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第5話「荒野の鉄槌」

(三人称)


 ほんの少し時間はさかのぼる。


 アキラが道を見つけてすぐの頃だ。

 その後方に一人のずんぐりした人影があった。


 彼はドワーフである。

 年齢は139歳と脂ののった年齢だ。


 鉄を愛して金属に取り憑かれ金属と共に死んでいくドワーフの中では少数派に当たる鉄以外に取り憑かれた者。ハッグはその一人だった。


 いや取り憑かれ方が変わっていたと言う方が適切かもしれない。


 ドワーフの王国でひたすらに鉄や銅やミスリルを打ち続けるのではなく、大陸中にある金属と出会ってみたくなってしまったのだ。


 そこで彼は旅に出た。


 旅に出るドワーフは珍しくない。

 彼らは鉄と同じくらい戦いに取り憑かれる者も多い。

 だから傭兵として武者修行として用心棒や兵士、意味もなく血の臭いに引かれていく者もいる。

 元来頑強で器用な彼らだ、需要は多い。


 女性は比較的家庭に収まるのでエルフのように人口が極端に少ないと言うこともない。


 旅先で良い場所を見つけると一度王国に戻り嫁を見つけ終の棲家に連れてきて(つがい)となす。

 そしてその子供たちは町生まれのドワーフとしてとけ込んでいく。

 まぁそんな子供たちもなぜかほとんどは鉄の魔力に取り憑かれてしまうのだが……。閑話休題。


 とにもかくにも旅にでたドワーフのハッグは、町から町へと移っては遍歴鍛冶屋として、仕事がなければ戦士として長い時を掛けて旅をしていった。


 世界は広く面白い事や辛いこと美味い酒があるかと思えば人の暗黒を見せつけられることもある。


 その全てをひっくるめて旅は楽しくいつも新しい発見があった。


 そして今日も楽しいことに出会えそうだった。

 大陸の西の端、山脈の回り道でもあるが、それにしてもはずれにある……つまりはど田舎の港町に向かう途中の事だった。


 ハッグから見て、随分と前方に人間の男が一人で歩いていた。

 荷物も無く手ぶらの様だが妙に身なりは良い。

 真っ白いシャツと仕立ての良さそうなズボンは下ろしてまだ数日に見える。


 この荒野を歩くのにわざわざ新品を下ろすだろうかとも思ったが、たまに人間は見栄や虚勢で訳のわからんことをするので、これもそのたぐいだろうとハッグは結論づけた。


 靴は底が抜け掛けているのか時々かかとが見えている。

 町まで保つか怪しい所だろう。

 まぁ靴を普段から履いているのだからやはりただの庶民ではないだろう。


 歩き慣れていないのか随分と歩みが遅い。

 靴を気にしているのかもしれない。

 町につく前には確実に追いつくだろう。


 どこから来た商人なのか話を聞くのも面白いかもしれない。

 異国の鉄の話など聞けたら最高だ。


 供がいないので貴族と言うこともないだろう。

 布にはあまり興味はないがあのズボンの作りは少々面白そうだ。

 そんな取り留めのない事を考えながら歩んでいると、男の前に別の男が二人ほど現れた。


 若干のやりとりの間に、後ろに回り込んだハゲが退路を塞ぐのが見えた。

「まったく……」

 ため息が出る。

 どうしてこの世はバカばかりなのかと。


==========================

(アキラ視点)


 姉さん大変です。僕はいまピンチです。

 ……姉なんかいねぇけどよ。


「えーっと……見ての通り私は何も持っていませんよ……ああなんだったら確認してもらっても」


 敵意ゼロを示すように両手を上げた状態で(ひきつった)笑顔で語りかける。


「はん? よしじゃあそこに服を全部脱いで1枚ずつこっちに投げろ」

「ここで!?」


 すっぽんぽん?! 全裸?! ここで?!

 誰得なんだよ! こいつら変な趣味ないだろうな!


「あー……えー」

「早くしろよこのやろう!」

「うひゃぃ!」


 スキンヘッドが不意打ちに槍の石突きで背中を押してきた。

 一瞬刺されたのかと思って怪鳥的奇っ怪な悲鳴を上げてしまったじゃねーか!


 俺がシャツを低木に引っかけた時だった。


「なんじゃ、こんな所でストリップか? 相変わらず人間は変わっておるの」


 新しい声の主は俺よりも頭一つ分背が低いがやたらがっしりした体つきの筋肉だるまだった。


 金属製の鎧を着こみ背中にどでかいハンマーを背負っていた。

 顔はしわくちゃで立派な髭が胸まで伸びていた。

 ただキューティクルは足りないらしく髪にも髭にも輝きはない。


 強盗団の新手かと思ったが3人も目を丸くしていたのでどうやら関係ないらしい。


「ストリップなんかじゃねぇよ! ドワーフ! じゃまだからとっとと失せやがれ!」


 スキンヘッドが叫ぶ。どうやら彼は短気らしい。


「ほうストリップでないなら、そうさな……まるで追い剥ぎじゃな」


 ドワーフ、と言われた小さな巨漢(?)がこちらに凄みのある笑みを向けて片目を閉じて見せた。

 すぐには意味を理解出来なかったが、ぴんと来てすぐに俺は叫んだ。


「た! 助けてください! 強盗です! 追い剥ぎです!」


 俺は転がるようにドワーフの背中に回り込んで逃げ込んだ。

 途中スキンヘッドが槍で突いてきたのだがドワーフはそれを片手で握って止めた。


「んな?!」

「くそが! やっちまえ!」

「油断するな! こいつやるぞ!」


 スキンヘッドは槍を手放して離れると腰からナイフを取り出して3人が身構えて並ぶ。

 腰を低くして武器を振るう姿勢。

 そこには戦いに……いや殺人に対してなんの躊躇もない男たちの姿があった。


 俺は恐怖でその場に崩れ落ちる。

 膝が笑って立ち上がれない。


 ドワーフは握っていた短槍をポイ捨てすると、ゆっくりと背中のハンマーを構える。

 それまで罵詈雑言を叫び散らしていた強盗3人組が喉をならして黙り込む。


 そのくらい圧倒的な質量だった。


 物理的な質量だけでなく、ドワーフの放つ殺気とでもいうのかオーラが重みとなってこの場に降り注いでいた。


 一歩進む。

 一歩下がる。

 一歩進む。

 一歩下がる。


 命のやりとりなんぞわからない俺にもこの喧嘩の力関係は感じ取れた。

 どう考えても強盗の勝てる未来は無い。


「死ぬか?」


 ゾクリとした。


 ドワーフとやらが放つ言葉が言葉を越えて物理的な凶器そのものと感じてしまった。


「くっ! くそ! 今日は見逃してやる!」

「ありがてぇと思えよ!」

「今度会ったら殺してやる!」


 途端に3人は荒野に向かって走り出した。

 土煙を上げて走り去る彼らは驚くほど速かった。


 まぁ消えてくれるならなんでもいいんだけどな。


「まったく盗賊というのはどうして捨てゼリフまで同じなんじゃか……」


 ガリガリと頭を掻きながらドワーフが背中にハンマーを戻す。


「あ……あ……」


 俺は言葉を出そうとするがうまくいかない。


「大丈夫か? 若いの」


 キャッチャーミットみたいな手を差し出され、それを握ると起きあがらせてくれた。

 背が低いのにパワーが凄い。


「あ……ありがとう……助かったぜ」


 つい地の言葉が出てしまった。


「うむ。無事でなにより」


 それが<放浪鉄槌>ハッグとの出会いだった。


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