第64話「荒野の大司教」
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■■■ <大司教>ブレン・フォン・ラマサイノス ■■■
ムートン・レイティアという聞き慣れない宛名の手紙が始まりだった。
役職は神官。
どうして大司教である私ブレン・フォン・ラマサイノスがこんな最下層の人間の手紙など読まなければならないのだ。
理由は羊皮紙に押された蝋封の形で知れる。
最重要案件発生の印である。
一体どこの馬鹿がこの忙しい時にこんな書式で送ってきた。ああムートン・レイティアと言うんだったな。覚えておく。そして必ず教会から追い出してくれる。
本当ならこのまま羊皮紙を暖炉に投げ込みたい気分だが、そこは腐っても最重要案件書類である。さすがに目を通さないわけにはいかない。くだらない内容であれば教会追放にとどまらず首を跳ねてやる。
最近の若造はその辺を理解していないのだろうか。一度教会全体で引き締めを図る必要があるかもしれない。
もっともそんな時間も予算も人材もありはしないのだが……。
私はため息を付きながら馬の毛で蝋封された羊皮紙をナイフで開く。どんなくだらない事が書いてあるのかと、目を通していくが、視線が一行進むごとに、私の血液は脳からどんどんと下降して、全てを読み終わる頃には顔面蒼白で震えていた。
馬鹿な、ありえない。
そこには「新しい神の使徒が現れた」と明記されていた。
いったいどこの馬鹿がこんな妄言を吐いているのだ!
私は怒気を含んでテーブルを叩きつける。
ああ、レイティア……なんとかだった。こいつは死刑だ。神の名の元に神罰を与えるしかない。
我ら大地母神アイガスの教皇こそが使徒である。
我らはそう喧伝している。
太陽神ヘオリスもそうだし、月の女神テルミアスもそうだ。
この3大神は皆、トップが使徒であると喧伝している。
だが。
そう。大司教の座になって初めて知らされる、我が教皇は使徒などではない事実。おそらく太陽神も月の女神にも使徒などおるまい。その他の神に至っては間違いなく存在などしない。そんなものがいるのであれば、今頃この世はとっくに「4大神」になっているだろう。
それが、使徒、だと?
ありえない。
私は羊皮紙を何度も何度も読み返す。
新しい神の名はメルヘス。
商売神メルヘスと言うらしい。
商売の神とはなんとも俗な事だ。
そして使徒アキラという青年は、メルヘスのシンボルを奉納したいと。
神官レイティアの見立てによれば、おそらく何らかの力を持っている彫り物だと言う。
馬鹿な。そんなことがあってたまるか。
三柱……つまり先の3大神全てを巡礼してシンボルを奉納しなければならないと言う。
これが事実であれば、我らは新たな神の創生に立ち会う事になる。ヘオリスとテルミアスにも、というところには若干業腹な部分もあるが、これを実現させたら神の創生を認めた神として、さらなる神格を得るであろう。
9割9分は何かの間違いであろうが、それこそ万が一にもこれが事実であれば、絶対に放置してはならぬ案件である。現状では我が大地母神アイガス教しか知らぬ事実。まずは懐に取り込んでしまうのが一番であろう。
しかし西の最果て荒野の先では何も出来ぬ。
私一人で決められる事態ではない。傍らのワインをグイと飲み干すと、意を決して羊皮紙を握りしめ立ち上がる。廊下に出て、司教たちが祈りを捧げる部屋に行くと、一番年長の司教に声をかける。
「司教、今すぐに私が面会したいと、教皇様に言伝を」
「は? 今すぐに、ですか?」
通常は教皇様と面接をするのであれば、どんなに短くとも一週間前にアポを取るのが常識だ。
「ええ、最重要案件が発生しましたと」
「教皇様はそろそろお休みになるお時間ですが」
「構いません、全ての責任は私が取りましょう」
「わかりました。すぐに」
私よりも大分年上の司教が、やや早足で教皇の邸宅に向かう。
私はその場で膝折り、大地母神アイガス様に祈りを始める。
私は気が付かなかったのだが、その私の様子を周りの司教たちは奇異な目で見ていたようだった。
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