表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/289

第61話「荒野の螺旋波動」


「螺旋てなんだ?」


 俺は呆れている3人に声を掛けた。心底説明して欲しい。


「ぬう……よりにもよって螺旋の波動とはのう……」

「俺、螺旋、初めて見る」

「あたりめーだ、螺旋の波動なんぞ大都市でも一人いるかいないかなんだからな、しっかしまた激レアだな、ヴェリエーロお嬢の蛇の波動も相当なもんだが、その比じゃねーぜ」


 男性陣が俺を置いてきぼりでボーイズトークを進めていく。


「よくわからんのだが、珍しいのか?」


 話の流れからすると珍しい型らしい。血液型のRh-みたいなもんか?


「うむ。ドワーフで見たことはないの」

「セビテスに螺旋の波動の使い手がいるって聞いた事があるが、噂でしかねーですわ」


 モヒカンマックス師匠が付け加える。


「ふーむ、では螺旋の使い手に向いた武具はなんじゃ?」

「どういうことだ?」


 なんでいきなり武具?


「波動の型にそれぞれ得意な武具というのがあるんじゃよ、ワシの「殻」なら鎚や盾、金属鎧なんぞが向いておる」


「へえ、チェリナの「蛇」ってのは?」

「ワシャ知らん」


 さいですか。


「武器ならムチやロープ、鎧であれば革やスケイルメイルが向いているらしいですわ」

「ああ、それでお前は鎖なんてけったいな武器を使ってるのか」

「そういうことです。船に乗ることが多いですから、ロープの扱いが得意になるこの波動は大変に役になっていますわ」

「適材適所だな」

「お嬢に頼みがあるんですが……」


 マックスがしおらしくチェリナに頭を下げる。俺にも同じ態度を取って欲しいと切に願う。


「はい……ああ、例の書類を読むのですね?」

「恐縮です。俺は文字がほとんど読めないんで……おい! 誰か波動の巻物を取ってこい! 3秒だ!」


 遠巻きにこちらを窺っていた世紀末下っ端共が転がるように近くの掘っ立て小屋に雪崩れ込み、1本の巻物を奪い合ってこちらに持ってきた。

 片目に殴られアザをこさえた狐っぽい男がドヤ顔で巻物をマックスに差し出したのだが。


「遅せえ!!!!!」


 思いっきりマックスに殴られて反対側の柵までふっ飛ばされた。死んだんじゃねぇのか……あ、起き上がった、両目にアザが出来てパンダになってやがる。しかしこのマックスというニワトリのおっさんは理不尽過ぎるぜ。


「すいやせんね、お嬢をお待たせしまして」


 そのくせチェリナには腰が低い。権力に弱い脳筋って最悪じゃねーか……。


「かまいませんよ。懐かしいですね、わたくしの波動が蛇と判明した時もこの巻物を拝見させてもらいました」

「ええ、だいたいの波動は暗記してるんですが、レアまでは……まったくすいやせん」

「問題ありませんよ……ああ、ありました、螺旋の波動の得意武器は……不明……」

「「「……」」」


 不明かよ……まあ、そもそも戦うつもりとか無いからどうでもいいんだけどよ。


「続きがありますね……槍と無手が向いていると予想されている。防具は完全に不明」

「「「……」」」

「まあ何でもいいんだけどよ、根本的に俺が武器持って戦うのとか無理だし」

「まずはお主の性根から鍛え直すのが先かもしれんの」


 恐ろしいことを言わないでください。


「出来れば遠慮したい」

「アキラ、男、鍛える、普通」

「俺の故郷じゃ普通じゃなかったんだよ」


 ヤラライは目を丸くした。なんでそんな道の真中で淹れたてコーヒーを見つけたみたいな目を向けてくるんだよ……。


「お嬢さん、どうしますかい? とりあえずの基礎だけ叩き込むなら1~2週間も預けてもらえりゃなんとかしてみせますが?」

「いえ、それには及びません、本日はありがとうございました。これはお礼です」

「おおお! こんなに! いつでもお越しくださいな、大歓迎ですから!」


 金貨を握らされたマックス師匠が喜色満面で頭を何度も下げる。権力だけでなく金にも弱いらしい。


「それではお(いとま)させていただきますわ」

「おう! てめえら! お嬢に挨拶せい!」

「「「あざーすっ!」」」


 それは挨拶なのだろうか?


――――


「しかし……螺旋とは予想外じゃった……」


 ドワーフ髭を撫でてから腕を組む。


「ええ、しかし当面は基礎だけでしょうから、問題はありませんね」

「うむ。ワシは槍は使えんが、無手ならそこの雑草エルフが知っているじゃろ」

「お前、無能」

「なんじゃと! 貴様は波動理術を教えられんじゃろが!」

「精霊理術覚える、波動理術使えない、前提が違う」

「ふん! エルフは屁理屈ばかりじゃな!」


 ハッグがずだんと足を踏みならした。


「文句あるなら、槍、体術、お前、教えろ。出来るなら、な」

「体型も筋力も違いすぎるわ! 教えたくとも教えられんわい!」

「いっそ教えないという選択肢はどうだろう」


 すかさず俺がインターセプトを試みる。


「「それはない」」

「……さいですか」


 どさくさに紛れて訓練自体をなかった事にしたかったが、こういう時だけ息ぴったりの二人にげんなりする。だったら普段から仲良くしてやがれ。チクショウ。


「とりあえずアキラ、呼吸法からじゃな。ワシの真似をするんじゃ」


 ハッグは腰を落として不思議なリズムで呼吸を繰り返す。ひっひっふー。違うな。もっとゆっくり沈む感じだ。

 5分ほど真似して呼吸していると、鳩尾の下あたりに妙な熱を感じる。


「お、コツを掴み始めたの。その感覚を維持して呼吸を繰り返すんじゃ」


 俺は返事をせずに呼吸に集中する。返事をしたら崩れそうなのだ。リズミカルな呼吸に合わせて身体の内から何かが湧きだして、体全体を包みこんでいた。初めての感覚である。


「アキラ、才能、ある」

「マジで?」


 ヤラライの褒め言葉に思わず反応してしまうと、急激に包み込む力が縮んでしまった。


「こらぁ! アキラ! 気を抜くんじゃないわ! もう一度じゃ!」

「おおう、すまん」


 慌てて呼吸を繰り返すと先ほどよりスムーズに力が身体を包む。


「よし、そのまま歩くんじゃ」

「……お、おう」


 出来るだけ呼吸を維持したまま、足をゆっくり動かす。身体を包んでいた妙な感覚が揺れ動くがなんとか抑えこむ。カップラーメンが出来上がる程度の時間で、力が散らずに歩けるようになった。


「ふむ。悪くないの。マックスの腕はなかなか良いようじゃな。波動の気を丹田への送り込むのが上手かったようじゃな。体内の波動がしっかり活性化しておるわ」


 もしかして、あの強烈な掌打もどきの事だろうか?


「よしアキラ! その感覚を維持したまま駆け足じゃ!」


 俺は大股歩きから、ゆっくり走りだす。力が散らないように注意しながら速度を上げていく。安定して走れるようになった時に気がついた。


「あんまり、疲れない?」

「うむ。闘気……違うの、波動理術の特徴じゃ。身体を使う事に関して、波動が発動していれば疲れにくく肉体の状態も数段階上昇するんじゃ。普段より早く走れるはずじゃぞ」

「試して……みる」


 まだ独特の呼吸法に慣れていないので話しづらいが、だんだん慣れて、呼吸を乱さずに行動できるようになってきた。

 ハッグに言われた通り速度を上げていくと、自分でも驚くほど早く走れる。自分で走れると思っていた1.5倍ほどの速度が出ているのに、息もたいして苦しくならない。


「おお……自分でもびっくりだ」

「凄いですねアキラ様、わたくしはそれが出来るようになるまで3日くらい掛かりましたわ」

「2~3日の違いなら誤差だろ」

「ワシらドワーフは気がついたら使えるようになっとるからのぅ、その辺はよくわからん」

「ガキの頃から使えるのかよ……」


 ちょっと高まっていた気分が一気に沈む。どうやらこの程度はガキの使いレベルらしい。


「俺も、細かくは、知らない」


 ああ、エルフは波動理術を使えない的な事言ってたもんな。


「ふむ、基礎と身体を鍛える為に、アキラはあの小屋までマラソンじゃな」

「へ?」


 ハッグはスパルタだった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

評価・ブクマ・感想(感想は活動報告にて受付中)お待ちしております。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ