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第71話「荒野の怪獣大決戦」


 まず、目で追うのがやっとのスピードで突っ込んでいったヤラライが、とん、と軽快なステップを踏むといきなりバッファローの顔まで飛び上がっていた。


 マジかよ。


 ヤラライは高層ビルの鉄筋にしかみえない極太のエストックをその額に突き入れる。

 そこでようやく敵を認識したのかバッファローが大きく吠えた。額から出血していたが、致命傷にはならなかったようだ。両前足を浮かせてヤラライを牽制する。


「もらったわい!」


 そこでいつの間にかバッファローの足元に辿り着いていたハッグが、後ろ足の一本を巨大な鉄槌で叩きつける。後ろ足立ちしていたバッファローは当然悲鳴を上げてひっくり返った。

 マンモスより数倍はでかいその巨体が倒れると、俺達が隠れている丸太の山が崩れるほどの衝撃がきた。直下地震6強だ。耐震設計が必要だった。


 俺はチェリナの手を取ってできるだけ安全な場所に引っ張っていく。

 が、振り返った時にはすでに震源は沈黙していた。

 ハッグとヤラライが寄ってたかって頭を潰していたのだ。


「か……怪獣大決戦……」


 恐ろしい、俺はハッグとヤラライを怒らせないと心から誓った。


――――


 そこら中から歓声が上がった。

 逃げ惑っていた奴や、棒きれを持って立ち向かおうとしていた奴、河に落ちた奴、中には穴を掘って頭だけ隠していた奴とかもいたが、全員がハッグとヤラライを称えるために集まってきた。


「すげえなあんたら! まさかハグレをたった二人で倒しちまうなんてな!」

「おお! 初めて見たぜあんなすげえの!」

「あんた俺らと一緒に働かないか?!」

「ばーか、あんな腕があるのにどうして木場なんぞで働くかってーの」

「それもそうだ」

「わははは!」


 上半身裸の男達や、獣人たちに囲まれる。


「ふん。あの程度一人で十分だったわい」

「それ、俺の、セリフ」


 二人が死線を交わし始める。


「まてまて! 喧嘩はやめろよ! 空気を読めよ!」


 俺は空気を読まずに喧嘩を始めようとする二人に慌てて割って入った。


「……ふん。まあいいじゃろ」

「誰も、死んでない、なら良い」


 二人は得物を背中に戻し、俺はホッと息をついた。


「さすが、ヤラライ様とハッグ様ですね、バッファローを怪我一つなく仕留めるとは本当に凄いですわ」

「俺は驚きすぎて声もでねーよ」

「出ているではありませんか」


 クスリと笑うチェリナ。


「茶化すな。どうも俺の知ってるバッファローとは似ても似つかないもんだったらしい。ああいや、見た目は似てたんだが大きさがな」

「学者の説によりますと、荒野を長時間渡るために、身体に栄養を溜め込めるよう大きくなったと聞いたことがあります」

「それ、消費エネルギーを考えたらマイナスじゃねーのか?」

「エネルギー……ですか?」

「あー、なんでもない」

「気になります」

「俺もよくわかんないんだよ。まあ……なんていうか力の単位……とでも思ってくれ」

「はあ」


 熱エネルギーとか運動エネルギーとかどうやって説明せいっての。


「しかし大物ですね、先日に続けてですから、市民にまで恩恵があるかもしれませんわ」

「こんだけでかけりゃ、食えるやつも多いだろう。前にバッファロー肉を食ったが、結構美味かったな」

「はい。ご馳走ですからね。まだ本格的な狩りの時期ではないので、干し肉業者も塩漬け業者も準備不足でしょうから、おそらく生肉が大分安く出回るのでは無いでしょうか」

「そりゃいいことだ」

「そうですね」


 ビルの横倒しを思わせる巨体を見上げていると、ヤラライとハッグがようやく解放されて戻ってきた。どっちも返り血の一滴すら浴びてない。

「アキラ、怪我、ないか?」

「おかげさまで、慌てふためいて自爆しそうだったけどな」

「なら、よい」

「ふーむ。今夜はご馳走じゃの」

「ハッグ様、バッファローはギルドの買い取りになると思いますからそれは無理かと」

「相変わらず商人共はケツの穴が小さいの!」

「決まりですからね。代わりに依頼料に色がつくように交渉しておきますわ」

「ふん。まあええわい。まったく……」


 ぶつぶつと文句をたらすハッグ。気持ちはわかる。


「これほどの大物であればお二人で山分けしてもかなりの収入になると思いますよ」

「なあチェリナ、普通は何人くらいで狩るもんなんだ?」

「そうですね……最低でも10人でしょうね。狩りの時期では千人単位になりますが」


 10人でなんとかなるんか……。


「そりゃすげえ、千人単位の隊列とかちょっと見てみたい風景かもしれん」


 戦争は隙じゃ無いが、隊列とかは心が躍るよな。


「……見れるかも、しれんぞ」


 声を低くしてハッグが答えた。意味がわからない。


「商会、か?」


 ヤラライも顔を上げて遠くを見つめている。城門の方角だった。


「あれは……国軍?」


 チェリナが呟く。

 俺もそちらを伺うと、大勢の人間がこちらに向かって来ているのを確認した。


 ……やばい。


 その瞬間俺の背中に電気のようなものが走った。

 どうにも嫌な予感がする。

 俺はこの手の予感を外したことがない。なんといっても人生全てが嫌な事しか無かったからな。

 もちろんこの予想は的中する事になる。


評価・ブクマしていただけると、感涙して喜びます。

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