第63話「荒野の露天風呂」
(かなり長いです)
ちょうど河の見渡せる辺りに風呂は作られていた。特に秘密ではないので柵に囲まれているわけでもない。
「別に覗く奴もいないんだろうが、ちょいと見通しが良すぎるな……」
「気になるようなら衝立を立てましょうか?」
いつの間にか横にいたチェリナが答える。
「木炭と和紙の出来はどうだった?」
「どちらも順調です。このまま商品として出して問題無いでしょう」
さきほど風呂のイラストを書いた和紙の出来を考えると、俺も賛成だった。
「今日完成分の和紙に関してはサンプルとして商業ギルドにバラマキます。自然にヴェリエーロ商会の商路以外の地域にも認知されていくでしょう」
「よく考えてるんだな」
「当商会の書類もかさばる木版から、順次和紙に移していきます。普段仕事のない写本で食いつなぐ貧乏学生をかき集めなければなりませんね」
「商会の資料を見られるのは問題あるんじゃねーか?」
「その辺はうまくやりますよ」
「認識してるならいいんだ」
ま、この女がその辺気がつかない訳も無いがな。
「しかし次の出港は少し伸ばさないとダメかもしれませんね」
「出港って、船の事か?」
「ええ、和紙にしても炭にしても、この品質でOKとしても船に乗せる量を考えると、もう少し時間が必要ですから」
「ああ、あの船はかなりデカいもんな」
「木炭はわかりませんが、和紙に関しては間違いなく食いついてくるでしょうしね。ライターも売れるでしょう」
「だといいな」
「自信があります」
この女が言うと説得力あるな。
「アキラ、繋げ終わったぞ」
「早いな」
ハッグが風呂釜を大まかに仕上げて立ち上がる。
「今は焼きを入れておるから、こいつも夕方くらいには完成するじゃろ。バスタブの方は数日掛けたほうが良さそうじゃが、まぁ今日使っても壊れわせん。また明日に焼きを入れればええじゃろ。その辺は指示しておいたわい」
「さすがハッグ」
実はお湯をコンテナから出せば面倒無かったんだよななどと今さら言えない。
「あれ、そうすると日が落ちてから街に戻る事になるのか? 門が閉まってる?」
「わたくしが一緒ならなんとでもなりますよ」
「マジか」
「マジです」
ニコリと答えるチェリナ。ヴェリエーロ商会ってのはどれだけ権力があるんだよ。貴族並の権力があるんじゃねーのか? いや貴族がどこまで権力を持ってるかわからんけど。
「ならいいけどな」
そんな話しをしていると、大量の馬車が列をなしてやってきた。
「なんだなんだ?」
よく見ると先頭にはヤラライが歩いている。
「お疲れ様ですヤラライ様」
「よい」
馬車かと思ったらどうも馬ではなくラバっぽい。ラバ車って言うのか?
チェリナの馬車とは雲泥の差で、荷台は壊れそうな木造むき出しの荷車なのだが、そこに山盛りの土が積まれている。
「栄養、高い土、持ってきた」
「おつかれ」
ヤラライは俺を確認したあと、ダウロに何やら指示を出している。横で聞いていたら、不浄物捨て場のどの辺が栄養があり、どの辺があとどのくらい熟成が必要か、また現在の捨て場の処理方法など指示している。細かい所はわからなかったがダウロはわかっているようだったので問題ないようだ。
俺はタバコを購入して、火を点ける。
残金989万9898円。
「おいこらアキラ、何くつろいでんじゃ!」
「は?」
石窯にしても風呂にしても焼きが終わるまで出番はないだろ。あえて言うなら和紙や木炭の出来を確認する事だが、それはチェリナが終わらせたみたいだし、俺もだいたい確認してる。
「くつろいじゃ不味いのか?」
意味がわからない。
「ふん、せっかく時間があるんじゃ、鍛えてやるわい」
「はあ?! い、いらん! 今日はもう十分だ!」
「訓練に十分なんてもんは無いわい。諦めるんじゃ!」
「ちょ! 引っ張るな! あああ! タバコが落ちた! せめてそれが吸い終わるまで! 頼む! 後生だぁぁああああ!」
今や一本260円の超高級品となってしまったタバコに手を伸ばすが、ハッグの豪腕に引っ張られどんどん小さくなってしまう。それに気づいたヤラライがため息をつきつつ拾って自分の口に咥えた。
「勝手に吸ってんじゃねええええええ!」
俺の魂の叫びは誰の心にも届かなかった。
――――
「し……死ぬ……」
「安心せい、人はそう簡単に死なんわい」
「いや……絶対……疲労で……死ねる……」
やらされたのは丸太を持ち上げて下ろす動作を、ただひたすら繰り返させられた。昔あったという、穴を掘らされ埋めていくのをひたすら繰り返す拷問と変わらない。
丸太、持ち上げる、下ろす、持ち上げる、下ろす、持ち上げる、下ろす、持ち上げる、下ろす、……うわああああ! ゲシュタルト崩壊を起こすわ!
逃げ出そうとするとハッグが別の丸太でやんわりと俺を押さえつける。
なんでそのふっとい丸太を片手で持てるんだよ! 意味わかんねえよ!
半分泣きながら丸太の持ち降ろしを繰り返した。うん。半泣きってか、マジ泣きだわ。助けて。
「少々スパルタ過ぎではありませんか? わたくしの時はもっと時間を掛けてましたが」
「そりゃあお嬢ちゃんにこれをやれといえる奴は少ないじゃろ。ワシが師匠なら問答無用でお主にもやらせるわい。いやむしろ体力を考えたらお主にはもっとキツイ事をやらせるのう」
「そ、それは……」
助け舟を出してくれたチェリナが一瞬で言いくるめられた。頼むもっと頑張ってくれ。
「安心せい、アキラはすでに波動を最小限使えておるわ。基礎体力がつくのはすぐじゃろ。お主もアキラを鍛えるのには賛成しておったろ」
「それはそうですが……こんなに時間を使うとは思いませんでしたから」
「ふん。最初に手を抜いたら武人になんぞなれんわい」
「いや俺、武人になるつもりはまったく……」
「アキラ! 無駄口を聞く暇があったらもっと気合を入れんかい! ちゃんと波動を出さんと筋肉痛で死ぬからの!」
「マジか……」
そもそも波動を出さないと丸太を持ちあげられない訳だが、気を抜くと潰されそうになる。なんで俺はこんな拷問を受けなきゃいけないんだろう……。
「ハッグさん、焼きが終わりやしたぜ」
ダウロだった。
「おお、そうか! よしアキラ終わりにしていいじゃろ」
「うへぇ」
俺は丸太を放り出してその場に倒れこむ。死ぬ……。
「なにしてるアキラ、石窯が完成したんじゃぞ、美味いもんを作るんじゃ!」
ああ、こいつ悪魔だわ。いずれ復讐してやる。精神的に。
――――
石窯はもう清掃が終わって灰一つ残っていなかった。
まだ余熱が残っていたが問題ない。
「しまった……ハッグが訓練とか言い出した時に食事の支度があるって言えば逃げられたんだ……」
「それは……ご愁傷さまです」
俺の呟きにチェリナが同情してくれた。お互い今さらだと顔に出ている。
「はあ……まあいいや、チェリナ、頼んでおいた材料は揃ってるか?」
「もちろんです。本当は料理長も来たがっていたのですが別件がありまして」
「別に難しいもんじゃないよ、調味料は知らんけどな」
予め用意しておいてもらった強力粉と薄力粉、塩とオリーブオイルを並べる。
ヴェリエーロ商会の幹部達だけでなくハッグとヤラライも興味深げにこちらをみている。
「ドライイーストはこっちで用意した。なんかパン屋ギルドじゃないと手にはいらないらしいからな」
【ドライイースト(50g)=285円】
お金は後でチェリナに精算してもらうので所持金変化なし。
小麦粉を振るい、塩とドライイースト、ぬるま湯、オリーブオイルと一緒に混ぜあわせる。軽く混ぜあわせてからまとめて、丸めては打ち下ろす。濡れ布巾を掛けて……。
「あ。しばらく発酵させなきゃいけないんだった……」
さてどうしよう、あと1~2時間掛ると言ったらハッグが切れそうだ。
とりあえず軽く腹に入る簡単に作れる物を先に出そう。
というわけで俺は新たな承認を確認して料理を始める。
【生鮭(切り身)=212円】
【グラタン皿=1350円】
【バジルソース=598円】
【にんにく(10kg)=1980円】
人数分の鮭を取り出しマリネして10分。
耐熱容器に鮭を並べてバジルソースを掛ける。輪切りレモンも乗せて彩りをくわえた。
すでに十分温まった石窯にそれらを並べて焼く。
「ほう、美味そうじゃの」
「肉でも良かったんだが、なんとなくな」
焼き上がった耐熱容器を取り出すと美味そうな香りが辺りを漂う。
「出来上がったぜ」
本当はなにか緑の葉でも乗せてやればいいのだろうが、思いつかなかった。若干彩りが寂しいがまぁいいだろう。
「それではいただくか……むほう! この魚はなんじゃ?! ずいぶんとしっかしりた身の魚じゃな!」
いただきますも無く、いきなりハッグが喰い付いた。スポンサーのチェリナを少しは立てろよ……。
他の人間はちゃんとチェリナが食べるのを待っていた。
「それではいただきますね……。これはこの辺の魚ではありませんね。父か兄さんなら知っているかもしれませんがわたくしの知らない魚です。赤みと白身の良い所を合わせたような濃厚で繊細な味がたまりません。それをこの緑のソースが引き立てます。オリーブオイルが全体にしっとりと染み渡り、舌触りも気持ち良いですね」
「相変わらずの食レポありがとうよ」
お嬢が他の人間に促すと、欠食児童の様に残りの人間が鮭とバジルソースのグリルにかぶりつく。
「美味い」
ヤラライはいつもどおりだ。
「ほう……どうしてただ焼くだけなのにこんな大仰なもんを作らなきゃいけなかったがわかりやせんでしたが、こりゃ直火で焼くのと随分と違う焼き加減になるんでやすね……そういやパン窯がこんな作りらしいですが……」
「遠赤外線で熱を通すから、中まできっちり火が通るんだよ」
「エンセキガイ……が何かわかりやせんが、熱が火を当てるだけじゃないとわかっただけでも面白いでさあ」
「パンも焼けるんだけど、たしか許可がいるんだよな」
「はい。パンだけは絶対に手を出しては行けない領域です」
なんだろう、米は聖域って言葉を思い出した。
「うーん、これから作るのがパンにならなきゃいいんだが……」
「パンなのですか?」
「生地の作りは似てるんだよな……」
「もし今回の試作がパンに該当するようであれば、口をつぐんで二度と作らないようにしましょう」
「それがいいかもしれんな。ここで作る分には安全なんだよな?」
「はい、ここにいる人間は問題ないでしょう。販売するわけでもありませんから」
「じゃあ、生地も膨らんできたし続けるか」
気温が高いせいか発酵が早い。
生地をガス抜きしてもう一度丸める。二次発酵だ。
これも少々時間が掛るので、先ほどの余りの材料で適当にグリルを作って出してやった。
「この石窯で熱を通すと直火よりジューシーに焼き上がりますね」
「基本肉でも魚でも焼けるぜ、熱の管理は慣れがいると思うけど、試行錯誤すればすぐだろう」
少なくともこの街で普及しているカマドに比べれば格段に火加減はやりやすいと思う。
「ま、俺が出来るのはこのくらいだから、後はお前たちで創意工夫してくれ」
「はい。十分です」
醤油ベースや、オリーブベース、塩ベースのグリルを摘んでいるあいだに生地の発酵が終わる。
空はもう陽が落ち暗いオレンジ色の地平が広がっていた。
俺は生地を指でひょいと回して伸ばす。上司の孫にせがまれて練習することになった技だ。こんなのがいくら上手に出来たところで給料は上がらないのだからたまらない。
正直仕事の内容と稼げてる額を考えるとこっちの世界のほうが恵まれている気がするぜ。所々にクソゲーが割り込んでくるが……。
さて、それよりピザだ。最初ソースはトマトホールから作ろうと思ったが面倒だったので市販のソースを承認させる。
【ピザソース=317円】
伸ばした生地にピザソースを塗って、用意してもらっていたチーズとベーコンを並べて、石窯に入れた。すでに熱が充満している石窯のおかげであっという間にチーズが泡立ち美味そうな香りが漂ってきた。
「出来たぜ」
取り出したピザを8等分に切り分けて、俺は一切れ味見してみる。
「熱っ! ……うん。想像よりチーズにコクがあって美味いな。生地はイマイチかもしれん……」
かなりやっつけで作った生地は発酵が足りないのかちょっと舌触りが悪い。だがそれ以外は概ね合格だろう。
「ふむ。変わった見た目じゃな。……うむ! これは不思議な触感じゃな! 薄いパンにも見えるがメインはチーズとベーコン! 最初はベーコンをケチりおってと思うたが、なるほど全体的に塩気が強いから量はこの程度で良いんじゃな」
「はい。むしろ余計な味付けはチーズとソースの味を殺しますね、下のパン生地も薄く作っていますから全体的なバランスを考えるとオカズの部類になるでしょうか?」
「美味い」
「こりゃあ……舌が落ちる味でさあ」
なかなか評価が高い。もともとパン食文化圏なので受けが良いのかもしれない。
「気に入ったなら良かった。基本的にチーズがあれば、味付けは千差万別だな。これも工夫次第でどんな料理にでも化けると思うぞ」
「はい。……しかしこれは……パンなのか別の食べ物なのか……」
「お嬢、もしこれを商品化しましたら間違いなくパン屋ギルドが噛み付いてきまさあ」
「わかっています……逆にパン屋ギルドにレシピを売るほうが建設的かもしれませんね」
「なんじゃ、こんな美味いもんがまた自宅で作ったらお縄になるとか言うんじゃなかろうな」
ハッグが3枚目のピザを頬張りながら眉をひそめる。
「自宅で作るのはかなりグレーですが……パンの扱いになれば厳しいでしょう。わざわざ危ない橋を渡る必要はありません」
「ヒューマンはまったく理解不能じゃな……美味いもんは皆んなで作って皆んなで食べるのが一番じゃというのに」
「わたくしもそう思いますわ。しかしパンだけは国に密接に絡んでいますからね。せめて王家に顔が利くのであればやりようがあるのですが、どちらかというと逆ですからね」
俺は例の豚王を思い出す。
チェリナがピザを売り出したら間違いなくそれはパンだと難癖つけてチェリナを連行するだろう。まったくままならない。
「パン屋ギルドに売り込みを掛ける形を取れれば、商品開発名義でこれからもわたくしたちは作れると思いますよ」
なるほど、ただでは転ばないのね。
「まあその辺はお前に任せるさ、基本的な常識もわからんしな」
「腕が鳴りますね」
チェリナと話している間にも次々とピザが焼かれている。すでにヴェリエーロ商会の人間が調理を担当していた。
「さて、腹もくちくなったし俺は風呂に入る」
「はあ」
やはり未だに俺が風呂にこだわる意味がわからないらしく、マヌケな返事を返すチェリナ。
「まあお前はゆっくり食っててくれ」
俺はチェリナの返事を待たずにレンガ風呂の様子を見に行く。すでに焼きは終わっていて、もう水を入れても大丈夫そうだった。この辺はドワーフのハッグや技術畑のヴェリエーロ幹部らが頑張ってくれたおかげだろう。普通こんなに早く作れない。しかも今まで作ったこともないものであればなおさらだ。どっちも凄いスキルである。
技術と資材と資金の無駄遣いをさせていることは自覚しているが、まぁチェリナには大分儲けさせてやっただろう。このくらいは貸しの範囲だと思う。たぶん。
バスタブに水を貼るのにバケツで何度か水を入れていく。
熱湯でも良かったのだがせっかくお湯を沸かす機構を作ってしまったので、テストしないとな。
この水代も他の雑費と合わせてチェリナが支払ってくれた。個人的な出費だったのだが100円にも満たないからとコロコロと笑われた。1円を笑う者は1円に泣くんだぜ?
テストで大量に作られた炭の、品質が悪い方を使うことにする。ここで良品質の物を使う意味がない。
バネ状に巻かれた鉄パイプを熱すると、ゆっくりと中の水が温まり対流が始まったようだ。
いつの間にか用意された篝火が風呂の水面を照らしている。
温度差で僅かに表面が揺れているのでこのまま放置すればいずれお湯も沸くだろう。
俺は衝立を借りて、適当に小屋から見えないように並べていく。正面は大河である。水の色は茶色だがこの時間であればあまり目立たない。それよりも篝火に照らされた河沿いの植物や川面の流れがこの土地の香りを教えてくれる。
俺は篝火の位置をずらして、あまり風呂を照らさないようにする。すると夜空には星の海が広がっていた。よく見ると天の川の様により明るいラインが走っている。きっとこの星が所属する銀河の厚みなのだろう。夜が暗いと言うことはやはりこの惑星も銀河の端に位置するのだろうな。
今日は2つの月も半分以上欠けていて星がよりクリアに見渡せた。全ての篝火を消したらきっと星空に沈むような体験が出来るだろう。荒野に放り出された初日の夜を思い出す。
……センチメンタルは俺に似合わんな。
いつの間にやら風呂が適温になっていたので、炭を横にずらしてこれ以上熱くならないようにしてから、俺は服を全て放り出した。
少し熱目のお湯にゆっくりと浸かると、身体の芯から溶けるようだった。
「はぁ~地獄か極楽か」
俺はタオルをコンテナから取り出して頭の上に乗せる。行儀悪く一度湯船でお湯を漬けてから絞ってやった。こっちに来てから好き放題やってるなぁ俺……。
タバコを咥えながら湯船に浮かぶ星空を楽しむ。
もしかしたら俺の人生でも1、2を争う幸福な時間かもしれない。
そのまま湯に溶けるように思考が沈んでいく。身体がお湯なのか星なのか区別がつかなくなった頃、茹だった。
「うん……熱い」
俺はのそりとレンガ風呂の縁に腰を降ろして身体を冷やす。レンガなので肌へのアタリが悪いのが欠点か。プラスチックなんて存在しないから滑らかに作るのは難しいだろうな。
身体の熱をゆっくりと吐き出している途中、衝立の向こうから誰かがやって来た。篝火を動かしてしまったので良くわからない。ヤラライかハッグあたりだろうか?
「アキラ様?」
「んあ? チェリナ?」
「はい、随分と時間が掛かっているようですが何か問題でもぉああああ! な! なんで全裸なんですか!」
俺の目の前に現れたと思ったら全力で回れ右するチェリナ。
「風呂は全裸で入るもんだ」
「そっ! は! 恥ずかしくないんですか?!」
「街中だったら恥ずかしいが、風呂で服を脱ぐのは普通の事だしなぁ。お前も入りに来たのか?」
だったら着替え終わるまで待って欲しい。
「ちっ違います! 遅いので心配しただけです! それがなんで全裸なんですか!」
「だから風呂だからだって。服を着たまま風呂に入ったらおかしいだろ」
「知りません! 知識としてお湯に入るというのを知っていただけです!」
「そうか、なら教えてやろう、風呂は服を脱いで入るものだ。このあと入るならちゃんと全部脱いで入れよ」
「入りません! あと全裸で腰に手を当ててこちらを向かないでください!」
だったらその指の隙間からちらちら覗くのをやめたまえ。
きっと彼女から見たら俺の背後にはでっかく「どーん!」とか見えるんだろうな。
「そうか……俺は温まったし、そろそろ出るぞ。ハッグやヤラライに入りたかったらどうぞと伝えてくれ」
俺はタオルで水気を拭いながら気がついた。
「しまった。排水の事を考えてなかった。こりゃ失敗だな」
そう、排水用の穴と栓を作るのを忘れていた。もし次に作るなら排水口を……とも思ったがチェリナの反応を見る限り2号以降は作られないだろう。俺は服を着終わるが、未だにチェリナはその場で固まったままだった。
「おい、戻るぞ」
チェリナの肩を軽く叩たく。
「うひゃい!」
変な悲鳴を上げて30cmは飛び上がった。ちょっと面白かった。
逃げ去ったチェリナを放置して、ハッグとダウロには一応排水口の話しをしておいた。
帰り、ハッグとヤラライには頭を下げて走りこみを勘弁してもらった。せっかく風呂に入ったのにまた汗だくになどなりたくなかった。
免除してもらったのは良かったのだが、帰りの馬車でチェリナは一言も口を利かなかった。気まずい。
その夜は風呂に浸かったおかげかいつも以上にぐっすりと眠れた。
神さまよ、この世界じゃ風呂はあんまり受け入れられなかったぜ……。
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馬車の中でチェリナ・ヴェリエーロは考えていた。
(アキラ様のあの身体はいったい……)
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評価・ブクマ・感想(感想は活動報告にて受付中)お待ちしております。
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