他の男のために余の物になるじゃと?! なんという侮辱じゃ! 許せぬ! この女は八つ裂きに! いや、永遠に性奴隷として嬲り続けてもこの怒りは収まらん! ヴェリエーロ商会など知った事か! この女を捕らえ、商会も皆殺しにしてくれるわ!)


 国王が頭を沸騰させている時、衛兵達や、チェリナ、周りの護衛たちがざわめいていた。

 謁見の最中だというのに兵士達が頭を巡らせて、落ち着かない。


「なんじゃ?」


 様子がおかしいと気がついて国王が周りを見渡す。衛兵の何人かが外の様子を窺うために明かり採り用のスリットに走る。


 そこで彼らはようやく城の外が騒がしいことに気がついた。

 叫び声なのか怒鳴り声なのか、時折破裂音まで混ざっている。


「な、なんじゃ?」


 いきなりの事態に理由もわからぬまま衛兵たちが国王陛下の周りを囲む。


「衛兵! 何がおきている!」


 最初に叫んだのはブロウ・ソーア大臣である。厳しい顔を周りに向けた。

 それに対して、スリットから外を覗いていた衛兵が答える。


「よくわかりませんが、どうやら反乱……いえ、あれは……どうやら牢の人間たちが外に逃げ出しているようです!」

「なんだと?!」


 ブロウは転がるように別のスリットに飛びついた。


「陛下! こちらへ!」


 ゲノール宰相がピラタス国王の手を引く。


「し、しかし……」

「今は御身の安全を! 衛兵! ついてまいれ! ヴェリエーロ一行は控室で待機していなさい!」


 年齢からは考えられないほどの大声で宰相が叫ぶと、国王を引っ張り、奥の扉に衛兵を引き連れて消えてしまう。


「どうするんじゃ?」


 チェリナに声を掛けたのはドワーフのハッグである。


「牢の人間?」


 チェリナは答えない。


「……まて、精霊の、声聞いた、アキラ、いる」

「なんですって?!」

「なんじゃと?!」


 エルフのヤラライの言葉にチェリナとハッグが叫ぶ、直後3人はスリットに取り付く。


「おい、貴様ら! 何をしている! 控室に戻らんか!」


 残っていた衛兵が叫ぶが無視して外を凝視する3人。


「ええい! まったく見えんわ!」

「よくわかりませんが、同じ貫頭衣の人間が武器を持って外に大挙して向かっているようです」

「最後尾、アキラ、いる、服装、変だ」

「貴様らぁ!」


 顔を真赤にして迫る衛兵に、くるりと振り返るチェリナ。にこやかな笑みに衛兵が「うっ」と足を止める。


「失礼いたしました。わたくし共は控室に戻りますわ」

「う、うむ」

「行きましょう」

「……ふん」


 ハッグは鼻息を鳴らしてチェリナに続く。残りの人間もチェリナに続いて控室に戻っていった。

 先ほどの控室に全員が入った所でチェリナが宣言する。


「わたくしは決めました。王家を見限ります」

「チェリナお嬢?!」


 メルヴィンが縋るように叫ぶ。


「止めても無駄ですよメルヴィン。もう決めました」

「ふん。それはええが、どうするつもりじゃ? 強行突破は望む所じゃが、後が続かんじゃろ」

「アキラ様と合流して脱出して、その後『海龍』と連絡を取ります」

「海龍?」

「王家に不満を持つ組織……平たく言えば反政府組織、レジスタンスですよ」

「なんじゃ、そんな物騒なもんと繋がりがあるんかい」

「何度も決起を促されておりました。わたくしに音頭を取って欲しいと」

「ほう? なんでお嬢ちゃんなんじゃ?」

「市民受けが良いからでしょうね。わたくしが立つとなれば、続く人間は多いでしょう」

「ふん。きな臭い話じゃな」

「まったくです。ですが、もう、この国は限界です、わたくしが何をせずとも近いうちに終焉を迎えていたでしょう……ですが、考えが変わりました。この国は、わたくしが、終わらせます」


 チェリナの目には決意が満ちていた。

 メルヴィンは泣きそうである。


「ふん。女というのはまったく怖い生きもんじゃの。ええじゃろ、どのみちもうアキラを助ける道は他にないじゃろうしな」


 ハッグの言葉にヤラライが頷く。


「わ、我々もお嬢様がやるのであれば、どこまでもついて行きます!」


 ヴェリエーロ家の護衛達が震えながらも決意を示す。

 この言葉からもただの雇用関係でない事がうかがえる。


「よし、ではまず武器からじゃな」


 ハッグが指をバキバキと鳴らしながら獰猛な笑みを浮かべる。横でヤラライも僅かに口角を上げていた。


(アキラ様、すぐに迎えに行きます)


 チェリナの瞳は紅く紅く燃えて輝いていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ~、レジスタンスもチラッと出ていたのを忘れてた! 色々と嚙み合わないけどそれぞれが思う様に動いているという事でもあるかな。
[気になる点] 今後の展開に必要な流れだとは思うのですが、主人公に良いところが無さすぎるのが気になってきました。 別にスーパー主人公が無双しまくる内容を求めてるわけでは無いんですが、メインと思われる商…
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